ペアローンを組んで夫婦2人でローンを分けて支払えば、住宅ローン減税もダブルで受けられる。しかし、こういったケースもいいことずくめではない(写真:bee/PIXTA)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。

新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「マイホームはもはや一生ものではない」「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。

今回は、増加傾向にある「ペアローン」に警鐘を鳴らすとともに、「熟年世代からの新しい住まいのかたち」を考察する。

ペアローンは夫婦仲が悪くなると「面倒なこと」になる

現在、東京23区の新築ファミリー用マンションの平均価格は1億円を超え、郊外や地方都市でも、10年前では予想できないほど不動産価格が高騰しているエリアもある。


これに手が届くのが、夫婦ともに高収入の正社員のパワーカップルだろう。

ペアローンを組んで夫婦2人でローンを分けて支払えば、住宅ローン減税もダブルで受けられる。アベノミクス以来の低金利で、減税効果も大きい。

しかし、こういったケースもいいことずくめではない。

それは、夫婦仲が悪くなったときだ。

住宅ローンを借りるには、債務者と居住者が一致していなければならないという原則がある。

ペアローン支払い中に夫婦関係が破綻し、どちらかが家を出れば、債務者が持ち家に住まないというルール違反が起きてしまう。

賃貸に出すのも、単身赴任に家族が同行するなどの正当な理由がなければご法度だ。

また、ローンが終わっても(夫婦関係破綻ゆえ)マンションを2つに分けて一部を賃貸に出すというのも現実的ではない

離婚して夫婦どちらかにローンを一本化するにせよ、高額物件では簡単ではない。

ペアローンで夫婦関係が破綻すれば、住宅ローンや住宅資産の破綻にもつながりかねないのだ。

険悪な関係だと、ある日知らない不動産屋から電話が入り「(元)配偶者の方の共有持分を当社が買い取りましたので、住宅の処遇について相談したいのですが」なんていうことになるかもしれない。

勝手に「共有持分」を売られてしまう

つまり、ペアローン物件で、相手が自身の共有持分を勝手に売却してしまうのだ。

住宅の名義が共有の場合、物件丸ごと売却したくても、双方の合意がなければ売却することができない

共有の相手が配偶者から見知らぬ業者に変わればどうなるだろうか。

結果的に、自分の共有持分が安く買い叩かれるという事態になってしまうかもしれない。

こうしたケースはビジネスになるらしく、「共有持分買います」といった電車広告が増えている。電車に乗ると、そういった広告を真剣に見ている人たちをよく見かける。

ペアローンは住宅の競売といった状況まで、最後までペアでついてくる懸念があるのだ。

「後期高齢者」でも、ローンが終わらない

住宅金融支援機構によれば、同機構の看板商品である35年の住宅ローンにおける借り入れ時の平均年齢は42.8歳、そして平均借入期間は32.6年となっている(「2022年度フラット35利用者調査」)。

単純計算すると、住宅ローン完済時の平均年齢は75.4歳。後期高齢者に突入している。

そしてこれは、男性の平均健康寿命である72.68歳(2019年の数値)を3年近く超える年齢でもある(ちなみに女性の平均健康寿命は75.38歳)。

長期の住宅ローンは「人生の重い鎖の足かせ」になってしまうケースが多く、その理由の最たるものが、見ないふりをしている人も多い「夫婦仲の耐用年数」の問題だ。

40歳でマイホームを手にするとき、住宅の耐用年数は考えても、夫婦仲の耐用年数を考えない人が多いのだ。

男女がともに働き、熟年離婚という言葉も一般的になったいま、30歳で結婚するなら、夫婦の耐用年数は25年と保守的に見積もっておくべきだ

住宅ローンを組む前に、「夫婦の耐用年数」も考慮に入れる

「子どもが成長するまでは」と仮面夫婦を貫き、婚姻生活(同居)を続ける夫婦も少なくない。

しかし、子どもが大学を卒業して社会人になる頃には「夫婦の耐用年数は過ぎているかも……」という疑問を封じ込めにくくなる。

実際のところ、そろそろ子どもに手がかからなくなる50代女性の中には「離婚とまでは言わないけれど、夫に単身赴任か一人暮らしをしてほしい」と考えている人が少なくない。

「夫が出て行けば介護が必要な実親、もしくは息子(娘)夫婦と住める」という声も意外に多い。

そして50代男性もまた「一人暮らしでのびのびしたい」と考えているものなのだ。

住宅ローンの年数が夫婦の耐用年数を超えれば、マイホームがジャンク化してしまう。

夫婦の耐用年数を超えたとき、夫婦がそれぞれ悠々自適に暮らしていくためにも、長すぎる借入期間はおすすめできない。

ペアローンか単独ローンかはさておき、いずれにせよ遅くとも高齢者(65歳)になる前に住宅ローンを終える必要があるだろう。

そのためには「家族全員の個室のある4LDK」をあきらめて、「子育て期間だけ少々窮屈な2LDK」といった選択も検討の余地がある。

最後に、夫婦の耐用年数を迎える50代、60代に、新しいソフトランディング (険悪な別居や離婚など、法的決着を避ける前向きな軟着陸方法)を考えてみたい。

周囲の声を聞く限り、その解のひとつが夫婦の別居(どちらかの一人暮らし)だろう(ただし寂しがり屋や一人暮らしが面倒くさいという人にはおすすめできない)。

完全別居ではなく「郵便物を取りに時々家に戻り、寂しくなったら1年程度でやめる」という「なんちゃって一人暮らし」はどうだろう。

「安アパート暮らし」なら、余裕で実現可能

23区内の私鉄主要駅であっても、15分も歩けば家賃5万円以下の一人暮らし向け賃貸物件は山ほどある。

阿佐ケ谷、中野、武蔵小山、大森、葛西などなど、選び放題というのが現実だ。

もともと23区内は独身都市で、一人暮らし向け物件の大量供給の中、少子化が重なり、選り好みさえしなければ物件はだぶついている。

インフレによる物価高の影響も、2年後の契約更新までほとんどないと思えるほどの状況だ。

一方で共働きの若いカップルが好む都心に近い2LDKなどの物件は、家賃が上がりそうな気配だ。

こうした状況下では、夫婦の片方があえて家を出て、子育て中の子ども夫婦を住まわせるという選択肢もないわけではない。

そうすれば一人暮らし先の格安物件の家賃分は余裕でカバーでき、ゆとりまで生まれるかもしれない。

実際に筆者も、一人暮らしの家を探そうと考えている。

新しい住まい選択のかたちとして、自ら実験してみたいのだ。

(山下 努 : 不動産ジャーナリスト)