この夏の甲子園は突出した力のあるチームがなく、有力校も横一線。また今春から導入された低反発バットの影響で、これまで夏の甲子園は「打てないと勝てない」と言われてきた傾向も変わるかもしれない。そのなかで上位グループを形成するのが、センバツ出場組だ。


春夏連覇に挑む健大高崎だが、エース・佐藤龍月がヒジ痛でベンチを外れるなど不安が残る photo by Ohtomo Yoshiyuki

【春夏連覇を目指す健大高崎はエース不在】

 センバツ優勝の健大高崎は、群馬大会で2度のタイブレークなど九死に一生を得る試合を制し、9年ぶりに夏の出場切符を勝ち取った。

 甲子園初制覇の原動力となった3番の高山裕次郎、4番の箱山遥人(ともに3年)は群馬大会で打率5割以上をマーク。ふたりを中心とした打線はチーム打率.371に加え、三振が少なく、四死球を多く選べる選球眼もある。また5試合で試合数を上回る7本塁打を記録するなど、低反発バットの影響を感じさせない長打力も魅力だ。

 ただ、気がかりなのが投手力。センバツで22回無失点と完璧な投球を見せたエース・佐藤龍月がヒジ痛で甲子園はベンチ外。150キロ右腕の石垣元気、群馬大会初戦で10連続奪三振を記録した左腕・下重賢慎の2年生コンビがどこまで踏ん張れるか。

 夏は6年ぶりの出場となるセンバツ準優勝の報徳学園は、自慢の投手陣の層がさらに厚くなった。2年連続センバツ準優勝の立役者となったドラフト上位候補の今朝丸裕貴、間木歩の両右腕に加え、左腕の伊藤功真(以上、3年)も台頭。3投手合わせて50イニングで与えた四死球がわずか5個と抜群の安定感を見せた。

 打線は打てる打者とそうでない打者がはっきりしているが、兵庫大会では3番の安井康起(3年)が打率.654の大当たり。春の3番から1番に打順が変わった西村大和(3年)、勝負強い4番・斉藤佑征(3年)らの中軸がどんな働きを見せるか。春は「勝負どころで代打を送れなかった」と悔やむ大角健二監督の采配にも注目だ。

 センバツで報徳学園に敗れ、8強止まりだった大阪桐蔭は投手陣が充実。そのなかでも柱になるのは、189センチの大型右腕・2年生の森陽樹。大阪大会では決勝で先発を任され、15奪三振。スプリットやカットボールも使い、1年秋の時点で最速151キロをマークした球速ばかりではないことを証明した。

 同じく2年生右腕の中野大虎も最速149キロの速球に加え、スプリットが武器。制球に課題を残すが、春の報徳学園戦では自らの失策や暴投が敗戦につながっており、リベンジに闘志を燃やしている。3年生でエースナンバーを背負う150キロ右腕・平嶋桂知も控えており、酷暑での連戦にも不安はない。

 打線は例年のような本塁打は出ないが、チーム打率.384を記録。俊足好打の境亮陽(3年)、1年秋から主軸を担う徳丸快晴(3年)らが打つとチームが波に乗る。

 同じくセンバツ8強の青森山田は、投打に充実の戦力で青森県勢初優勝を狙える。エース・関浩一郎(3年)は青森大会で最速152キロを記録したストレートもさることながら、130キロ台中盤のカットボールが圧巻。高校生ではそう簡単に打てないレベルだ。17イニングで12四死球と制球難が課題だが、甲子園の外に広いストライクゾーンの恩恵を受けると難攻不落になりえる。

 援護する打線はチーム打率.401、5試合で6本塁打と強力。八戸学院光星戦で2本塁打を記録した4番の原田純希、木製バットで打率.524、1本塁打を記録した思い切りのいい對馬陸翔(つしま・りくと)の3年生に加え、決勝で満塁本塁打を放った佐藤洸史郎、U15日本代表トリオの蛯名翔人、菊池伊眞(いっしん)、佐藤隆樹ら2年生にも好選手が揃う。レギュラー陣のほとんどは青森山田シニア時代に全国優勝を果たしており、大舞台の経験も豊富。ノリのいいチームだけに乗せると怖い存在になる。

