パリオリンピックで「決勝ラウンド進出」を掲げて臨んだ男子日本代表は、3連敗という失意の結果で戦いを終えた。

 それはまだ世界のトップクラスと差があることを露呈したものではあったが、同じ3連敗であっても3年前の東京オリンピックより強豪国相手と伍してやれる時間は増え、着実に成長している姿を見せることもできた。

 とりわけ、フランス戦では延長の末に敗れたものの、勝利に肉薄したことは、日本以外のファンやメディアにも衝撃を与えるものだった。

 こうした今回の戦いぶりは、海外メディアの目にはどのように映ったのだろうか。フランスの月刊バスケットボール専門誌『BASKET』の編集長ヤン・キャスビル氏に話を聞いた。

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河村勇輝がフランス相手に29得点と奮闘したが... photo by FIBA

── キャスビルさんはホーバスジャパンの予選ラウンド3試合を現地で取材して、日本のバスケットボールスタイルについてどういった印象を受けましたか?

「日本はリール(予選ラウンドの開催地)で私の好きなチームのひとつになりました。コミュニケーションを積極的に取り合う姿勢が気に入りましたし、彼らのエネルギー・熱量は見ている人たちにも伝わってきます。ゲームに対するアプローチが本当にいいと思いました。

 日本はサイズやペイント内の強さの足らなさなど、自分たちの弱みをよく理解していて、それを隠すよりも自分たちの強みにフォーカスしていました。決して受け身になることもなく、ディフェンスではゾーンを使ったり、オフェンスでも自分たちの強みで勝負しています。私はその姿勢に、とても好感を持ちました。トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)には脱帽です。

 彼が女子日本代表HCだった時、このスタイルですばらしい仕事をしました。そして今、男子日本代表HCでも、彼のスタイルはモダンでエネルギーにあふれていて、見ていて本当に楽しい」

【八村塁の能力を活かしきれなかった理由】

── 日本の中心である八村塁(SF/ロサンゼルス・レイカーズ)や渡邊雄太(SF/千葉ジェッツ)、河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)らのプレーについて、どう見ましたか?

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。


『BASKET』編集長ヤン・キャスビル氏 photo by Kaz Nagatsuka

「八村塁はとてもいい選手です。ただ、ヤニス・アデトクンボ(PF/ミルウォーキー・バックス/ギリシャ代表)もそうですが、八村のようなフィジカルで強い肉体を持った選手は、FIBAの試合よりもNBAのほうがより効果的なプレーができる。FIBAの試合はコートが狭く、より組織的なゲームでディフェンスも集団で行なわれるからです。バスケットに近づくためには、ボールをより長く保持しなければなりません。

 それに対して、日本のスタイルはボールを動かすことなので、誰かが5秒もボールを持ち続けることは効果的ではない。もちろん、大きな体でバスケットに向かってドライブできる八村は、パワー不足のチームにとって重要な選手なので、相手にとって脅威でした。

 渡邊雄太も非常にいい選手です。彼のシュート力は、相手のディフェンスを広げられるものでした。彼はドライブもでき、最初の1歩目からスピードに乗れます。ただ、私としては彼にシューターだけでなく、より頻繁にペイントをアタックするスラッシャーにもなってほしい。

 そして、河村です。はっきり言って今回、彼は私の大好きな選手のリストに新たに加わりました。正直に言うと、彼のことはオリンピックまでほとんど知りませんでした。ヨーロッパにいると、アメリカやヨーロッパでプレーしている日本人のことはわかるのですが、日本国内の選手たちを知る機会はありません。

 3年前の東京オリンピックで、我々は町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)という選手を発見しました。町田は信じられないほどのポイントガードでしたよね。そして今年のリールでは、河村がそんな存在でした」

【八村、渡邊、河村以外に気になった選手】

── 河村選手のどの部分に惹かれましたか?

「河村のエネルギー、モーター(機動力)、クロスオーバー、シュート......好きなところはたくさんあります。河村はとても小さなガードですが、ゲームにインパクトを及ぼしていました。彼はインパクトを与えるだけでなく、試合を支配することだってできます。リールでの河村は、実に支配的でした。『毎試合20得点を奪える』と思わせてくれる選手でしたね。

 あと、吉井裕鷹(SF/三遠ネオフェニックス)についても触れたい。オリンピック前は彼のことも知りませんでした。目立った選手ではなかったですが、私は彼の存在感が好きです。ディフェンスでフィジカルにプレーすること、相手に圧をかけること、コートのどこにでも現れること、リバウンドに飛び込むこと......彼はどんな小さなことでもチームのために、身を粉にしてプレーしていました」

── 日本はフランスとの試合で、勝利にあと一歩まで近づきました。キャスビルさんはどのように見ていましたか?

