木村ミサ

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木村ミサさんインタビュー

「ねえ? ねえ? ねえ? わたしの一番かわいいところに気付いてる」キャッチーな音楽にキュートな歌詞とダンスが若い世代に突き刺さり、瞬く間に、その名を世間に轟かせた7人組アイドルグループ・FRUITS ZIPPER。彼女たちの代表曲である『わたしの一番かわいいところ』は、TikTokの総再生回数は15億回、YouTubeで公開されているミュージックビデオは2462万視聴を突破し(2024年6月時点)、日本のみならず世界に“かわいい旋風”を巻き起こしている。

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 世界でバズる彼女たちはどのようにして生まれたのか――。FRUITS ZIPPERの生みの親である「KAWAII LAB.」総合プロデューサー・木村ミサさんに単独インタビューを行い、アイドルをプロデュースする上で大切にしていること、SNS戦略の秘密を聞いた。

木村ミサ

「KAWAII LAB.」は、きゃりーぱみゅぱみゅらが所属し原宿から世界へ発信するカルチャープロダクション・アソビシステムが、2022年に始動したアイドルプロジェクト。木村さんは同プロジェクトの発足時から総合プロデューサーを務めている。学生時代は読者モデルとして活動しており、ハロー!プロジェクトのグループを応援するアイドルファンだった。

「当時、タレントとしてアソビシステムに所属していたのですが、事務所が最初にアイドルプロジェクト(ASOBISYSTEM IDOL PROJECT)を立ち上げる際、社長から協力してほしいと打診がありました。コンセプト設定やメンバー選定に関わり、アドバイザー的な立ち位置でプロジェクトに参加させていただいきました」

 アイドルプロジェクトに携わる中で、自身もアイドルグループ「むすびズム」のメンバーとして活動することになり、同グループのリーダーも務めた。当初、自分がアイドルとして活動することはまったく考えていなかったが、社長やメンバーから「グループに入ってほしい」と懇願されたという。

「自分が選んだ女の子たちの人生を私もちゃんと考えなければならない。そう考えた時、自分が加入することによって動き始めることがあるのであればと思い、むすびズムとして活動することを決めました」

 むすびズムは、2017年12月に惜しまれながらも解散。アイドルとしての活動を終えた直後、新たなアイドルプロジェクト始動の話があったというが、「人の人生を預かる仕事ですので、その点で自信を持てない部分、タイミング的に整っていないと思う部分もあったので、その時は断りました」と準備期間を置いた。アイドルを愛し、実際にアイドルを経験した木村さんだからこそ、アイドルに関わる者としての責任感は強い。

アイドル文化発信「KAWAII LAB.」

 コロナ禍を経て、再び事務所側からラブコールを受けると、アソビシステムが作るアイドルのメリット、アイドルを作るための環境が整ったことを考慮して、今がその時だと判断。こうして始動したプロジェクトが、アイドル文化を世界に向けて発信する「KAWAII LAB.」だった。

「コロナ禍に辞めてしまうアイドルもたくさんいました。あの頃、アイドルの方々はアイドルとして活動できていても、自分がやりたいことのはずなのに、希望が持てない時代だったのではないかと思います。KAWAII LAB.は、歌やダンス、パフォーマンスを磨いて、本気でアイドルをやりたい子が本気でアイドルを目指せる場所。当たり前ではあるのですが、しっかり希望が持てる場所にできたらいいなという願いを込めて発足させました」

 同プロジェクトの第1弾グループ・FRUITS ZIPPERは、結成時にオーディションを行ったが採用者はゼロ。紹介などで地道にメンバーを探したという。どんな基準でメンバーを選定したのか。

「一番大事にしたことは、本気でアイドルをやりたいかどうか。本気でアイドルを目指すということはどういうことかというと、パフォーマンスがしっかりしていて、ボイストレーニングやダンスレッスンを頑張れる力がある。すぐ辞めたいと言わない(笑)。芯の強さみたいなもの、それは感覚でしかないのですが、話していて強い気持ちがあると感じた子を選びました」

