8月3日、パリ南アリーナ。パリオリンピック女子バレーボール予選、日本は最終戦でケニアを3−0のストレートで下し、意地を見せた。ポーランド、ブラジルには敗れたが、初勝利を飾り、わずかながら決勝トーナメント進出の望みをつないだ。

「ケニアにストレートで勝つ」

 それだけが彼女たちの目標で、見事に達成した。しかしベスト8進出は、アメリカが力の劣るフランスに0−3でストレート負けした場合と、厳しい条件だ。

 ケニア戦で見えた日本女子バレーの現実と希望とは――。


ケニア戦に勝利し観客の声援に応える石川真佑、宮部藍梨ら日本の選手たち photo by Kyodo news

 日本は1セット目から、ケニアを圧倒した。

 アウトサイドヒッターの石川真佑が、巧妙にブロックアウトを狙うスパイクで先取。さらにレフトから石川がストレートの際どいラインに打ち込み、2−0としている。多彩なスパイクは彼女の持ち味で、五輪ではケニア戦でようやく出た。

 その後も、必死に拾う相手を嘲笑うように石川がストレート、クロスと広角に打ち分け、得点を重ねている。そして、25−17と第1セットを取った。

 ところが2セット目は、小さなミスが出た。

 セッターのトスが乱れ、古賀紗理那が無念そうな表情を浮かべる。攻撃が噛み合わず、ケニアのサーブミスに助けられたが、一時は15−16とリードを許した。その後、粘り強く拾った後に、古賀がバックアタックを打ち抜いて、18−17と逆転。さらに、石川がブロックアウトを奪って、20−18とリードを広げた。

 古賀だけでなく、石川が続くことが、本来の日本の形と言えるかもしれない。結局、これで流れを変えた。2セット目も25−22と連取した。

――広角に打ち分け、ブロックアウトも狙いどおり。本来の技巧的スパイクを取り戻したように見えましたが?

 そう問いを投げると、石川はこう返している。

「1、2戦目と、自分自身も出しきれていなかった部分あったので、そこも含めて、"ケニア戦では出しきろう"というのがありました。2セット目は、競ってしまいましたが、今日の一戦にかける気持ちは強かったです。相手がどういう(レベルの)相手であっても、常に自分のハイパフォーマンスを出していかないといけないな、と思っています」

【パリまでの道のりを振り返る】

 背筋を伸ばし、目を据えて答えた彼女は、無念さを払拭できていないようにも映った。それだけ大きな期待を受けていたからだろう。しかし、ケニア戦では遅まきながら才能の片鱗を見せた。

「3試合を終えて、相手もオリンピックにかける思い強かったです。そこで自分たちが押されて、力を出しきれませんでした。オリンピックにかける思いが、相手のほうが上回っていました。これから自分たちがどう改善するのか。自分自身、改善点がたくさんあるので、そこに目を向けてやっていきたいです」

 24歳の石川はそう語り、この戦いを試金石にするはずだ。

 ケニアはポーランド、ブラジルと比べてやや格下で、それが優勢をもたらした。しかし、日本はひとりひとりの選手がブロックやレシーブ、さらに地味なブロックフォローまでやり抜いていたことで、差を広げられたのではないか。しつこくボールを拾い、リバウンドから再び攻め、ラリーに持ち込みながら制する、という得意の形を展開できた。

 たとえば3セット目、3−1とリードした場面で、宮部藍梨が身を投げ出してブロックフォローしたシーンがあった。チャレンジが入って、相手のネットタッチで日本の得点になったため、直接、点数には関係なかったが、味方をサポートする集中力の高さが、自らのプレーにも好影響を与えていたのではないか。

 実際、この日の宮部はクイックでの得点が多かったし、サーブでもレシーブを崩していた。相手のミドルブロッカーがBスロット(セッターの右の位置)をフリーにする状況が多く、単純にセッターがトスを上げやすかったこともあるだろうが......。

――地味なブロックフォローひとつにチームの献身が現れ、勝負の流れを左右したという仮説は?

 そう質問すると、宮部は優しい表情で答えた。

「ブレイクが長く続いたほうがいいので、ミドル(ブロッカー)でフォローもしっかり入って......とは思っていました。他のレシーバーが上げるのも、士気は上がるんですけど、ミドルが上げることにも意味がある、と思っています。極力、レシーブ、(ブロック)フォローに参加するようにしていますね。バレーボールは細かいプレーで明暗が分かれてくると思うので。日本のバレーは繊細さを備えつつも、丁寧なプレーも大事になるのかなと」

 結局、3セット目も25−12と大差で取った。日本は実力の一端を世界に示したと言える。

「初めから厳しい予選になるとは思っていました。やはり、ポーランド戦は勝ちたかったですね」

 眞鍋政義監督はそう言って悔しそうに口元を歪め、パリまでの道のりを振り返った。

「私のミッションは、パリオリンピックの出場権を獲得する、でした。そのために2年3〜4カ月やってきて、ほとんどの選手が初めてオリンピック予選を戦い、1カ月半という長丁場のネーションズリーグで出場権を勝ち取ってくれました。それは大きな成果だと思います。ただネーションズリーグが終わり、本大会まで1カ月ちょっと。2回目のピーキングに持っていくのは難しいというのが正直な感想です」

 眞鍋監督は、選手たちを庇うように言った。

「去年、出場権を取っておかないと本大会は厳しかったですね。世界との差に関しては、中長期ビジョンが必要かもしれません。国内でも最高峰のSVリーグが始まり、高いリーグレベルを経験できるはず。最後は選手たちに言いました。『世界で一番練習してきた。最後ぐらい、楽しく明るくいくのはどう?』って」

 女子バレーは賞賛されるべき戦いをしてきた。念願のパリ五輪、最後に何か足りなかったのかもしれない。しかし、それはチームに残る者が挑むべき課題だ。

「(6日の)準々決勝、可能性がある限りは準備して待ちます」

 選手たちは言った。