Netflixで全世界配信中の「ボーイフレンド」は日本初の男性同士の恋愛リアリティ番組だ。ゲイの参加者がひとつ屋根の下で共同生活する(画像:Netflix)

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

テラハっぽい共同生活を映す

Netflixで全世界配信中の「ボーイフレンド」は男性同士の恋愛を描くリアリティ番組です。地上波ではなく、多様性の扱いが一歩先行くNetflixだから実現したのか、ゲイの恋愛リアリティ番組としては日本初。7月30日に全10話が揃い、これまでNetflix公式ランキング「今日のTOP10」で1位を達成するなど、結果も残しています。

中身はというと、淡い青春を切り取ったような内容です。番組が用意した館山の海の近くにあるプール付きビーチハウスで約1カ月の間、ほぼ初対面の一般参加者たちが共同生活する様子を映し出しています。かつての「テラスハウス」を思い起こさせもします。

参加者の人数は全部で9人。下は22歳から上は36歳まで(収録開始時の年齢)。モデルにデザイナー、アーティスト、クラブダンサーといった華やかなイメージの職業が多く、細マッチョ揃いでもあります。


参加者の唯一のミッションはコーヒートラックを運営すること。ただし、美味しいコーヒー作りもひと夏の恋もガツガツしていない(画像:Netflix)

9人の男性全員が番組で出会う誰かと「恋愛をしたい」というモチベーションで参加しています。ひとつ屋根の下で恋愛し放題の状況を作り出すこともできそうですが、あおるルールを設けず、ゲーム性もほぼないこともあってか、ガツガツしていないようにも見えます。若いゲイくんたちが美味しいコーヒーを作りながら夏の思い出を作っているという印象です。編集のこだわりでアート映画のような小じゃれた雰囲気さえあります。

むしろスタジオトークのほうが前のめりです。メインMCのMEGUMIをはじめ、青山テルマ、徳井義実、ホラン千秋、そしてドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダの5人が細かな動きをひとつひとつ拾って、盛り上げます。

序盤こそ、日本初の同性愛リアリティ番組という話題性頼りで、当事者として関心を持つ人やもともとBL(ボーイズラブ)コンテンツ好きでもないと刺さりにくいんじゃないかと心配にもなりますが、それだけで終わりません。恋愛リアリティ番組が苦手な層も取り込む力があります。

見どころは純度の高い恋愛


大学生のダイ(22歳)は明るく、最年少ながらしっかり者。恋の仕掛けも早い(画像:Netflix)

そもそも恋愛リアリティ番組が苦手だと思うのは、現実を突きつけられた気分になることが理由の1つにありそうです。自身の体験や状況に重ね合わせて一喜一憂しすぎると、エンタメとして楽しめないのかもしれません。生々しい会話や感情がふんだんにあるのがリアリティ番組。だからこそ、ドラマ以上に沼る場合もあります。

既存の恋愛リアリティ番組は多数派の異性の恋愛を対象としたものばかりですから、余計に苦手な層を作り出したともいえそうです。でも、Netflix「ボーイフレンド」は同性だけという設定に大きな違いがあります。それゆえに伸びしろがあるのです。


アーティストのシュン(23歳)は繊細で魅力的な性格。「キスしたらわかる」の発言がSNS上で話題に(画像:Netflix)

徐々に恋愛リアリティ番組らしい展開も見せていきます。しかも、もっともらしいマニュアル本のような恋愛ではなく、不器用な恋愛です。恋愛初期の期待や不安が混ざり合った複雑な気持ちを淡々と映し出していることに好感が持てるはず。これこそ、この番組最大の見どころです。

なかでも大学生のダイ(22歳)とアーティストのシュン(23歳)の物語はそれを十分に満喫できます。若さも相まって、純度の高さを保証します。「キスをすれば、すべてがわかる」といった言葉まで飛び出してきます。たとえるなら、北イタリアを舞台に2人の青年のみずみずしい恋と青春を描く映画『君の名前で僕を呼んで』(2017)のようなイメージです。


ダイ(右)とシュンの恋物語が全体を引っ張る。萩尾望都の傑作漫画「ポーの一族」のエドガーとアランのような関係性に見える(画像:Netflix)

ダイとシュンの関係性は、萩尾望都の名作漫画「ポーの一族」のエドガーとアランのようにも見えてきます。多少のネタバレになりますが、恋の場数をたくさん踏んでいるダイが繊細な性格のシュンの気持ちを少しずつ解放していく姿がじっくり描かれています。決して順調ではない道のりですが、信頼を深めていく様子が実に微笑ましく、美しいのです。

「結局はBL好き向けでは?」と決めつけるのはもったいないかもしれません。ドラマ「おっさんずラブ」や「きのう何食べた?」などがノンケの男性からも支持されたように、ダイとシュンの恋愛にはそんなポテンシャルがあります。

海外で高評価も勢い足りず

7月9日からNetflixで世界独占配信されて以来、イギリスの大手一般誌『ガーディアン』で熱いレビューが掲載されたり、アメリカの辛口評論サイト「ロッテン・トマト」では高スコアで一般視聴者から支持されたりと一定数の評価も受けています。Netflix公式ランキングでは、日本の「今日のTOP10」で一度、1位を獲得、週平均では日本だけでなく、香港とシンガポールでもTOP10入りし、実力を証明しています。

ですが、爆発的な人気を集めているとは言いがたい。主役といえるダイとシュンが視聴者を惹きつけている一方で、和食料理人のカズト(27歳)に思いを寄せるいくつかの恋愛や、モデルのリョウタ(28歳)やヘアメイクのゲンセイ(34歳)の片想いといった、言うなればサイドストーリーが薄いのです。この点は、番組最大の弱さとなっています。

勝手に人気が広がっていくリアリティ番組は、たとえうまくいかない恋愛でも勢いだけはあったりします。また、恋愛以外の個性の部分で魅力を引き出すことに成功しています。設定という意味では同じく新しかった「あいの里」(Netflix)がまさにそう。中年の恋を扱うという話題性だけでなく、なりふり構わない恋愛に圧倒される場面が多く、リアリティ番組の新境地を拓いていました。シーズン2として年内中にまた戻ってくる予定です。

そう考えると、「ボーイフレンド」は、やっぱり浮世離れ感や上品すぎるところが課題にあったように思います。マイノリティの恋愛リアリティ番組は見せ方が慎重にならざるをえなかったのかもしれません。そんな中で、リビングルームやプールサイドで彼らが繰り広げる会話で、同性婚やカミングアウトなど踏み込んだ話を取りこぼしていないことは評価したいです。


同性婚やカミングアウトなど踏み込んだ話も展開し、信頼関係を築く参加者たち(画像:Netflix)

過去にテレビ大阪で韓国の「ボクらの恋愛シェアハウス〜Boys Love ∞(アンリミテッド)〜」が地上波放送されたことがあったものの、ありとあらゆる種類のバラエティ番組がある日本の地上波でも男同士の恋愛リアリティ番組はまだ作られていません。今回、実現したこと自体に価値があると改めて思います。

ニッチなゲイカルチャーを扱ったアメリカのリアリティ番組「ル・ポールのドラァグ・レース」が賞レースで常連になり、各国版へと広がり、番組出身者がパリ五輪の開会式でパフォーマンスした例もありますから、始めない限りは火が付くかどうかは誰もわかりません。もし再び作られることがあれば、笑いにも変えられるような強さがもっと欲しい気がします。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)