パリオリンピック男子サッカー準々決勝、日本対スペインは、ブックメーカー各社によれば、優勝予想の5番手対2番手の対戦だった。0−3という結果は、日本の順当負けを意味する。

 条件的に勝るのはスペインだった。ユーロ2024の優勝メンバーもいれば、オーバーエイジもしっかり3人いる。勝利して当たり前の試合だ。細谷真大にネットをきれいに揺るがされたものの、VARでゴールが取り消されるシーンもあった。少なくともスペインにとって、これは完勝劇ではない。大喜びできない試合だろう。もう一度、試合をやり直したら、より接戦になった可能性の高い、日本にとっては惜しい試合と言うべきだと見る。

 前半なかばすぎから7分あったアディショナルタイムを含む前半終了時まで、流れは日本にあった。前半31分の、山本理仁、関根大輝が連続して最深部を突き、マイナスの折り返しを送り込んだプレーはそれを象徴する局面になる。前半40分、藤田譲瑠チマの洒脱なパスを受けた細谷真大が反転シュートを鮮やかに決めながら取り消しになったシーンだけではない。

 スペインはロープ際に追い込まれていた。想起したのは「うまい選手はうまい選手に弱い」という格言だ。うまい選手はうまい選手を前にすると固まる傾向がある。スピードやパワーで劣るより技巧で劣るほうがダメージは大きい。

 特に、関根、山田楓喜の縦関係に山本が絡む右サイド(スペインの左サイド)は、日本が優位に立っていた。


スペインに敗れて肩を落とす藤田譲瑠チマphoto by JMPA

 日本のスタメンは以下のとおりになる。

 GK小久保玲央ブライアン、左SB大畑歩夢、右SB関根大輝、CB高井幸大、木村誠二、守備的MF藤田譲瑠チマ、インサイドハーフ山本理仁、三戸舜介、左ウイング斉藤光毅、右ウイング山田楓喜、CF細谷真大。

 大岩剛監督は、後半頭から山田に代え藤尾翔太を投入する。山田は縦突破のない選手だ。左足の技巧には優れるが、アタッカーとしての怖さはない。状況は1点ビハインド。CFとしてもプレーする、決定力の高い藤尾を投入したくなる気持ちはよくわかる。

【流れから崩されたわけではない】

 だが、後半開始からほどなくすると、日本の右のコンビネーションは、前半より円滑さを欠くようになっていた。関根は縦に出にくくなっていた。流れを失うことになった原因のひとつだとみる。もう少し山田を引っ張ってもよかったのではないか。結果論を承知で言えばそうなる。

 スペインに追加点を許したのは後半28分。左ウイング、セルヒオ・ゴメスのCKを、はるか後方に構えるフェルミン・ロペスが、図ったように蹴り込んだミドル弾だった。

 完敗の色を濃くすることになった後半41分の3失点目も、同じくセルヒオ・ゴメスの蹴った右CKから許している。大畑、交代で入った佐藤恵允がクリアし損ねたボールを、CFアベル・ルイスに押し込まれた呆気ない失点だった。

 日本贔屓を承知で言わせてもらえば、流れから崩されたわけではない。2点目、3点目はセットプレーからの失点だ。その昔、バルセロニスタは筆者にこう言ったものだ。「セットプレーの得点を喜ぶことほどはしたないことはない」。

 加えて言えば、フェルミン・ロペスが挙げた1点目も、その発端は山本からパスを受けた三戸のレシーブミスになる。プレスを許した産物である。それはそれで立派なゴールだが、スペインらしさを存分に発揮されて崩されたわけではまったくない。一方で日本はポスト&バー直撃弾も2本、放っている。絶望的な負け方をしたわけではない。むしろ前半の戦いに限れば、A代表を含めた過去のスペイン戦のなかで最高だった。

 だが、後半になって尻すぼみしたのは確かである。山田を早く下げすぎたことだけではない。左SBの大畑も、これまでに比べ元気がなかった。左は斉藤の単独プレーが目についた。前半の右に比べると、コンビネーションが働いていなかった。

 交代選手も弱かった。山田→藤尾(後半0分)、斉藤→佐藤(後半22分)、三戸→植中朝日(後半29分)、山本→荒木遼太郎(後半38分)と、大岩監督は4人を代えているが、彼らに局面を打開する期待感を抱くことができなかった。監督は5人枠を使うべきだが、使っていたとしても期待感は募らなかっただろう。

 層の厚さがスペインとは違っていた。オーバーエイジの問題はともかく、あるレベルを超えた選手が、日本が5、6人だったのに対して、スペインはその倍はいた。試合運びに安定感があった理由だ。

 スペインに勝とうと思えば、オーバーエイジの使用は大前提となるが、日本はそれをしなかった。誰が決断したのか定かではないが、欧州組がダメなら国内組で、という選択肢もあったはずだが、それさえも断念した。出場した16チーム中、唯一である。

 つまり、日本の男子はこの舞台に丸腰で臨んだようなものだった。「メダルだ!」と気色ばむメディア報道も目立ったが、筆者はベスト8に入れば御の字だと見ていた。

 ブックメーカー各社の評価も当初は7、8、9番手あたりだった。ベスト8に進むかどうか、微妙なチームだと見られていた。しかし、ベスト8が出揃うとブックメーカーは日本を5番人気に据えた。グループリーグ3連勝を評価した結果だろうが、ブックメーカーの目はアテになるものと考える筆者にとって、この5番目という順位は順当に映る。

 引いた視点で考えれば、丸腰で臨みながらの「5位」は評価されるべき結果だろう。ユーロ2024を制したばかりの欧州チャンピオン、スペインに勝ったら、大事件、大番狂わせだったのだ。攻撃的な正統派のサッカーを披露した大岩ジャパンを、日本サッカーの普及発展に貢献するプレーぶりだったと評価したい。