【4季連続出場の広陵は投手力に厚み】

 センバツ16強の2チームも力がある。春夏4季連続出場の広陵は、1年春からエースナンバーを背負う高尾響(3年)が最後の夏を迎える。最速148キロの速球にスライダー、スプリットなど球種も豊富だが、球数が多く、常にいい球を投げようとするため過去3度の甲子園は終盤に大量失点。毎回優勝候補に挙がりながら昨春のベスト4が最高と力を発揮しきれていない。

 ただこの夏は、"高尾頼み"から脱却。左腕の山口大樹(3年)が、広島大会で21回を投げてわずか3安打35奪三振1失点とすばらしい投球を見せた。さらに2年生右腕の堀田昂佑(こうすけ)も安定感が出てきており、投手陣は万全。中井哲之監督が3投手をうまく使うことができるか。

 センバツでは大阪桐蔭に敗れて16強だった神村学園は、昨夏の甲子園ベスト4メンバー10人が残る。昨年から中軸を打つ正林輝大、岩下吏玖(ともに3年)が引っ張る打線は鹿児島大会でチーム打率.403、全5試合で8点以上を記録するなどと低反発バットの影響を感じさせない。

 投手陣もセンバツでは不調で先発できなかったエース・今村拓未(3年)、センバツで2試合に先発して好投した上川床勇希(3年)の両左腕に加え、2年生右腕の早瀬朔に使えるメドがたった。投手陣の踏ん張り次第では2年連続の4強が現実味を帯びてくる。

 センバツでは青森山田にサヨナラで敗れて初戦敗退だったが、春の近畿大会優勝の京都国際の評判も高い。狭いグラウンドで鍛えられた守備は、今夏も京都大会6試合でわずか3失策と健在。

 さらに強みは投手力だ。センバツでは冬に球威が上がったことが災いして力任せの投球になってしまった左腕エース・中崎琉生(3年)が本来の姿を取り戻し、2年生左腕の西村一毅も成長。西村は準決勝で龍谷大平安を8回2安打に抑えるなど、強豪相手にも任せられる存在になった。ふたり合わせて49イニングで7四死球と無駄な走者を出さないのも球数を少なくしたい夏にはプラス。

 また1年時からレギュラーの藤本陽毅(3年)、小牧憲継監督が「ポテンシャルはチーム1」という清水詩太(2年)らの攻撃陣は京都大会で準々決勝以降の3試合連続2ケタ得点を記録。甲子園でも勢いを持続できるか。

【投打充実の智辯和歌山は初戦がカギ】

 センバツ未出場組では、智辯和歌山の戦力が充実。5試合で3失策と堅実な守りで、和歌山大会では決勝で2失点した以外は0失点。看板の打線は、和歌山大会で打率.393を記録。6番の上田潤一郎(3年)が打率.600、2本塁打と好調だ。昨春のセンバツは優勝候補に挙げられながら初戦敗退。さらに昨夏は和歌山大会で初戦敗退と、近年"鬼門"になっている初戦を突破すれば勢いに乗るだろう。

 東海大相模は門馬敬治監督(現・創志学園監督)が去ったあとも能力の高い選手が集まっており、全国でも屈指の戦力を誇る。神奈川大会で驚異の打率.636をマークしたリードオフマン・才田和空(さいた・わく/3年)、原俊介監督が「天才的な打撃」と称する中村龍之介、決勝の横浜戦で特大の一発を放った金本貫汰ら好打者が並ぶ。

 投手陣も140キロ台後半のストレートを投げる左腕・藤田琉生(3年)、2年生右腕・福田拓翔とコマが揃う。甲子園初采配となる元巨人ドラフト1位・原監督がタレント揃いの選手たちをどう導くか注目だ。

 このほかでは、ドラフト上位候補のショート・石塚裕惺(ゆうせい/3年)、最速148キロのエース・上原堆我(たいが/3年)と投打の両輪を擁する花咲徳栄、木製バットで2本塁打を放った宇野真仁朗(3年)のいる早稲田実、沖縄大会決勝で最速149キロをマークした田崎颯士(りゅうと/3年)がいる興南も大会を盛り上げる存在になりそう。

 史上初の午前・夕方の二部制を採用、甲子園球場が開場して100周年など、話題も豊富な第106回全国高校野球選手権は8月7日に開幕する。