 ファンとしてアイドルを応援した過去があるからアイドルの魅力を知り、アイドルを経験したからこそアイドルの苦労を知っている。

「KAWAII LAB.には、過去に別のグループに所属していた子もいて、FRUITS ZIPPERも半分がアイドル経験者です。その子たちがこれまでの活動で大変だったことを理解できると思ったので、それを考えた上でまだまだ頑張れると思える子を選びましたし、自分がアイドル好きだからこそ、シンプルに自分が応援したいと思う子も選びました」

 SNSで急速に知名度を上げたFRUITS ZIPPERは、昨年末の「第65回輝く!日本レコード大賞」では最優秀新人賞を獲得。今年の5月には、日本武道館でのワンマンコンサート2DAYSを大成功で終わらせた。結成からわずか2年、木村さんは彼女たちの大躍進をデビューライブから確信していた。

「声の質がバラバラだった」

「お披露目ライブまでにかけた時間、メンバーとスタッフと一緒に作り上げたものに自信がありましたし、ファンのみなさんにお披露目した際、思った以上に反響がありました。可能性を感じていただいたことは、特典会でメンバーがファンの皆さんからいただいた言葉やSNSを見ていても実感できました。そこは自信につながりましたね」

 プロデューサー目線で彼女たちの魅力をこう語る。

「声の質がバラバラだったのがよかったと感じています。例えば、SMAPさんは声で誰が歌っているか分かるじゃないですか。FRUITS ZIPPERも、それになり得るくらい声質がバラバラなので、そこはプロデュースする上でありがたいと思いました」

 デビューまでの道のりでは、アイドルとして当たり前にやらなければならないことに重点を置き、レッスンを積み重ねてきた。

「ボイストレーニング、ダンスレッスンはもちろん、SNS講座も開いて、売れた時に『ちゃんとできているグループだね!』と言われるための土台作りは時間をかけました。忙しくなってからは、おろそかになってしまう部分もあると思うのですが、デビュー前にできていたからこそ、忙しい状況になっても地盤が揺るがない。今もメンバーはSNSがルーティン化できていると感じています」

 冒頭で紹介した通り、FRUITS ZIPPER人気に火をつけた『わたしの一番かわいいところ』は、TikTokの総再生回数15億回を突破。木村さんには同楽曲をバズらせるための秘策があった。

「セリフから始まりたいという事と『かわいい』という言葉をたくさん詰め込んだら、楽曲としてSNSで投稿する際に使いやすいのではないかと考えました。投稿してくれる人の気持ちになった時、投稿したくなる歌詞でもありますし、振り付けも真似がしやすく、自分のかわいさを見せやすいように作られています。推し活ブームもあるので、ファンの方が自分の推しのことを投稿する時にも楽曲を使えて、さまざまな拡散できる要素を作りました」

 その秘策がズバリとはまり、男性ファンのみならず、多くの女性ファンも獲得。KAWAII LAB.の後輩グループはもちろん、他事務所にもFRUITS ZIPPERを推すアイドルが多数おり、東名阪ソロコンサートツアーを開催するほど人気の櫻井優衣は“アイドルが憧れるアイドル”と言える存在となった。

一番大事なのはライブ

「FRUITS ZIPPERを応援していると自己肯定感が高くなる。『わたしの一番かわいいところ』は、聴いているだけで自分がかわいくなった気がする。この子たちの真似をしたら、私たちもかわいくなれるのかもと思ってくれている女性ファンも多いのではないかと思っています」

 FRUITS ZIPPERの妹分に当たるグループとして、2023年にCANDY TUNE、2024年にSWEET STEADYが誕生。筆者はKAWAII LAB.グループのライブを何度も現場で見ているのだが、彼女たちの高いポテンシャル、生歌に胸を打たれた。生歌でのパフォーマンスは、ハロー!プロジェクトを推してきた木村さんのこだわりを感じた。

