スペインに敗れたU-23日本代表【写真:ロイター】

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スペインとの準々決勝で示された差を実感も「戦える集団だった」

 現地時間8月3日、大岩ジャパンの旅はパリ五輪準々決勝で終了した。

 U-23アジアカップ優勝でグループとしての精度と団結は高まったものの、本大会に向けてオーバーエイジもこの世代の主力も招集できず、幸か不幸かそれまでの形で臨むことになった。世間からの評価や注目度はなかなか高まり切らなかったが、それでも優勝した先には求めた世界があるはずだと信じて戦い、そして敗れた。

 大岩剛監督も、それまでの取材現場では極めて慎重に言葉を選び硬い表情を崩さないよう努めていたが、試合後は涙にくれた。

「我々が多少は評価が低いなかで入ってきて、勝つことでの注目があった。それに流されず、ブレずにやれたのは自信にもなった。賛否あると思うけど、U-23の選手だけでやれたのは価値があると思う。負けた事実はあるので自信がどこまで付くか分からないけど、今後の彼らのサッカー人生で少しでも頭に残っているような大会であり、チームであったら嬉しい」

 思い入れの強さがひしひしと伝わる。

 同世代だけで戦うことのできる代表はここで終わり。ここからは大人の戦いを勝ち抜いていかなくてはならない。メンバー争いの厳しさは五輪までの比ではないはずだ。

 今大会ではグループリーグ3連勝、しかも無失点という手応えを得て準々決勝スペイン戦に臨んだ。勝負になっていた時間帯もあったが、結局は0-3という大差をつけられた。ありきたりではあるが、日常レベルの差を感じさせられた。つまり、より高いレベルでの試合経験を日常的に積んでいかないとこの年齢でスペインに勝利することはできない。フェルミン・ロペスに決められた1点目は自陣でのボールロストから、ペナルティエリア付近でスペースを与え枠内シュートを打たれてしまった。

 安易なボールロスト、詰め切れなかった中盤、甘いコースに飛んだシュートを読み切り反応したものの止めきれなかったGK。全てに反省が残るが、もしかしたらそれぞれの日常であれば食い止められたもしくは誰かが食い止めてくれるようなシュートシーンだったのだろう。

 2点目もそう。相手の左コーナーキックから、1点目と同じようなペナ外からのロペスのシュート。ロペスはミドルシュート要員としての位置にいるが誰もケアしておらず、反省が残る。EURO(欧州選手権)2024優勝メンバーでもあった彼からすれば、ここは何段階もレベルの下がる舞台だっただろう。そういった相手と戦い勝つには日常を変えなくてはいけないのは当然だ。

差は縮まったが「まだまだ強くなる必要がある」

 藤田譲瑠チマは「みんながチームのことを愛していてチームのために戦える集団だった。それを決勝戦、優勝まで皆さんに見せたかっけど、まだまだ強くなる必要があると感じる。こういう強いチームに負けないように個人としても強くなる必要があると思うし、自分としても上のリーグ、上のレベルでサッカーをして成長したい」と話した。所属のシント=トロイデンでも、ベルギーリーグでの満足な出場機会を得られていたわけではないが、早急に出場機会を増やしさらに上位リーグへの移籍が必要だと痛感したはずだ。

 山本理仁は2年前に大岩ジャパン発足当初に対戦したことを引き合いに出しながら「守備のところとかは以前よりは距離を詰められているかな、と思うので、徐々にこの距離を、彼らも成長すると思うので、倍のスピードで成長していかないといけないな、と思います」と語る。実力差は多少縮まったが、まだまだスペインとの距離があると実感せざるを得なかったようだ。

 ポストプレーの巧さと強さで存在感を発揮した細谷真大は、エースストライカーとしてチームメイトからも期待を受け続けた。結果、1得点。

「取り消しの所含め、自分が決めきるところが2つ、3つあったので。そこで1つ決めていれば流れは変わっていた。FWとしてもっと上に行かないと行けないのかなと思います」

 上に行く、という言葉が何を指すのかは定かではないがJで活躍ののちにでも舞台を変える必要性を感じたのではないだろうか。

一方で海外組の頼もしさも

 一方で、海外組が増えたことによる頼もしさも感じさせた。パラグアイ、マリ、イスラエルといった相手にひるむことは全くなかった。このスペイン戦だって臆することなく戦った。世界との対戦に心躍らす、という段階はとっくに終えていて世界と勝負する、勝ち上がることを選手たちが本気で信じているチームでもあった。

 筆者が初めて五輪を取材した北京大会では「金メダルが目標」と口にしても、半ば夢物語のように響いたが今回は全員がそれを信じていたし実現可能な目標だと周囲にも思わせる力強さがあった。それだけにスペイン戦の完敗は選手たちに大きく響いたはずだ。本気で勝ちに行ったからこその衝撃であればあるほど糧となり実を結ぶはずだ。

 今回は海外組であっても、成長が間に合わなかったU-20杯アルゼンチン大会世代(高井幸大だけが選出された)、久保建英という特別なエリートや鈴木彩艶や鈴木唯人、松木玖生といった移籍を理由に五輪に参加できなかった選手もいた。メンバー以外にも世界を知る選手は多く、今後彼らが代表で合流することが楽しみだ。

 スペイン戦翌々日の2日、内野貴史はすでに所属チームフォルトゥナ・デュッセルドルフでの公式戦のベンチに入っている。

 パリ五輪で流した悔し涙を、いつの日か喜びの涙にするために。彼らに立ち止まっている暇はない。(了戒美子 / Yoshiko Ryokai)