パリオリンピック第3戦で、なでしこジャパンはナイジェリアに勝利して準々決勝進出。苦しんでいたFWふたり、植木理子は2得点に絡み、田中美南には待望の大会初ゴールが生まれた。次は日本にとっての「大きな壁」アメリカとの対戦だ。

【植木&田中でこじ開けたナイジェリア戦の2点目】

 決勝トーナメント進出をかけたナイジェリアとの第3戦。日本がFW浜野まいか(チェルシー)のゴールで先手を取ると、前戦のブラジル戦では度々訪れた決定機を決めきれず、試合後に涙を見せていたFW田中美南(ユタ・ロイヤルズ)が大不調を払拭するゴールで追加点を奪った。


ナイジェリア戦でゴールの田中美南(中)。直前の植木理子(左)のヘディングシュートのこぼれ球を押し込んだ photo by Hayakusa Noriko

 ナイジェリアに1点を返されたが、7月13日に金沢で行なわれたガーナ戦での負傷から復帰したばかりのDF北川ひかる(INAC神戸レオネッサ)がFKを決めて引き離すと、そのまま3−1で勝利して決勝トーナメント進出を決めた。

 この日、ゴールこそ生まれなかったが、前線でカギとなる動きをしていたのがFW植木理子(ウェストハム・ユナイテッド)だった。

「自分で打とうと思ったんですけど、(浜野)まいかが呼んでくれたので」と浜野の先制ゴールをお膳立て。

 チーム2点目は、右サイドのDF守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)からのクロスにピタリとヘディングで合わせた、植木得意の形だった。「当たった感触では入ったと思ったんですけど(苦笑)」という一撃だったが、クロスバーを叩く。しかしそこに飛び込んできたのは、田中だった。そのゴールを誰よりも喜んだのは、ひょっとしたら植木だったのかもしれない。

【お互いを支え合ってきたFW同士の絆】

 ブラジル戦で大ブレーキとなった田中を、植木は懸命に支えようとしていた。

「同じFWとして気持ちはすごくわかる。でもブラジル戦に勝てて本当によかった。あそこの勝ち負けで全然違うから。選手たちは(田中が)ゴールを外したとかそんなことは全く思ってないんです。でもそういう結果(敗戦)が伴っちゃうとダメージもあるから......」と、ナイジェリア戦を前に、植木も苦しそうだった。

 というのも植木自身、オリンピック直前のガーナ戦でヘディングシュートを決めたが、代表では昨年9月のアルゼンチン戦以来、ゴールから遠ざかっていたのだ。

「もうホントに長かった! 『ゴールを目指してしっかりと調整していきたいです』が定型文になってましたから(苦笑)」(植木)

 チャンスは来る。そこに動き出していることは間違ってはいない。ウェストハムへ移籍し、守備の割合が多いチームではあるが、だからこそチャンスが来た時の動きは磨きがかかっているはずだった。けれど、決めきれない。その苦しい時期に植木を支えてくれたのが田中だった。

 昨夏のワールドカップでは一心同体。唯一無二の相棒であり、ライバルでもある田中と、スタミナの続く限りプレスをかけ続けた。体力が枯渇するギリギリまでスタミナを使い果たし、残りの時間を互いに引き継ぐ場面も多かった。

 スタメンになれば「出しきってくる」と相手を疲れさせ、交代時には「あとは任せた」とピッチを託す。ふたりならではの信頼関係があったのだ。苦しい時間が長かった植木には、今の田中の心情がわかり過ぎるくらいなのは当然だった。

 ナイジェリア戦では「一緒にゴールを獲りたい!」と語っていた植木。ともにゴールをマークするという意味ではあったが、田中のゴールはある意味、植木と一緒に奪ったゴールに違いない。田中は、植木の位置、ヘディングの威力を熟知しているからこそ、セカンドボールに詰めていけるあのポジションを取れたのだ。

 あとは、植木本人のゴールを待つのみ。大会初戦のスペイン戦は不出場。ベンチで戦況を見守る悔しさがあった分、コンディションは悪くない。

「(味方を)送り出しても(途中から)出されても、普通どこか悔しさがあるものじゃないですか。でも、去年のワールドカップからそういうのがいっさいない。それが今も継続されているんです。これはチームの雰囲気がよくないと絶対にできないこと。チームの勝利は嬉しいけど、でもFWですから、やっぱり自分のゴールで勝たせたいです」

 ナイジェリア戦は、1点目も2点目も、植木が仕留める匂いは漂っていた。オリンピックでチームを勝たせる植木のゴールを、ぜひ、決勝トーナメントで披露してもらおう。

【準々決勝は一度も勝っていないアメリカとの対戦】

 日本はグループCを2勝1敗の2位で突破し、準々決勝に進出。再び、場所をパリに移して戦うのは、アメリカだ。2011年のワールドカップ制覇時には決勝でアメリカを破ったが、PK戦にもつれ込んでいるため、記録上は引き分けとなっている。したがって世界大会では、日本はまだ一度もアメリカに勝利していない。世界を目指す時、常に日本の前に立ちはだかるのがアメリカなのだ。

 アメリカと言えば、昨年のワールドカップではベスト16で姿を消した衝撃があり、その後の立て直しには手こずっていた印象がある。しかし今年5月に就任したばかりのエマ・ヘイズ監督は、そのカリスマ性(チェルシーでリーグ7度の優勝)でタレント軍団であるアメリカをひと回り大きく成長させたようだ。

 最も変化を遂げたのは攻撃力だ。今大会グループBで3連勝、9得点と、出場チーム中最多ゴールを叩き出している。ケガから復帰したFWマロリー・スワンソンはそのうちの3ゴールをマークし、完全復活。今年4月のShebelieves Cup(シービリーブスカップ)で日本は1−2で惜敗しているが、その時のアメリカとは一段階ステージが上がっている。

 対して日本は苦しい台所事情がある。初戦でDF清水梨紗(マンチェスター・シティ)が負傷離脱し、第2戦は初戦唯一のゴールゲッターMF藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が古傷の再発で欠場。第3戦ではそれまで奮闘していた19歳のDF古賀塔子(フェイエノールト)がコンディション不良でメンバー外となり、もともと別メニューで調整を続けていた北川、MF林穂之香(エバートン)らが復帰したものの、すでにフィールドのバックアップメンバー全員がピッチに立つという総力戦を強いられている。

 さらには、ここへ来て猛暑がフランスを襲っていることで、当初から懸念されていた疲労の度合いも気になる。準々決勝のキックオフは15時。パリでは最も気温が高い時間帯だ。ただし、ここまで比較的涼しい時間帯に試合をしてきたアメリカが、暑さにどこまで対応できるかは気になる。日本が続けてきた中2日のリカバリー力が実を結んでいれば、見応えのある展開が期待できる。

 アメリカの攻撃力を全員守備で食い止め、ショートカウンターの機会を逃さずに仕留める――日本の勝機はここにある。ワールドカップでは越えられなかったベスト8の壁。アメリカを倒し、この壁を超えれば、悲願のメダルも見えてくるはずだ。