「また君」「夜桜お七」に続く人気曲に坂本さんもビックリ…

写真拡大

【写真】人気の意外性でいくとこの曲がダントツ…とご本人 「坂本冬美Spotify再生回数ランキング」 ほか

記録と記憶で読み解く 未来へつなぐ平成・昭和ポップス 坂本冬美(全4回の第3回)

第2回【坂本冬美、30年以上焦がれ続けた桑田佳祐への想いが“ラブレター”で成就した瞬間を振り返る「お見かけするやいなや、突進しました(笑)」】からの続き

 この連載では、昭和から平成初期にかけて、たくさんの名曲を生み出したアーティストにインタビューを敢行。令和の今、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービス(サブスク)で注目されている人気曲をランキング化し、各曲にまつわるエピソードを深掘りすることで、より幅広いリスナーにアーティストの魅力を伝えていく。

「また君」「夜桜お七」に続く人気曲に坂本さんもビックリ…

 今回は、演歌歌手・坂本冬美のインタビュー第3回。前回まで、彼女がさまざまな作家やアーティストから提供された作品をヒットさせてきたことを語ってもらったが、実はアーティストとのコラボ作品でも人気曲は多い。第3回では、そのあたりを掘り下げていこう。

五木ひろしとのデュエット曲「居酒屋」はオリジナルにも劣らぬ人気

 まずは、Spotify再生回数ランキング第3位の「居酒屋」。オリジナルは、1982年に五木ひろしと木の実ナナのデュエット曲として発表され、40年以上が経つ現在もカラオケの定番曲として人気を誇る。だが、坂本冬美も本家・五木ひろしとデュエットをしている。注目すべきは、オリジナルの再生回数が105万回であるのに対し、坂本冬美のカバー版は、320万回を超えていることだ。

「これは1位、2位の結果よりもビックリですね!確かに、音楽番組『うたコン』(NHK)などで何度か五木さんと歌っていますが、まさかオリジナルの3倍も聴いていただけているなんて……。もしかすると、最近聴いてくださる方々にとって、このアレンジが新鮮に聴こえて相性がいいのかもしれませんね。昭和の雰囲気を感じたい場合は、木の実ナナさんバージョンが合うでしょうし、それぞれに楽しめると思います」

 ちなみに、坂本冬美は’16年から’18年にかけて、演歌をポップス風のアレンジでカバーしたアルバム『ENKA』シリーズを3作発表しており、編曲は徳永英明のカバー・ブランド『VOCALIST』の多くを手がけた坂本昌之が担当。確かに、坂本版はビッグバンドを彷彿とさせるアレンジで、お洒落な“居酒屋”に新装している。

「カバーアルバム『ENKA II〜哀歌』を作っている時、ちょうど1ヶ月公演(大阪新歌舞伎座での『五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演』)で五木さんとご一緒していたんです。ですから、ご本人に、“新たなアレンジで『居酒屋』をカバーさせていただいてよろしいですか”と伺って実現した、という流れでした。

 ……あら!?17位にも五木さんとの『ラストダンス』が入っているんですね?この曲が、(デビュー曲で坂本の代表曲でもある)「あばれ太鼓」よりも上位だなんて!きっと私のファンというより、五木さんのファンの方がよく聴いてくださっているんでしょうね〜。『ラストダンス』は五木さんが、“せっかく舞台で共演するのだから、劇場で歌えるオリジナル曲も作ってみないか”と提案してくださったことがきっかけで形になりました。『いきものがかり』の水野良樹さんによる作詞・作曲で、ポップス系のリズムに乗るのには苦労しました(笑)。

 五木さんとは、デビュー4年目の時に、新橋演舞場で1か月公演に出演させていただいたのが最初のご縁ですね。出演を期に時代劇を勉強して、その後は、私自身の公演が多かったのですが、ここ数年、五木さんからお声をかけていただいて。今年も新歌舞伎座で10月・11月とご一緒させていただきます。五木さんは大先輩なので、いつも胸をお借りする気持ちでお慕いしています」

北島三郎、マルシア、藤あや子。交流の深いメンバーとのエピソードを語る

 デュエット企画の多くは埋もれてしまうことも多いのだが、坂本の場合は、演歌歌手とのコラボ曲がいずれも人気だ。

 Spotify第30位には、北島三郎との「父と娘」がランクイン。嫁ぐ娘と送り出す父親の心情が描かれており、北島の低音との対比のためか、坂本のハスキーな声が際立って、より艶やかに聞こえる。

「ありがとうございます。北島先生のコンサートは、デビュー前から見学させていただいて、その楽屋で“私も歌手になりたいです!”なんて言っていたころから見守ってくださっています。こちらは、北島先生のデビュー55周年に際して、各レコード会社から1人ずつデュエットするという企画から生まれた曲なんですよ」

 続いて、Spotify第32位には、「大阪ラプソディー」(オリジナル:海原千里・万里)がランクイン。こちらも『ENKA』シリーズで、猪俣公章の姉妹弟子であるマルシアとカバーしており、上品でゴージャスな“大阪”が楽しめる。マルシアは、バラエティ番組でも他の出演者と本気でぶつかり合うほど情熱的な面を見せることがあるが、坂本との関係性を尋ねてみると、

「もちろん、大の仲良しです!マルシアは妹弟子で、私が和歌山から上京したて、そして彼女もブラジルから来日したてで、お互いカタコトの標準語でお話ししたのが最初の出会いでしたから、芸能界での最初のお友達なんですよ。この『ENKA III〜偲歌〜』は猪俣先生の作品集だったので、“どうしてもマルシアに参加してほしい”とお願いしたら快く引き受けてくれました」

