インターハイで感じた「高校サッカー格差時代」 日常のリーグ戦のレベルがトーナメントの結果に直接反映される流れに
暑熱対策のため、今年から福島県での固定開催となったインターハイのサッカー競技は、昌平高校(埼玉県)の初優勝で幕を閉じた。普段のリーグ戦(45分ハーフ)とは違う35分ハーフ、かつ冬の高校サッカー選手権に向けたチーム作りの途中であるため、波乱が起きやすいと言われる大会だが、全体を通してみれば順当と言える勝ち上がりだった。
高校サッカー夏のインターハイは強豪が順当に勝ち上がり(写真は決勝の昌平vs神村学園) photo by Matsuo Yuki
都道府県予選を見ても、波乱と言える結果はプレミアリーグ(全国を東西2つに分けた、高校年代最高位のリーグ)に所属する前橋育英高校(群馬県)の敗退ぐらいで、ほかは前評判が高かったチーム、地力のあるチームが全国大会に進んでいる。チーム力が順当に結果として表れた大会と言えるだろう。
本大会上位勢の顔ぶれは、そうした傾向を顕著に表している。準々決勝に進んだ8チームのうち7チームが、プレミアリーグに所属するチームだった。残る1校の桐光学園高校(神奈川県)も現在はプリンスリーグ(地域リーグ)の関東2部に所属するが、過去にはプレミアリーグに所属していた経験を持つ全国屈指の強豪校だ。
「全国大会のベスト4以上の戦いが、毎試合のように続く」(帝京長岡高校・古沢徹監督)という高校年代最高峰のプレミアリーグを戦うことでプレー強度が高まっていくメリットは大きい。プレミアリーグには、世代別代表に選ばれる選手がズラリと並ぶJリーグのユースチームがいて、そうしたところとやり合うには守備を固めるだけではなく、攻撃もできなければいけない。うまさだけではなく強さ、速さも求められる。年間を通じて厳しい勝負をし続ける経験は選手の血や肉となり、チーム力につながっているのだ。
実際、今大会でプレミアリーグ勢がプリンスリーグ勢、さらにカテゴリーが下の県リーグ所属勢と対峙した際は、力の差を感じる試合内容が多かった。今大会、準優勝した神村学園高等部(鹿児島県)は6試合で27得点3失点と大差をつけての勝ち上がり。帝京長岡高校(新潟県)も3回戦までの3試合で13得点無失点、青森山田高校(青森県)も1、2回戦で大勝している。
大差がつけば次戦以降を見据えて、主力を早めにベンチに下げることで体力を温存できる。これまでよりも暑さがマシな福島県での開催とはいえ、炎天下のなか8日間で6試合を戦う連戦で、大勝が持つ意味はとても大きい。
【選手はリーグ戦のカテゴリーで進学先を選んでいる】プレミアリーグに所属する利点は、そうしたプレー面だけではない。選手のリクルート面にも大きな影響を及ぼしている。
近年、多くの日本人選手がヨーロッパに渡っているように、アスリートはより高いレベルを求めている生き物だ。育成年代も全く同じで、高校年代の選手に話を聞くと高1年代でリーグ戦をプレーできるか否かとともに、そのリーグ戦のカテゴリーで進学先を選ぶ傾向が強まっている。
高校サッカーの場合、Bチーム以下もリーグ戦への参加が可能で、青森山田と尚志高校(福島県)、静岡学園高校(静岡県)、大津高校(熊本県)はBチームがプリンスリーグに所属。帝京長岡にいたっては今年からBチームがプリンスリーグ北信越1部、Cチームがプリンスリーグ北信越2部、Dチームが新潟県1部リーグを戦っている。
選手としてはAチームでプレーできなくても高いレベルで戦える点はメリットだ。複数カテゴリーに参戦できるだけの指導体制やプレー環境が整っている高校が増えているなかで、プリンスリーグや県リーグを主戦場とする高校に、有望選手の目が向かなくなるのも自然な流れと言えるだろう。
チームとしても、下級生のうちからBチームで経験を積んでおけば、代替わりした際もスムーズにチーム作りが進められる。以前、ある高校の監督が「全国大会で上位まで進もうと思うなら、Bチームがプリンスリーグにいなければいけない時代になっている」と口にしていた理由がよく分かる。こうした流れは年々進んでおり、全国大会に出てくる強豪校のなかでも戦力格差は広がっている印象を受ける。
【公立高校のチーム作りはますます難しくなる】年代トップクラスの選手が、プレミアリーグ勢の高校を選び、そこに続くカテゴリーの高校も選手の勧誘に力を入れている。そうなると煽りを受けるのは各都道府県の公立高校で、年々台所事情は苦しくなっている。特に少子化が進んでいる地方都市は深刻だ。
近年、県大会で上位に入る機会が増えたとある公立高校の監督が、今年の県予選でこんなことを口にしていた。「うちが力をつけているとは思っていない。1学年だけでチームを組めない高校が増えてチーム力が落ちているなか、うちは今までと変わらず毎年30人近い生徒がサッカー部に入ってくれて維持できている。その結果、うちが県大会の上位に入る機会が増えていった」。
地方の場合、最近は高校進学の際、県外に行ける強豪校があれば、そこに行くのが子どもたちにとってのステータスになっていて、やる気のある選手ほどそうした強豪校に進んでいく。次のクラスの選手も上位カテゴリーに所属する県内の私立を選ぶため、1学年で1チームを組めない部員数の規模の公立高校が増えている。
少子化が急速に進むこの先は、合同チームが見慣れた光景になっていくのは間違いない。エンジョイ志向と競技志向の二極化も進んでおり、受験に専念するためインターハイを機に部を離れる選手が増えているという話もよく耳にする。
選手獲得が難しくなっているのは、これまでコンスタントに全国大会に出場していた体育科のある公立高校も同じだ。「これまでは毎年、県内の良い選手がたくさん来てくれていたので1学年だけでAチームが組めていたけど、今は少なくなっている。下級生を含めたメンバー構成をしなければいけない」。
そうした嘆きが聞かれるのは一つの高校だけではない。そんな高校がもし予選を勝ち抜いて全国大会に出場しても、プレミアリーグクラスのチームと互角に戦うのは容易ではないだろう。
少ないサッカー選手の取り合いが進んでいく今後は格差がさらに進むと予想され、予選や全国大会での番狂わせは減っていくだろう。これまでは「リーグ戦とトーナメントは別物だ」と言われていたが、現在の高校サッカーではピッチ外の環境がピッチ内の質に、より密接につながっている。リーグ戦で強いチームが、トーナメントでも強い時代に突入している。