夏に欠かせないペットボトルの水

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 気を付けるべきは水道水だけではなかった。夏の必需品、ペットボトルに入ったミネラルウォーターからも、“発がん性物質”PFAS(ピーファス)が高濃度で検出されていたことが発覚したのだ。この度検出されたのは神戸市内で製造されたものだけだが、専門家は当該商品以外も安心はできないと指摘する――。(以下は「週刊新潮」2024年7月25日号掲載の内容です)

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PFASの健康リスク

 そもそもPFASとは、1万種以上あるとされる有機フッ素化合物の総称で、自然界には存在せず分解されにくい性質のため「永遠の化学物質」とも呼ばれている。

夏に欠かせないペットボトルの水

 一度でもヒトの体内に入ってしまえば、血液を循環して臓器に蓄積してしまうため、仮にPFASの摂取を完全に止めても、取り込まれた量の95%を排出するのに、およそ40年もの時間がかかるという試算もある。

 恐ろしいことに、WHOのがん専門の機関であるIARC(国際がん研究機関)が、PFASの一つであるPFOA(ピーフォア)についてヒトへの発がん性を認定。「腎臓がん」をはじめとして、高コレステロールを伴う「脂質異常症」や「免疫不全」、「胎児・乳児の発育低下」など、さまざまな健康リスクが指摘されている。

 そんなPFASの中でも、特に有害性が高いとされるのは、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS〈ピーフォス〉)と、パーフルオロオクタン酸(PFOA)。国際条約の規制対象で、すでに日本でも輸入や製造が禁止となっている。このほか、PFOSとPFOAの代用品であるパーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)というものもある。

 これらPFASは熱に強く水や油をはじく性質があることから、航空事故に対応する消火剤やさまざまな工業製品に使われ、日用品にも数多く含まれていることは、これまで週刊新潮で紹介してきた通りだ。

 消火剤を訓練でも使う空港や航空基地、また工業製品を製造する工場などから漏れ出たPFASが、土壌から地下水へと染み込んで河川などに流れ出し、一般家庭の水道水から検出されているのである。

6倍相当の量が……

 そんなPFASに関して、驚愕(きょうがく)のニュースが―ー。

 今月5日の朝日新聞に続き、12日には読売新聞が、市販されたペットボトルのミネラルウォーターから“発がん性物質”であるPFASが、高濃度で検出されていたと伝えたのだ。

 きっかけは、兵庫県明石市議会の辻本達也議員(共産党)が、神戸市に情報公開請求をした際、市内の企業が製造したミネラルウォーターに“異変”が生じていたとする文書が開示されたことだった。

 社会部記者が言う。

「昨年1月と6月、市の担当者が当該企業の採水地にある地下水を複数の地点で調べたところ、最高で1リットルあたり310ナノグラムのPFASが検出されたのです。これは日本で定められた暫定目標値の6倍相当です」

 そこで当該企業は汚染物質を除去する活性炭フィルターを設置。今年1月には国の暫定目標値以下に収まったとはいうものの、

「行政が対応を促すまでの間、消費者は何も知らずにこのミネラルウォーターを飲み続けたことになります。市は汚染対策が完了したとして、具体的な採水地の場所や企業名、商品名などを明かしていません」(同)

地下深くまで浸透

 日本各地の「PFAS汚染」の実態はこれまでも触れてきたが、さらにはミネラルウォーターへも注意を払わないといけないほど、状況は深刻なのか。

「ミネラルウォーターといえば、人里離れた山奥の清流などで採水されているようなイメージを持つ方も多いと思いますが、神戸のケースのように地下水を採水する例もあるため、一概に安心できないのではないかと思います」

 そう指摘するのは、PFAS研究の第一人者で京都大学大学院医学研究科(環境衛生学)准教授の原田浩二氏だ。

「かつて地下30メートルから150メートルくらいの深井戸からくまれた水は、汚染の度合いが少ないとみられていました。ミネラルウォーターの中には地下深くから採水したことで“きれいな水”とアピールしている製品もありますが、東京都内で問題となっている三多摩地域のPFAS汚染を思い出せば、そうとはいえないことが分かると思います。われわれが国分寺市の地下100メートル以上の深井戸を調査したところ、高濃度のPFASが検出されました。水源の近くにPFASを流出させる施設があれば、地下深くまで浸透して汚染させるリスクがあるのです」

 事実、三多摩地域では米軍横田基地から漏れ出たPFASが土壌に蓄積してしまい、地下水を通じて水道水を汚染したと疑われている。

 有料版では、原田氏による本件の詳細な解説に加え、欧米におけるミネラルウォーターのPFAS汚染の実態と対策について、“野放し状態”と指摘されるわが国と比較しながら詳報している。

デイリー新潮編集部