細谷真大は現在、イスラエルで最も有名な日本人と言っても過言ではないだろう。イスラエルがサッカーの世界大会で優勝するという、歴史的な夢を打ち砕いた張本人だからだ。ヨーロッパの強豪を破ってオリンピック出場権を勝ち取ったイスラエル。ほとんどの人はまさか日本に負けるとは思っていなかった。

 決勝ゴールを決めた細谷は嫌われると同時に、称賛の的でもあった。もちろん、勝ったのは細谷だけの力ではない。大岩剛監督の采配もすばらしかった。日本はすでに決勝トーナメントに駒を進めていたのに、決して消化試合のような戦い方をしなかった。勇気、テクニック、集中力を持ち、イスラエルを真剣に倒しにきた。

 これは多くのイスラエルメディアを驚かせた。「日本は勝つべくして勝った」。イスラエルのテレビのコメンテーターは試合をこう締めくくった。イスラエルのメディアが負けた相手をここまでストレートに褒めるのは珍しい。


イスラエルを破り、3戦全勝でベスト8に進出したU−23日本代表 photo by JMPA

 イスラエルの監督ガイ・ルソンは、日本のように力のあるチームを破るのは難しいと覚悟していたが、それでも実際に戦ってみると驚くことがたくさんあったという。

「人生を賭けた一戦だった。我々はオフボールのシーンでも厳しく戦い、オンボールの時は聡明でなければならなかった。しかし、日本はスピードだけでなく、試合中に変幻に戦術を変える力も持っていた。これは日本の大きな武器だ」

 彼は日本が5−0で大勝したパラグアイ戦にも言及している。

「10人になったパラグアイにどう対処するかを、日本はよく知っていた。そのインテリジェンスは驚くばかりだ。ひとり少ない相手と戦うのは、一見、簡単そうだが、その場面にふさわしいポジショニングを取らなければならないなど、困難なことも多い。その点、日本は私たちにすばらしいレッスンをしてくれた。私はこの試合を録画し、何度も見返すつもりだ。イスラエルサッカーの未来のためにね」

 そのパラグアイは、初戦の5−0という結果に、かなりのショックを受けていた。

【「日本は我々より優れていた」】

 今回、パラグアイがオリンピックにかける期待は大きかった。銀メダルを獲得した2004年アテネオリンピック以来の出場。そしてなにより、彼らは南米予選でエンドリッキ擁するブラジルを破って出場権を手に入れたのだ。だからこそ、日本戦の大敗は信じられない結果だった。しかもパラグアイは日本に「負けた」というより、「徹底的に破壊された」と言ってもよかった。

 パラグアイの大手新聞『ディアリオABC』は「屈辱の大会デビュー」という見出しをつけて報じ、ラジオ局『レッド』は「日本は3−0になってもアクセルを踏むのを止めなかった」と日本を称賛した。『パラグアイTV』で「日本のプレッシャーと才能から逃れる方法はなかった」と語るコメンテーターは、試合後、ひと言「KOだ」と漏らした。またパラグアイの有名ジャーナリスト、ディエゴ・カルボーネは「パラグアイは日本のスピードの前になす術がなかった」と分析した。

 すべてを如実に表しているのはパラグアイの監督、カルロス・ハラ・サギエルの言葉だろう。

「我々は日本の前で弱く、混乱していた。日本は確実に我々より準備ができていた。この0−5という結果は重い。しかし、試合を見た者なら誰もが、日本はサッカー的に我々より優れていたことがわかっただろう」

 日本を称賛しているのは、直接対決したチームだけではない。開催国フランスのテレビ局は中継で日本のことを「チャンピオンに必要な資質をすべて持ったチーム」「なんらかのメダルを勝ちとるだろう」などと紹介している。また、出場を逃したブラジルのさまざまなメディアも「この大会の若き日本のサムライたちから決して目を離してはいけない」と言っている。

 筆者も今後、特に山本理仁や荒木遼太郎、そして守護神の小久保玲央ブライアンに注目していきたいと思っている。とにかく日本は優秀な若い世代がいることを世界に知らしめ、そのサッカーの未来が明るいことを示した。

 グループリーグの戦いぶりを見たあと、多くの国のメディアや専門家が、パリ五輪の金メダル候補はスペインか日本だと言っている。その両者が決勝トーナメントの1戦目(準々決勝)でもうぶつかってしまうのは残念なことだ。その試合は今大会の実質的な決勝となる可能性がある。どちらも自分たちらしいプレーを持ち、テクニックがあり、ハイレベルの選手がおり、なによりハートがある。