現代の若者、Z世代は「消費」に代表される、というのだ。やや聞こえの悪い表現だが、若い世代は「教育する対象」から「モノを買ってもらう対象」に変化しているのだと言える(写真:mits/PIXTA)

若者と接する場面では、「なぜそんな行動をとるのか」「なぜそんな受け取り方をするのか」など理解しがたいことが多々起きる。

企業組織を研究する東京大学講師の舟津昌平氏は、新刊『Z世代化する社会』の中で、それは単に若者が悪いとかおかしいという問題ではなく、もっと違う原因――たとえば入社までを過ごす学校や大学の在り方、就活や会社をはじめビジネスの在り方、そして社会の在り方が影響した結果であると主張する。

本記事では、舟津氏による三菱総合研究所のスキルアップ倶楽部での講演をもとに、Z世代を対象としたビジネスの実像を解説する。

消費の主役「Z世代」

「Z世代」なる言葉がある。現代の若者を総称するこの言葉は、どういった経緯で生まれた言葉なのだろうか。


経営コンサルティングファーム・識学が提供する識学総研では、「一般的には1990年代後半から2012年頃に生まれた世代」「アメリカで1960年から70年に生まれた人を指す言葉として使われていた『ジェネレーションX』が由来で、その次の『ジェネレーションY』のさらに次の世代」だと紹介されている。

さらに気になる文言が続く。「アメリカでは消費の主役になっているため、多くの企業がマーケティングの対象としてZ世代に注目しています」。「消費の主役」なのだ。

ところで筆者はいわゆる「ゆとり世代」にあたる。「ゆとり教育」が語源。筆者世代を代表する概念が「教育」発なのであれば、現代の若者、Z世代は「消費」に代表される、というのだ。やや聞こえの悪い表現だが、若い世代は「教育する対象」から「モノを買ってもらう対象」に変化しているのだと言える。

そのことを、大学教員でもある筆者は身をもって実感している。それは単に学費の値上げ(が検討されている)だとかいう話ではなく、就職活動に取り組む学生たちを見ていての実感である。

今の就活ビジネスはすさまじく、こんな場面を目の当たりにしたことがある。1年生向け授業で「就活ガイダンス」が行われた。就活仲介サービスの企業から人が派遣されてきて、就活のアレコレについてレクチャーするのである。現代の大学では珍しくない光景だ。

とある企業の方が登壇し、授業も終わりかけた頃。その方は待ち構えたように、終わりの言葉を言ってのけた。

「皆さん就活は、今のうちから、1年生から始めましょうね。隣の友達が内定を持っているのに、自分が持っていなかったら嫌ですよね」

衝撃を受けた。思わず口が滑ったというより、台本を読み上げるような言い方だった。つまり誰かに指示されて、意図的に発信したのだろう。

このエピソードからわかることは2つ。まず、(一部の)企業は学生を脅して、不安を煽ってビジネスチャンスを得ることに躊躇がない。そして、学生は友達に弱い。よく調べている。名のある大企業だけあって、市場調査もきっちりやっているのだ。

こうした不安を煽る形で消費を促すビジネスを「不安ビジネス」と呼称しよう。Z世代は消費の主役とされているが、ふつうお金を持っていない。それでもお金を使ってもらうために不安を煽る。ぶっちゃけ、倫理的な面を見なければ、よくできたビジネスである。

鋭利な営利の論理

しかし、就活サービスをはじめとする不安ビジネスでは、なぜこんなにも営利の論理がむき出しなのだろうか。つまり、なぜ営利行為であることを隠さないのだろう。東京大学の清水剛教授は、次のような考察を展開する

古典的な不安ビジネスに悪徳宗教がある。「あなたには霊が取り憑いてる」などと言って不安を煽るわけだ。そして、「浄化」や「救済」のためには、特別な儀式や祈祷、物品を購入する必要があるとして、献金を求める。この古典的な不安ビジネスでは、一応は宗教というていを装って、不安を煽る。恐らくは、「不安を煽るのは悪いことだ」という意識が、根本にはあるからだろう。

しかし、就活サービスのような不安ビジネスでは、営利の論理が隠されていない。年端もいかない大学生の不安を煽ることに躊躇がない。なぜこんなにも倫理性を欠いたビジネスが横行するのだろうか。

1つの結論として、清水氏が指摘するのは、不安ビジネスは「ローリスク・ローコスト」なビジネスだということだ。どういうことか。

たとえば、「社員を頑張らせる」というのは、会社の利益を増やす伝統的な方策の一つだ。現に一昔前であれば、とあるメーカーで社員たちが製品開発のためにほぼ年中無休で働くといったことが、美談として語られていた。だが今は、莫大な労働投入によってイノベーションを生み出す、という手がとれる時代ではない。また、「生産を増強させる」という方策もあるが、こちらも環境規制の厳格化などがあって、簡単ではない。

こうした状況を踏まえると、「客の不安を煽るだけ」で需要を生み出せるビジネスは、むしろ安パイとすら言えるかもしれない。もちろん消費者契約法など不安ビジネスを規制する制度はちゃんとあるのだが、すべてを規制できるわけではない。

問題は日本企業の財務状況ではない

では、不安ビジネスをやらざるをえないほど日本企業は追い詰めてられているのであろうか。実は、決してそんなことはない。ここ15年ほどずっと、日本企業の現金・預金、利益剰余金、売上高経常利益率は右肩上がりだ。つまり、日本企業の財務状況は非常によくなっている。また、「労働時間あたりの生産性(これは労働生産性の一部分であり、そのものではないことに注意)」で言えば、他国に比して劣っているわけでもない。

となれば、考えられるのは、多くの日本企業がリスクを取らなくなった、投資をしなくなったという仮説だ。日本企業は特に「経済的競争力資産」への投資(広告宣伝、組織改編、Off-JTなどの費用)が英米独仏に比べて、著しく低いことがわかっている(※1)。要するに、日本企業は人と会社組織に投資をしないのだ。

日本でも株主資本主義の台頭が指摘されているが、株主に還元するようになったから投資をしなくなったのではなく、投資をせずに利益をため込んでいるから株主が要求を強めて還元が増えている、というのが時系列としては適切だとみられる。

リスクをとらなくなった企業にとって、不安ビジネスは実に魅力的だ。ローリスク・ローコストに需要を生み出すことができる。若者の不安を煽るビジネスがはやる背景には、そんな日本企業の経営方針があるのかもしれない。

「日本企業は財務状況が良くなってますけど、この停滞感はなんなんでしょう」。幾人かの経営者にこの問いをぶつけると、即答された。「私からしたら、現金を貯め込むほうがリスクですよ」。「それは財務であって経営じゃないでしょう。経営を良くしないと」。経営のためのリスクをとることこそ、若者のためにできることではないだろうか。

※1  金榮愨・権赫旭・深尾京司(2019)「日本経済停滞の原因と必要な政策:JIP 2018 による分析」『RIETI Policy Discussion Paper Series』19:1-21.

(舟津 昌平 : 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師)