「試合前、日本が勝つとは思っていませんでした。あなた(筆者)にも試合前に『今のフランスチームは数年前ほどいいとは思わない』と言いましたが、それでもフランスは日本に勝つと思っていました。

 それはフランスに、高さでアドバンテージがあるからです。208cmのジョシュ・ホーキンソン(C/サンロッカーズ渋谷)ひとりで224cmのビクター・ウェンバンヤマ(PF/サンアントニオ・スパーズ)や216cmのルディ・ゴベア(C/ミネソタ・ティンバーウルブズ)、206cmのマティアス・ルソール(C/パナシナイコスBC)といったNBA・ユーロリーグのトップセンターたちを相手にするのは厳しいと思っていましたから。

 ただ、先ほども答えたとおり、日本はいかに強みを生かすかにフォーカスし、試合のペースを握ったのは日本だと思います。ゲームが経過するにしたがって、フランスの選手たちの自信が減っていく様子が見てとれました。対して、日本の選手たちは得点するたび、あるいはポゼッションを取り返すたび、元気よく声を出していました。

 これは女子日本代表にも言えることです。日本はコート上で気持ちを見せることができるチーム。この試合では、アイデンティティを探している最中のフランスと、どういうバスケットがしたいのかがわかっている日本で、非常に対照的でした。

【日本は世界を驚かすことができたのか?】

── 84-80で日本が4点リードで迎えた第4クオーター残り10秒、河村選手が相手の3ポイントシュートを防ごうとしたプレーがファウルと見なされてフランスに追かれたシーンについて、キャスビルさんの意見を聞かせてもらえますか?

「マシュー・ストラゼル(PG/ASモナコ)の4点プレーについてですね。私としては、ファウルはあったと思います。ですが、明確なものでもなかったので、もし笛が吹かれなかったとしても驚きはしなかったでしょう」

── 日本はオリンピックで強豪を倒して「ショック・ザ・ワールド(世界を驚かせる)」と意気込んでいました。3連敗したとはいえ、フランスには肉薄しました。日本は世界を驚かせることができたと思いますか?

「オリンピック開幕前、ホーバスHCがそのキャッチフレーズを使っていたのを覚えています。残念ながら、彼らがそのミッションを成し遂げたとは言いがたいと思います。フランス戦の直後、ホーバスHCは取材対応で『Almost(あと少しだった)』と言っていました。それがすべてではないでしょうか。あとちょっとで、成功が待っていた。

 もちろん、フランス戦ではワンポゼッションで勝利というところまで近づいたので、アリーナにいた人たちやテレビで見ている人たちを驚かせることはできたと思います。そうした人たちは、この試合を記憶するでしょう。

 ただし、スポーツは結果です。時が経てば、それはより顕著となります。今から数年経って、人によってはボックススコアを見て『日本はすごい試合をしたのか』と思うかもしれません。しかし日本が勝っていたら、その衝撃は比べものにならなかったでしょう。

 ですから、日本は世界を驚かせるための道を通っていたと思いますが、それを完遂することができたとは言えません。試合があることすら意識していなかった人たちも驚かせるためには、強豪相手に勝利をあげることが必須だと思います」

【オリンピックで見えた日本代表の課題】

── 世界との差が露呈した日本について、忌憚のない意見を聞かせてください。

「日本のいいことをたくさん述べましたが、少し批評もお伝えしたいと思います。日本は八村が中心で、渡邊はシューター、河村がマエストロ、ホーキンソンはペイントでフィニッシュができ、吉井はチームとして機能させる存在。彼らがチームの核だと話しました。しかし、日本には選手層の厚さが絶対的に足りていません。

 八村がコートにいないと、それはなおさら見てとれましたし、渡邊やホーキンソンがいない場合も同様です。もちろん、主力が少なくても勝つことはできますし、実際にフランス戦はそうなりかけました。ですが、日程の長い大会であれば試合は続いていきますから、勝ち進んでいくためには最低8人から10人の強固なグループがなければなりません。

 また、『ペイントを守る』という点も課題です。ホーキンソンはいいオフェンスを持っていて、背が高くディフェンスでもブロックショットができる選手です。ただ、ペイントを守るという点では、支配的な選手ではありません。

 強力なフロントコート陣がいない場合、オフェンスで得点をしたあと、すぐに自陣のペイントまで戻って守るのは本当に大変なことです。大きな体のフロントコート陣がいれば、相手のオフェンスでもファウルをもらえますから。

 最後に、日本は国際大会で戦う術(すべ)をもっと学んでいく必要があると思います。速いテンポでプレーする日本の試合はたしかに楽しいですし、それが彼らのスタイルだとも理解してします。ですが、日本は速さを使ったひとつのテンポでしかプレーできないようにも見えます。

 速くプレーすることは、悪いことではありません。ですが、勝っていても負けていても、シュートがずっと入り続けることはありません。試合のなかで流れを失ってしまった時にリズムをコントロールして、いかに傷口を小さくできるかが肝要です。

 フルスピードでプレーをすることは問題ありませんが、チームの調子がよくない時もあります。そういう場合でも、ゲームをコントロールすることで試合に勝つことはできるのです」

<了>

※月刊バスケットボール専門誌『BASKET』=2016年創刊。フランスを中心としたヨーロッパとアメリカに関するトピックをカバーしている。選手の人物像に迫ることを重視し、インタビューやポートレートなども掲載。キャスビル氏は『Basket News』や『Basket Hebdo』でジャーナリストとして活躍し、『BASKET』創刊時から編集長を務めている。