【予選突破を引き寄せた大塚の活躍】

 日本時間8月3日、パリ五輪男子バレーボール競技の日本対アメリカ戦が行なわれた。

 アメリカに2セットを先取され追い込まれた日本だったが、第3セットを25−18で奪った瞬間、日本の準々決勝進出が決まった。各組予選の3位チームのなかで成績上位の2チームに入ることが確定したためだ。


アメリカ戦で石川に代わって出場し活躍した大塚  photo by JMPA

 バレーボールという競技は、あらためて"セットスポーツ"なのだと思い知らされた。たとえセットを奪われても、気持ちを切り替えてその原因を突き止めて修正できるかが重要になる。

 アメリカ戦の第1セットは16−25、第2セットは18−25と大差をつけられて奪われた。迎えた第3セットに日本ベンチが動く。この日、精彩を欠いていたエースで主将の石川祐希に代え、大塚達宣をスタートから起用。従来は石川が入るポジション2(セッターの次にサーブを打つローテーション)に郄橋藍を、2セット目まで郄橋藍が入っていたポジション5に大塚を入れた。

 大塚は自身に上がった1本目のフェイントを拾われるが、その後は強打やブロックタッチを狙うスパイクを織り交ぜて得点を重ね、徐々に流れを日本チームに呼び込んだ。何よりよかったのは、リバウンドを取って攻撃体制を整え、チームが得点を取りやすい状況に持ち込む姿勢だった。"拾ってつなぐ"という日本の持ち味を取り戻したチームは勢いを維持し、あとがない第3セットをモノにした。

 オリンピック開幕前、大塚はこう語っていた。

「前回の東京五輪までの代表での出場機会と、東京が終わってからパリまでの出場機会でいえば、圧倒的に後者のほうが出場機会が増えています。自分でも東京以上に、個人としてチームに貢献できる部分が多くなっていると思う。東京五輪よりも自信を持って、オリンピックの舞台に臨めると思います」

 オリンピックに先立って開催されたネーションズリーグ(VNL)では、故障した郄橋藍に代わって出場し、活躍。日本の銀メダル獲得に大きく貢献した。

「VNLのポーランド戦は自分にとってのターニングポイントでした。気持ちとプレーが一致していたし、自分のよさや自分だからこそ出せる雰囲気など、決定率のような数字だけではない、大切にしている部分が出せた。自分はこういう形でこのチームに貢献できるんだ、と再確認できた試合でした」(大塚)

 スパイクを1本で無理に決めにいこうとせずに、幾度でもリバウンドをとって流れを引き寄せる。そんな泥臭いプレーが大塚の最大の持ち味だ。

「VNLは自分の力で獲った銀メダルという気持ちが大きかったです。しっかり力を見せられた結果で、自信になった大会でした。パリ五輪でも、どういう形で出場するかはわかりませんが、自分が入った時の雰囲気もチームは理解できたと思いますし、途中から入った時にはこれまでどおり、ムードを変えられるようにプレーするだけです」(大塚)

 第3セットからの大塚投入が、グループ予選突破を大きく引き寄せたと言っていいだろう。

【アルゼンチン戦でセッター関田誠大のトスに変化】

 アメリカ戦はセットカウント1−3で敗れ、グループ予選の成績は1勝2敗。で今大会、「史上最強」と言われている日本代表だが、なぜここまでギリギリでの予選通過になったのか。

 まず、初戦のドイツ戦に敗れたことが大きい。世界ランキングはパリ五輪開催前の時点で日本が2位、ドイツが11位だったが、現状、男子バレーボールは世界ランキング10位くらいまでのチームはどこが勝ってもおかしくないほど力が拮抗している。それだけに油断は禁物だった。

 しかし、オリンピック初戦という緊張感と「油断してはいけない」という慎重さからか、試合開始早々、日本らしくないプレーが目立った。第1セット序盤、郄橋藍がリバウンドを狙ったスパイクを打つが、返ってきたボールが2名の選手の間にポトリと落ちる。これまでの日本であれば難なくつないで、自軍のチャンスボールにできていたはずだ。つないだボールをスパイカーが決め、日本に有利な展開を作ることで勝ってきたチームである。

 その後、VNLの日本戦には出場していなかったドイツのギョルギ・グロゼルの連続サーブで失点するなど主導権を握られた。第2、第3セットを奪い返し、第4セットは28−28までもつれるものの、最後は石川が2連続でスパイクをミス。第5セットも奪われ、波に乗りきれないうちに試合が終わってしまった感が強い。

 続くアルゼンチン戦では、セッター関田誠大のトスワークに変化が見られる。決定率が上がらない石川を含め、アウトサイドヒッター陣に負担が少ない状況で決めさせようとしたのか、序盤から積極的にクイックを多用して相手ブロックを翻弄した。

 もともと関田の一番の長所は、バックアタックを含めたセンターラインの攻撃を効果的に使えるテクニックだと筆者は思っている。ミスが即失点につながりやすいため、クイックへのトスを"置きに行く"セッターが多いなか、アタッカーの高い打点を生かし、なおかつスピードのあるトスを上げることができるところが持ち味だ。

 しかしVNLの終盤から石川にトスが集まる場面が増え、それが決まらずに失点するシーンが目立った。チームの戦略であれば仕方ないが、できれば全員の打数に偏りがなく、それぞれの決定率が上がるのが戦い方としては理想的である。

 アルゼンチン戦ではミドルブロッカーの小野寺太志がチーム2位となる11得点を記録。同じくミドルブロッカーの山内晶大もスパイクはもちろん、数字には残らないがブロックタッチを重ねる守備が光った。両名の活躍もあって、東京五輪3位のアルゼンチンに3−1で勝利し、3戦目のアメリカ戦に望みをつなげたことが予選突破につながった。

【石川を「ひとりにしてはいけない」】

 準々決勝は8月5日。相手は2016年のリオ五輪で銀メダル、2022年の世界選手権を制したイタリアだ。石川の復調具合が、日本の勝敗を左右するのは確かである。

 誰かが不調のときには、ほかの誰かが助けるのがチームスポーツの醍醐味だ。実際に、VNLでは故障でベンチを外れた郄橋藍に代わり、試合に出場した大塚が自信を深め、今大会アメリカ戦での活躍につながった。

 初戦でドイツに敗れたあと、コートインタビューで西田有志は「石川選手をひとりにしてはいけない」と語ったが、"石川を孤立させるな"という意味だけではなく、"石川ひとりに勝敗を背負わせてはいけない"という意味も含んでいたのではないか。その後、2試合の西田の鬼気迫る活躍には「自分もその一端を引き受ける」という強い覚悟が見えた。

 石川が日本チームの中心的存在で、絶対的なエースであることは間違いない。19歳で代表入りして以来、時にはひとりで多くの重荷を背負って戦ってきた。それを少しずつ、周囲の選手に渡し、身軽になって準々決勝に臨んでほしい。

 勝敗以上に、石川が本来のプレーを取り戻すことを多くの人が望んでいる。