「アイドルはさまざまな活動がある中で、一番大事にしなければならないことがライブだと思っていて、ライブで引き込める力が何より大切です。私はアイドルが好きだからこそ、成長過程を見ていただきたいですし、それがエンターテインメントになったらいいなと思って、生歌は大事にしています」

 KAWAII LAB.発足時、乃木坂46を始めとする坂道グループ、NiziUといったK-POPグループの躍進があり、今もその勢いは止まらない。さまざまなアイドルが存在する中、あえて王道アイドルグループで勝負を挑んだ理由とは。

「アイドルのジャンルが細分化されている時代に、ど真ん中のかわいいで勝負しようと思ったのは、逆にそこがいなかったからです。コンセプトに縛られすぎても、自分たちの首を絞めてしまうだけなので、コンセプトを『NEW KAWAII』として、自分たちで自分たちの幅を作らないようにしました。今まで一大ブームを築いたモーニング娘。さんやAKB48さんは、かわいいだけをやっているグループではなく、さまざまな楽曲がある中で、そのグループの色がある曲が売れている印象があったので、このコンセプトを設定しました」

 秋元康氏、つんく♂氏などの有名プロデューサーは、男性向けにグループをコンセプト化し、アイドルを成功に導いた。木村さんは、どんな層に向けて、アイドルをプロデュースしたいと考えているのか。

「原宿から世界へ!」

「誰に向けてやっているのかを考えると、メンバーに向けてやりたいと思っています。FRUITS ZIPPERは、メンバーそれぞれ、性格も個性もバラバラ。世の中もそうだと思っていて、その子の肯定してあげられる所を作って、それぞれがどこかのタイミングで自分のことのように響いてくれたらいいなと思って作っています。私が楽曲をプロデュースしていても、パフォーマンスをするのはメンバー。メディアに出演した際、どんな曲かを聞かれるのもメンバーなので、自分たちの言葉で思いを伝えないと、やらされているだけのアイドルになってしまいます。そこを通して行けば、世の中に人たち、男性女性関係なく伝わる、響く何かしらがあるのではないかと思っています」

 アイドルを最優先で考える木村さんは、アイドルたちとのコミュニケーションも欠かさない。

「定期的にメンバーと顔を合わせて、個人面談もしています。今何が楽しい? と雑談したり、嫌なことはある? と悩みの相談に乗ったり、そういう所に楽曲を作るヒントがあると思っていて、全員に話を聞くとグループに必要なものも見えてきます」

 快進撃が続くKAWAII LAB.は、さらなるグループ拡大も視野に入れている。

「莫大に拡大させていくことは考えていませんが、候補生のKAWAII LAB. MATESというプロジェクトがあり、今後もグループを作る予定はあります。アソビシステムは地方創生の活動にも力を入れているので、地域に密着したグループを誕生させる構想はあります」

「原宿から世界へ!」というコンセプトを掲げるKAWAII LAB.。すでにFRUITS ZIPPERは、台湾の単独ライブで7万人を熱狂させるなど、海外でも実績を残している。今後の世界戦略の展望は。

「8月にアメリカに初上陸することが決まりました。今はK‐POPアイドルが盛んなので、ジャパニーズアイドルとして並べるような活動をしていきたいです。そのために、海外のステージにも立って、KAWAII文化を広めていきたいと思っています」

 アイドルたちとたくさんの夢を叶えてきた木村さん。いつか実現させたい夢をこう明かしてくれた。

「世界最大規模の音楽フェス『コーチェラ・フェスティバル』に、事務所の先輩であるきゃりーぱみゅぱみゅが出演したことがあり、いつかこの舞台に出たいとFRUITS ZIPPERのメンバーと話しました。ビッグなアーティストが集結するステージに、日本のアイドルとして立つ、それがKAWAII LAB.の目標です」

デイリー新潮編集部