宮崎早織は持ち前のスピードを生かしたプレーで13得点をマーク photo by FIBA

萩原美樹子の視点:パリ五輪女子バスケ日本代表02

 パリオリンピックの女子バスケットボールで金メダル獲得を目標に掲げる日本は、8月1日の予選リーグをドイツと対戦。日本はオフェンスでリズムを掴むことができず、初戦でベルギーを破り勢いに乗るドイツに主導権を握られ、64対75で敗れ、予選リーグ0勝2敗となった。

 試合のポイントはどこにあったのか。1996年アトランタ五輪代表、日本人初のWNBA選手で現在はWリーグ・東京羽田ヴィッキーズHCを務める萩原美樹子氏に振り返ってもらうと同時に、次戦・ベルギー戦に向けての期待を聞いた。

萩原美樹子の視点01:日本対アメリカ考察〉〉〉

【シュートの踏んぎりの悪さが攻守に影響】

 64対75。

 日本としては得点が64点では、やはり勝てません。

 全体のシュート成功率は36.5%(23/63)、 日本の生命線である3ポイントシュートは、9/30と30%にとどまりました。

 敗れたとはいえ、思いきりが感じられたアメリカ戦ではシュート74本、そのうち3ポイントシュートは39本打っていたことと比較しても、オフェンスが重たかったのかな、と思います。

 その原因を考えていくと、私としてはシュートの「踏んぎり」が悪かったな、という印象を持ちました。何度か「ああ、今の打てばいいのにな」というシーンがありましたから。

 ドイツはガードの2番ポジション(シューティングガード)の選手でさえ192センチあり、日本の選手たちとしては相当、高さが気になったのではないかと思います。単純な高さでいえば、ドイツはアメリカよりも大きい(速さや巧さは、アメリカのほうが上です)。そこにプレッシャーを感じてしまったかもしれません。

 今回、出場しているドイツの選手たちは、2018年にU18ユーロ(欧州選手権)で優勝した黄金世代を中心としています。初戦のベルギー戦で勝利し、かなり手ごわいとは思っていましたが、この日、33点をマークして"無双"状態だったサトウ・サバリ(WNBAダラス・ウィングス)だけでなく、内と外のバランスが良く、日本にとってはやはり難敵でした。

 それでも、ポイントガードの宮崎早織選手は持ち前のスピードを生かしてドライブからのレイアップ、郄田真希選手は経験値の豊富さから来るのか、踏んぎりのいいシュートを見せていました。

【徹底的にインサイドを攻めた後半のドイツ】


苦しい状況のなか、チーム最多の15得点をマークした郄田 photo by FIBA

 日本はオフェンスが重たいながらも、勝機がありました。

 前半終了時は6点のビハインドでしたが、第3クォーターに入ってすぐ、郄田選手の2本の3ポイントで44対44の同点に追いつきます。そしてその後すぐ、どうにも止められなかったサバリが3つ目のファールを犯し、ベンチに下がります。

 相手の得点源がコートから消えたのですから、日本としては一気に畳みかけるチャンスです。ところが、スコアを動かしたのはドイツのほうでした。

 日本は動きのなかでシュートを決められず、反対にドイツは日本の弱点であるインサイドを徹底的に攻略してきました。

 国際バスケットボール連盟のホームページでは、クォーターごとのシューティングのチャートが見られるのですが、第3クォーターのドイツの得点はゴールに近いペイントエリアに集中しています。

 前半こそ、このエリアでの攻防は互角だったのですが、この第3クォーター、ドイツのリサ・トマイディスヘッドコーチ(HC)はサバリを欠いたにもかかわらず、ペイントエリアに資源を集中させ、一気に勝負を決めにきました。ドイツは、前半は6本の3ポイントシュートを決めていましたが、後半はゼロ。完全にインサイド勝負に切り替えてきたのです。

 トマイディスHCは、カナダ生まれ。2021年までカナダ代表のHCを務め、日本との対戦経験も豊富。日本が嫌がるところを的確についてきた印象です。


ペイントエリアで圧倒的な存在感を示したサバリは33得点をマーク photo by FIBA

【ベルギー戦はいつもどおりのプレーで】

 サイズ不足は日本のバスケットボールにとって永遠の課題ですが、恩塚亨HCも手を打たなかったわけではありません。第1クォーターでリバウンドが劣勢なことが明らかとなり、身長184センチの赤穂ひまわり選手を3番ポジション(スモールフォワード)でプレーさせ、これでようやく日本は落ち着きを取り戻しました。

 しかし赤穂選手が3番ポジションに入るフォーメーションを最近はほとんど使っておらず、リバウンドでは効果を発揮したものの、オフェンスでは選手たちが戸惑ったかもしれません。

 バスケットボールという競技の特性として、選手たちはオフェンスが重たくなり、シュートが入らないと、ディフェンスでも後手に回ってしまうことがあります。この日は、オフェンスでの悪い流れが、ディフェンスにも尾を引き、ペイントエリアを攻略されてしまった感じがします。

 こういう展開の試合になってしまうと、脳震盪(のうしんとう)の影響で欠場した山本麻衣選手の不在が痛かったと思わざるを得ません。苦しくなった時でも、山本選手は個人技で打開し、なんとかつないでくれるプレーをしてくれるので。

 日本にとって残すのはベルギー戦となります。かなり厳しい状況に追い込まれたのはたしかですが、この試合に勝てばグループ3位になり、準々決勝進出の可能性はまだあります。

 前回の東京大会では、日本が準々決勝で逆転で破った因縁の相手であり、パリオリンピック直前の7月21日にも手合わせをして、この時はベルギーが75対65で勝っています。

 ベルギーは日本のことを熟知していますが、ポイントガードが欠場しており、司令塔不在という事態になっています。そこでドイツと同様、シンプルに日本の弱点であるインサイドを徹底的に攻めてくることが予想されます。日本としてはオフェンスでいいリズムを作り、ディフェンスに活気を取り戻したいところです。

 山本選手の出場の可否は不明ではありますが、私が期待したいのは、馬瓜エブリン選手です。今大会、エブリン選手はアメリカ戦で2点、ドイツ戦では6点にとどまっています。

 私もアンダーカテゴリーの指導者としてエブリン選手と一緒に活動しましたが、とにかく真面目な選手で、責任を自分で抱え込んでしまうところがあります。私としては、余計なことは考えず、いつも通りの働きをしてほしい。そうすれば、自然とチームも活気づくはずですから。

 彼女の"シグニチャー・ムーブ"といえば、ドライブからのゴールへのアタックです。自分のリズムで、どんどん攻め込み、日本に良い流れを作ってほしい。

 日本らしい快活なバスケットボールを期待したいところです。

【Profile】萩原美樹子(はぎわら・みきこ)/1970年4月17日生まれ、福島県出身。福島女子高→共同石油・ジャパンエナジー(現・ENEOS)→WNBAサクラメント・モナークス→WNBAフェニックス・マーキュリー→ジャパンエナジー。現役時代は、アウトサイドのシュート力に定評のあるフォワードとして活躍。日本代表でも多くの国際大会に出場し、1996年アトランタ五輪では1試合平均17.8得点、3Pシュート成功率44.2%をマーク。準々決勝のアメリカ戦でも22得点をマークするなどその活躍が目に留まり、翌年、ドラフでWNBA入りし、2年間プレーした。現役引退後、早稲田大学を卒業。指導者として同大女子バスケボール部、2004年アテネ五輪女子代表のアシスタントコーチを務めるなど経験を積み、現在はWリーグ・東京羽田ヴィッキーズで指揮をとる。