 そしてSpotify第34位には、三木たかしのトリビュート・アルバムで藤あや子とカバーした「もしも明日が…。」(オリジナル:わらべ)。藤あや子とは、’95年に“女性演歌5人娘”(五十音順に、香西かおり、伍代夏子、坂本冬美、長山洋子、藤あや子)として阪神淡路大震災のチャリティー・シングル「心の糸」も発表している(こちらは未配信)。

「5人ともデビューの時期が割と近くて、“同期の桜”みたいな感じがありましたね。その中でも、あや子さんは、猪俣先生の姉弟子にあたることもあって、それこそ今日まで姉妹のように仲良くさせてもらっています」

忌野清志郎らとのユニットでは「コブシを回してロックに挑戦」

 こうして演歌歌手とのコラボ作品が多いかと思いきや、なんとSpotifyの第70位前後には、忌野清志郎、細野晴臣と組んだユニットHIS(ヒズ)の楽曲もランクイン。

「あら、3曲も入ってる!私がデビューした’87年のことですが、レコード会社のロビーで、評論家のみなさまを前にして『あばれ太鼓』を披露していたちょうどその時、同じ社屋の中二階で清志郎さんも取材を受けていらしたんです。その後、“気になるアーティストは?”と聞かれるたびに、“フユミ・サカモト!”と答えてくださっていて。

そうしたら、その翌年、RCサクセションのカバーアルバム『COVERS』の中の『Secret Agent Man』のコーラスに参加させていただき、さらにその2年後、日比谷野外音楽堂で行われた『ロックが生まれた日』というイベントで、清志郎さんと、MOJO CLUBの三宅伸治さん、そして私とで、HISの前身となる“SMI”というユニットとして出演させてもらったんです。その流れを受けて、清志郎さんと細野さんと私でCDデビューしたんですね。この時は、学園祭のノリでセーラー服を着た時点で開き直って(笑)、清志郎さんの指示通りに、突然うなったり、コブシを回したりしながら、ロックに挑みました」

 さらに、Spotify第78位には、「岸壁の母」の11分を超える歌謡浪曲バージョンが!3分前後の楽曲が人気を集めるサブスク界隈では、異例の高ランクと言えるだろう。本作は、坂本冬美が休止していた芸能活動から復帰するきっかけを作った二葉百合子のカバー。この歌謡浪曲は、歌のほか浪曲、セリフ、語りを1人でこなすというライブ感あふれる内容で、坂本冬美の“究極の技”が堪能できる。

「ホントだ〜、まさかランクインしているなんて!意外性でいくと、これがダントツですね!!『岸壁の母』は、私が’02年に休業してから二葉百合子先生と出逢い、お稽古を受けたことがご縁で、歌わせていただきました。今回のランキングには新しいバージョン(’18年版)が入っているんですね。この歌謡浪曲も、今や私のコンサートでは欠かせない存在となりました。やはり、歳を重ねた今、場数も踏んできた楽曲がより上位になっているというのは嬉しいですね!先生は今でもすばらしい歌声で歌われていますから、私ももっともっと頑張っていきたいです」

インタビューを通して「とにかく、相手の方と息を合わせることが大切だと思うので、寄り添う感じで歌っています」と、コラボの秘訣を語ってくれた坂本冬美。こうした彼女の心構えは、私たちの日常に対しても大きなヒントとなりそうだ。

 最終回となるインタビュー第4回では、人気のカバー曲や、最新カバーアルバム『想いびと』について語ってもらおう。

《INFORMATION》
シングル「ほろ酔い満月」(カップリング:「淋しがり」)、カバーアルバム『想いびと』発売中!

◎『想いびと』収録曲 
M1.「ひまわりの約束」 作詞・作曲:秦 基博 編曲:城戸紘志
M2.「恋の予感」 作詞:井上陽水 作曲:玉置浩二 編曲:佐々木博史
M3. 「サクラ、散ル…」 作詞・作曲:GACKT/YOHIO 編曲:城戸紘志
M4. 「月」 作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:宮野幸子
M5. 「千の風になって」 日本語詞・作曲:新井 満 編曲:新倉一梓
M6. 「身も心も」 作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童 編曲:野村陽一郎
M7. 「One more time, One more chance」 作詞・作曲:山崎将義 編曲:萩田光雄
M8. 「Oh! クラウディア」 作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:萩田光雄
M9. 「心 はなれて」 作詞・作曲:小田和正 編曲:佐々木博史
M10.「花瓶の花」 作詞・作曲:石崎ひゅーい 編曲:宮野幸子

(取材・文:人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)

坂本冬美(さかもと・ふゆみ)
1967年3月30日生まれ、和歌山県出身。’87年3月4日、シングル「あばれ太鼓」でデビューし、同年に数々の新人賞を受賞。翌’88年には「祝い酒」でNHK紅白歌合戦に初出場。以来、’23年までに35回出場している。代表作に「火の国の女」「夜桜お七」「また君に恋してる」「ブッダのように私は死んだ」があり、’90年には忌野清志郎、細野晴臣とHISを結成するなど、ジャンルを越えた活動にも精力的。’24年にはシングル「ほろ酔い満月」と、カバーアルバム『想いびと』をリリース。
公式HP→https://fuyumi-fc.com/
公式YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/channel/UCgpubSYXBM9ZT7eHOkNNUmg

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部