パリオリンピック男子サッカー金メダルのスペインが指し示す、日本サッカーの進むべき道
「フェルミン・ボーイズ」
FCバルセロナの新鋭MFフェルミン・ロペスを中心としたスペインは、パリ五輪で金メダルを勝ち取って、その称号を得た。
「フットボール」
彼らは単純にそれを武器にしていた。どうボールを扱い、いつボールを預け、どこで受け、タイミングを見極めてゴールに流し込めるか。ボールを基本にしたプレーで、スペースを使い、作り、実にスペクタクルだった。
決勝のフランス戦の勝利(5−3)は象徴的だろう。延長までもつれたが、「フットボール」で力の差を見せつけていた。フランスがパワーとスピードと地元観客のあと押しで強度を見せてくるなか、失点するシーンもあった。しかし要所でプレスをはがし、そこからは鮮やかなボール運びでゴールへ迫り、"必然の得点"を生んでいた。
日本戦で2得点、決勝戦でも2ゴールを決めたフェルミン・ロペス(スペイン) photo by JMPA
たとえばフェルミンの1−1とする同点弾など、実に軽妙だった。サイドへの展開からスペースを作り、インサイドにボールを流し込み、間髪入れず、バックラインの前に入り込んだフェルミンがさらにボールを受け、そのまま打ち込んでいる。
「スペースお化け」
そう言われるほど、フェルミンはスペースに突然、現れる。そして、受けたボールの技術の高さで勝負をつける。バルサでシャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタの系譜を継いでいる。ボールをどこに流すべきか、どこにこぼれてくるのか、それを予測するだけの技術的鍛錬を受けている。その技術のおかげで逆転弾の場面でも、スペースに走り込んでこぼれ球にも反応、必然でゴールを決めているのだ。
ティエリ・アンリが率いたフランスは、決して弱くなかった。だからこそ、90分間で3−3に追いついた。アスリートとしてはスペインの選手たちを上回り、体格で勝り、士気も高かった。しかし、プレー内容は凡庸を極めた。スペインのプレーについていけず、ラフなファウルを連発し、中立地やアウェーだったら許されなかっただろう。延長での惜敗も、「技量の差」は歴然だった。
そして金メダルのスペインは、日本サッカーにも進むべき道を指し示していた。
【バルセロナ育ちが大量に選ばれて】
「スペインはサッカー大国、日本が彼らのようにできるはずがない」
そんな意見もあるだろう。しかし本気で「ワールドカップ、ベスト8」を狙うなら、スペインに比肩するようなサッカーで、強豪を打ち倒すしかない。体格で劣る日本がフランスのような強度の高い、効率的なサッカーを真似ても、たかが知れている。偶発的にジャイアントキリングを起こせても、その強さは一過性で受け継がれることはない。
スペインは育成年代から、とにかくボールプレーにこだわっている。それもポゼッションのためのポゼッション、ではない。今やモダンサッカーにどんどん適応し、選手のキャラクターや質も変化。ユーロ2024では、ガーナ系のニコ・ウィリアムズ、モロッコ系のラミン・ヤマルという新鋭たちがスペインという育成環境で爆発的な成長を見せたように、常に革新がある。
フェルミン以外のパリ五輪金メダルメンバーにも、バルサ下部組織ラ・マシアで育った選手たちが大勢いた。GKアルナウ・テナス、DFエリック・ガルシア、パウ・クバルシ、ファン・ミランダ、MFセルヒオ・ゴメス、アドリアン・ベルナべ、FWアベル・ルイスなどの選手がボールプレーの素質を見込まれ、とことん鍛えられてきた。彼らはフランスの選手のように大きくも強くも速くもなかったが、俊敏でうまく、何より賢かったのである。
彼らと同じような体格の日本人も、「フットボール」を基準とすべきだろう。
人は勝負を目の前にすると、すぐに効率を目指し、フィジカルやメンタルの強さで勝とうとする。「ハードワーク」や「縦に速いサッカー」など、その典型だろう。しかし、それはボールゲームにおける重要な要素のひとつであっても、戦いの軸ではない。ハードワークでボールを受け、もしくは相手のボールの繋ぎを止め、あるいは縦へのボールをしっかり蹴り、コントロールし、相手を脅かす......それらは手法のひとつでしかないのだ。
サッカーは徹底的に「ボール」を追求すべきである。そこからスペースが見えてきて、タイミングがわかってくる。そうした能力に優れた選手を引き上げるべきで、その集団は切磋琢磨し、強さの連鎖を生む。
【日本は何が劣っていたのか】
それを突き詰めてきたスペインは、今や全盛を迎えている。フル代表は2023年のネーションズリーグ、2024年のユーロで優勝。「セルヒオ・ブスケツの後継者は出てこない」と言われたが、ロドリは現在、世界最高のプレーメーカーである。直近のU−21欧州選手権、U−19欧州選手権もともに優勝。そしてパリ五輪でフランスを叩き潰しての金メダルだ。日本が学ぶべきはどのサッカーかは、言うまでもない。
ゆめゆめ、パリ五輪で日本が「スペインを苦しめ、その域に達していた」などと考えないほうがいい。細谷真大のゴールがオフサイドではなかったら......と言うが、やはりオフサイドだった。百歩譲って得点になったとしても、後半はまるで歯が立たなかった。90分間を戦うサッカーでは、紙一重が大きな差になるが、ボールを握り、つなぎ、運ぶ、の点で明らかに劣っていた。
その事実を正面から受け止めない限り、「いつかは勝てる」となって、たとえ勝っても、そんな神風は何度も吹かないだろう。
「ボールを持っている時間を長くする」
カタールW杯後、森保一監督はそう言って、「ベスト8」に向けた意気込みを語っていた。あの大会で、ドイツ、スペインを立て続けに撃破したことが、どれほど神がかった結果だったか、関係者なら全員、知っている。逆に言えば、それが再び起こる確率は低い。必然で勝てるような構造に作り直さなければ、一敗地にまみれることになる。
スペインの五輪金メダルはその教訓を与えている。