『下妻物語』(写真:時事)

2004年に公開された嶽本野ばら原作の『下妻物語』が公開から20周年を迎えた。

舞台となったのは茨城県下妻市。劇中にはイオンの前身であるジャスコが登場する。20周年に伴い、下妻市にあるイオンモールは、5月25、26日の2日間限定でジャスコの看板に様変わり。また渋谷・ホワイトシネクイントでは7月19日から、初のデジタル版でリバイバル上映されている。今年は『下妻物語』の話題が絶えないのだ。

公開から20年が経っても、なぜ『下妻物語』は多くの人々の心を惹きつけるのだろうか。今回はその人気の理由を探ってみた。

ロリータとヤンキーが強烈なインパクト残す

下妻物語は、深田恭子(竜ヶ崎桃子)と土屋アンナ(白百合イチゴ)がダブル主演。それぞれが、ロリータファッションとヤンキーファッションを身にまとっている。

ロリータとヤンキーファッションが強烈なインパクトを残した『下妻物語』だが、その魅力は主演俳優たちだけではない。

監督を務めたのは、中島哲也氏。中島監督の作品は、『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』『渇き。』と巧みな映像演出で、たくさんのファンがいる。『下妻物語』でも、冒頭からアニメーションを取り入れ、テンポの良さのある演出で、観客を最後まで飽きさせない。

そして、Tommy heavenly6の透明感ある歌声もこの作品を大いに引き立たせている。オープニングの『Roller coaster ride→』で疾走感が溢れるメロディーで観客を沸かせ、エンディングの『Hey my friend』でしっとりと作品の余韻を持たせている。

深田恭子と土屋アンナのほか、桃子の祖母役に故・樹木希林、イチゴの憧れるレディースの先輩役に小池栄子と、非常に豪華な顔ぶれだ。

ロリータファッションに憧れる若者

映画は現実世界でも、多くの若者に影響を与えた。

作中で桃子が身にまとう「BABY, THE STARS SHINE BRIGHT(ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト)」は、ロリータファッションを代表するブランドだ。

豪華なレースと贅沢なフリル、そして乙女心を具現化したようなデザインのベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライトのロリータ服は、ロリータファッションを着ない若者をも引き付けた。

深田恭子が演じる桃子のロリータファッションが、違和感がないほどよく似合うというのも、若者を引き付けた理由の1つだが、桃子が田舎でも堂々と誇らしくロリータファッションを身にまとっている、その強さにも憧れを抱いた若者が多かった。

『下妻物語』が公開された2000年初期は、『KERA!』や『Zipper』や『CUTiE』といった、ストリート雑誌が元気な時代でもあり、 週末の原宿には個性溢れるファッションを身に着ける若者が集まった。

現在は原宿だけではなく、全国にさまざまなファッションが溢れ、多様なファッションが受け入れられつつある。しかし、当時はまだファッションの中心地は「東京」や「原宿」であり、他地域で目立つファッションをしていると奇異な眼差しを向けられることもあった。

『下妻物語』で描かれているロリータファッションの魅力は、居心地のよさを求めて、東京でロリータファッションを着るのではなく、茨城県の下妻で誇らしくロリータファッションを着ているところだろう。

そんな『下妻物語』のリーフレットでは、一本道の田んぼの背景に桃子がピンクのロリータファッションをまとっている。


『下妻物語』ガイドブックとポスター(写真:筆者撮影)

桃子の芯の強さを表しているような一本道に広がる田舎の背景と、乙女の夢を具現化したような桃子との対比。

このインパクトのあるビジュアルからは、親近感や、勇気をもらうことができる。

ロリータファッションを楽しむ桃子と、ヤンキーのイチゴ。生き方や価値観が違うこの2人が友情を育んでいくというのも、本作の見どころであるが、先述した服装のほかにも、ところどころに時代を感じる場面があるのも面白い。

自分を貫く姿が今を生きる若者にも響く

桃子がブランドの偽物を売るときに使用したオレンジの「iBook」のパソコンや、ガラケー。2人が出会うきっかけとなった投稿雑誌。

今の時代ならフリマアプリで済ませてしまいそうだが、2人は投稿雑誌をきっかけに直接会って、交流するようになった。

また、彼女たちのファッションも「個性的」という枠を超えて、現在ではアイコンとして憧れる若者も多い。

『下妻物語』の作品名を聞くと、今でも話題になるのは、当時、桃子とイチゴの強さに憧れた若者たちと同じように、自分を貫くその姿が令和の若者の心にも響くからだろう。

リアルタイムで観た世代を超えて、令和でも若者を魅了する『下妻物語』。まだ観たことがない人は、ぜひこの機会に観てほしい。

2000年代のエネルギッシュでカラフルな時代と「憧れ」が詰まった宝箱のような映画にきっと心が動かされるはずだ。

(Tajimax : ライター・コレクター)