ディズニー、3300億円で「クルーズ船」就航の大胆
クルーズ事業参入を発表した7月9日のオリエンタルランドの会見。写真左から吉田謙次社長兼COOと郄野由美子会長兼CEO。さらに取締役会議長の加賀見俊夫氏やウォルト・ディズニー社からクルーズ事業に関わっている幹部が出席した(撮影:風間仁一郎)
東京ディズニーシーの開業からまもなく23年。オリエンタルランドが新たな事業として目をつけたのは、またもや「海」だった。
オリエンタルランドは7月9日に会見を開き、船旅を楽しんでもらうクルーズ事業に参入すると発表した。船を新たに建造し、2028年度の就航を目指す。投資総額は3300億円を見込む。「舞浜の海を越えて、新しい可能性がある冒険の旅へと出航します」。郄野由美子会長兼CEOは、そう宣言した。
まずは首都圏の港発着で、2〜4泊のショートクルーズを運航する。船内はテーマパークそのものとなりそうだ。ディズニーキャラクターとのふれあいができるのはもちろん、プール、ジム、エステなどを設ける。
料金は一般的な客室だと1人あたり10万〜30万円とする予定。東京ディズニーリゾートと同じようにファミリー層や若年層、訪日外国人旅行者の利用を想定している。
日本籍クルーズ船の中では巨大船
現在、国内を運航する日本籍クルーズ船は郵船クルーズの「飛鳥供廖⊂αセ旭罐ルーズの「にっぽん丸」の2隻のみ。この2社は2024年12月以降、「飛鳥掘廚函MITSUI OCEAN FUJI」を投入する。だが、国内クルーズ市場における台風の目は間違いなくオリエンタルランドになるだろう。
同社が建造するのは日本籍船の中で超巨大船となる。総トン数14万トン、客室数1250、乗員定員4000人を予定する。いずれも現在、日本籍船で最大の飛鳥兇鯡3〜4倍上回る。
新造船のベースはアメリカのウォルト・ディズニー社の「ディズニー・ウィッシュ」となる。
ディズニー社は1998年からクルーズ事業を手がけている。同社の決算資料によると、ホテルやクルーズで構成されるリゾーツ&バケーションズセグメントの売上高は79億ドル(約1.2兆円)を超えている。
事業のスケールも大きく、バハマ諸島にある島「キャスタウェイ・ケイ」を所有しており、クルーズの寄港地としている。現在は5隻の船を運航しており、さらに3隻が就航する予定だ。
オリエンタルランドは、新造船が就航する2028年度から数年で売上高1000億円を見込む。これはオリエンタルランドの2024年度売り上げ計画の1割強に相当する規模だ。
また3300億円という投資総額は、6月にディズニーシーに開業した新エリア「ファンタジースプリングス」の開業費用と同程度となる。
立て続けに大型投資を行うことになるが、オリエンタルランドは2023年度、約2000億円のキャッシュを創出している。自己資本比率も70%で財務基盤は盤石だ。
乗客数は既存国内市場を凌駕する規模
年間乗客数は40万人を目指す。国土交通省のデータによれば、船内1泊以上の外航クルーズと国内クルーズを利用した日本人乗客数は、2019年で35.7万人いた。
この数字には「MSCベリッシマ」や「ダイヤモンド・プリンセス」など外国籍船の乗客も含まれている。日本発着の日本籍船の乗客に限れば11万人しかいない。オリエンタルランドは、その4倍近い乗客を見込んでいるわけだ。
今回の発表にクルーズ業界からは歓迎の声が聞かれる。ある業界幹部は「従来のクルーズ船の主要顧客は年配層だった。オリエンタルランドが新しい顧客層を開拓してくれれば、市場が活性化する」と期待を寄せる。
クルーズ事業参入は、オリエンタルランドがこれまで抱えていた課題を打破する事業になる可能性がある。同社の柱であるディズニーリゾートは連日、混雑状態が続いている。直近では1人あたりの単価を引き上げる戦略が成功し業績は好調だが、既存エリアのみでの成長には限界があった。
「海上のテーマパーク」であるクルーズであれば、ディズニーリゾートの混雑状況は関係ない。売り上げのほとんどをディズニーリゾートが占める「舞浜依存」の脱却に向けた一手といえる。
ディズニーリゾートはリピーター中心
会見で吉田謙次社長は、「今後、国外に出るクルーズなどバリエーションを増やすことを考える余地はある」と、さらなる展開も示唆した。
クルーズ事業成功のカギとなるのはリピーターの育成だ。
東京ディズニーリゾートは来園者の9割がリピーターと言われる。ディズニーリゾートであれば来園1回あたりの単価は1万〜2万円程度。しかしクルーズは10万〜30万円と高額になる。なお飛鳥クルーズは2泊だと1人あたりの単価は15万円程度となっている。
高額な費用を上回る体験価値を船上で提供できるか。オリエンタルランドの腕の見せどころとなる。
(星出 遼平 : 東洋経済 記者)