プロ野球選手の甲子園奮戦記(9)〜今井達也(西武)

 栃木大会で21イニングスを投げて33奪三振。名門・作新学院の今井達也は、高校最後の夏に覚醒した。2016年夏の第98回大会。甲子園に乗り込んだ今井のピッチングは、さらに勢いを増した。


2016年夏の甲子園で優勝を飾った作新学院・今井達也 photo by Okazawa Katsuro

【甲子園で自己最速の152キロ】

 尽誠学園(香川)との初戦(2回戦)。2回裏に左打者のインハイへの150キロのストレートで1つめの三振を奪うと、つづく右打者に対しては151キロをマークして見逃し三振。3回以降も伸び上がるようなストレートを軸に、スライダー、カットボールを散りばめて三振の山を築く。

 9回裏、最後の打者をこの日13個目の三振に仕留め、作新学院が3対0で勝利。

「今井らしい粘り強いピッチングをしてくれた」

 そう語ったのは、作新学院の小針崇宏監督だ。

 一方の今井は、涼しい顔で自身のピッチングをこう振り返った。

「最初から完封するつもりでした。もう少し緊張すると思っていたんですが、初回から楽しんで投げられました」

 打者がわかっていても「打たれないストレートを求めている」とも語っていた。冬場に中距離走をメインとする走り込みを積み重ねて下半身を鍛え、ストレートの球威が増した。同時に、これまで苦しんでいた制球難を克服した。

「甲子園は実力以上のものを出してくれる場所」

 見えない力も味方にして、今井は確かな成長を大舞台でも見せつけた。

 3回戦の相手は、注目左腕の高橋昂也(現・広島)を擁する花咲徳栄(埼玉)。1回表、先発マウンドに上がった今井は先頭打者と対峙するなかで、自己最速タイとなる152キロをマークした。4回表に1失点、8回表にはソロ本塁打を浴びたが、10個の三振を奪って完投。

「2回裏に味方がビッグイニング(5得点)をつくってくれて、気持ちに余裕が生まれた。自信のある真っすぐで、攻めの姿勢で投げられたのがよかった」

【54年ぶりの日本一達成】

 つづく準々決勝では、大会屈指の左腕・早川隆久(現・楽天)がエースの木更津総合(千葉)と対戦。中盤まで木更津総合打線を3安打、無失点に抑える完璧なピッチングを披露。7回裏、先頭打者への四球をきっかけに1点を失うが、この試合も最後までマウンドを守って勝利。

 明徳義塾(高知)との準決勝は、先発して5回を2失点。2番手左腕の宇賀神陸玖、3番手右腕の入江大生(現・DeNA)が明徳打線を無失点に抑え、味方打線も大量10点を奪って決勝進出を果たした。

 そして1885年創立同士の対決となった北海(南北海道)との決勝戦、今井は甲子園5試合目の先発マウンドに上がった。

 2回裏に1点を先制されるも、3回裏には4番打者をアウトコースへの152キロのストレートで見逃し三振に仕留めるなど、ギアを上げていく。

 打線も4回に一挙5点を挙げ逆転に成功すると、その後も小刻みに加点。今井も3回以降は危なげないピッチングで北海打線を無失点に抑え、7対1で作新学院が勝利。54年ぶりの日本一を達成し、今井の笑顔が弾けた。

 優勝を決めた直後、小針監督は言った。

「選手たちが頑張り抜き、成長してくれた。『うまくなれよ、強くなれよ』と、決勝まで言い続けてきたチーム。選手たちを褒めてやりたいですね」

 成長を続けたチームの象徴が、今井だった。

「最後まで気持ちの勝負だった。甲子園では、1試合1試合、決勝戦だと思って投げました」

 その魂のピッチングは、プロ野球の世界で戦う今も変わらない。

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今井達也(いまい・たつや)/1998年5月9日、栃木県出身。作新学院3年時の2016年、圧巻のピッチングで夏の甲子園を制覇。大会後、U−18アジア選手権でも侍ジャパンのエースとして優勝に貢献した。同年秋、ドラフト1位で西武から指名され入団。プロ3年目の19年にチームトップの22試合に先発登板するなど頭角を現すと、21年は8勝をマーク。23年は自身初の2ケタ勝利となる10勝を挙げた。