ありとあらゆるものがゲームの世界のようにポイント化され、容赦なく比較される世界では、競争心が煽られます(写真:もとくん/PIXTA)

営業成績やボーナスの額、テストの点数、年齢や体重、レーティングや「いいね」の数など、私たちはなんでも計測し、数値化する世界に生きている。
しかし、私たちの脳は数字に無意識に反応してしまうため、数字はあなたを支配し、楽しい活動や経験をつまらないものにし、他人との比較地獄に陥れ、利己的で不幸な人間にしてしまうという。今回、過剰な数値化がもたらしているさまざまな問題を明らかにし、その解決策を示した『数字まみれ:「なんでも数値化」がもたらす残念な人生』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。

数字やポイントが競争意識を煽る


「私がゲームデザイナーとして利用する道具箱の中で最も大切にしているのは、ポイントシステムです。それはゲームを遊ぶ人に、何を大切にすればよいかを伝えるからです」。

これは「ロード・オブ・ザ・リング」、「ケルト」、「ロストシティ」などのゲームを制作した世界屈指のボードゲームデザイナー、ライナー・クニツィアの言葉だ。

ゲームのポイントステムは人々の物の見方をすっかり変えてしまうらしく、遊ぶ人は現実を逃避してやる気を出し、心の狭い負けず嫌いと化すから、ときにはイライラしてテーブルをひっくり返したり、互いに怒鳴りあったりする。

実生活では何の価値もない想像上の数字とポイントのせいで、普段は冷静で控えめな人が、急に敵意を見せたりすることもある。

ゲームを研究している哲学者C・ティ・グエンによれば、ゲーム世界におけるポイントシステムの論理が、今では広く社会全体で熱心に導入され、適用されているという

私たちは学校の勉強から税務申告、販売コンテスト、ボーナスプログラム、さらにツイッター(現X)の会話まで、あらゆるものを「ゲーム化」している。そしてグエンが言うように、「私たちがゲームで遊んでいるのではない。ゲームが私たちで遊んでいるのだ」。

数字とポイントシステムは、物理現象と社会現象を測定可能な単位に変えてしまう

私たちの金銭的責任はクレジットスコアに、社会的ネットワークはフォロワー数とソーシャルメディアの閲覧数に、旅行熱はマイレージサービスのマイル数に、エクササイズの楽しみはカロリー消費量と1キロメートル当たりの平均歩行速度に、それぞれ換算される。

そして、数字は競争意識とライバル心を煽る。私たちは暮らしのすべてを数値化することによって、次から次へとたくさんの領域に競争を持ち込んでいるのだ。

以前は多様なやり方で説明できた人と経験の質的相違が、今では盤石の量的相違に姿を変えた。2枚の自撮り写真、2人のビーチでの水着姿、あるいは2つのディナーが、急に競い合う間柄になり、容赦なく比較される。

数量化はランク付けを容易にする

ビジネスの世界でも同じで、ショッピングの経験は3個の星に、トイレの利用はスマイルマークに、本やコンサートは1から6までの評価に要約される。数字と数量化は複雑な現象を1次元の段階に作り替え、測定に伴って内容の大半が失われてしまうのだ

その結果、数字は言語および経験の価値にも影響を及ぼすことになる。「彼女の美しさは1から10までのどの段階ですか?」のように、質、物、人に数字という結果を結びつけることで、私たちは価値に明確な評価を与える。

8は7よりすぐれている。数量化することで、価値の関係性が単純になり、物の比較も単純になり、私たちはすべてにおいてはっきりランク付けされる

ミカエルにはインスタグラムのフォロワーが2万8400人いる。ヘルゲは135人だ。数量化は社会的地位を明確にし、社会現象を交換可能な通貨に変えるのも容易になる。そしてお金に関しては、たいてい大きい数字のほうが歓迎される――脈拍と血圧の逆だ。

アルゴリズムがビッグデータを要約して、その結果を人々に提示する。みんなクリックして比較したい気持ちを抑えられないからだ。

自分は334、ニルスは176、近所の人は189、パートナーは544。数字は――社会的知性から魅力、ソーシャルメディア上のランキング、肥満度、抑うつ傾向まで――あらゆるものに当てはまる。

数字を結びつける新しい方法が生まれるにつれて、新しいサービスが作られ、そこでは通貨としての数字の役割がより明確になってくる――よりばかげたものになると言う人もいるだろう。

相性や信頼度も計算できる?

たとえば、2006年に開始されたCreditScoreDating.comというサービスでは、クレジットスコアの相性に基づいて将来の伴侶を見つけることができる。

そのウェブサイトによれば、全男性の57%、全女性の75%が、デート相手を選ぶ際に経済的な安定性に重きを置くので、完璧なパートナーを見つけるためにそれ以上の方法は考えられないというわけだ。類は友を呼ぶとか呼ばないとか……。

ところで、フェイスブックが2015年に、ユーザーのソーシャルネットワークに基づいてそれぞれの信用度を計算する手法の特許をとったことをご存じだろうか。

この手法の土台となるロジックは次のようなものだ――友達の中に支払いを渋る人や支払い能力の低い人が隠れている場合、その人自身の信用格付けも低い可能性が大きい。

だから付き合う相手には、直接に接する場合も、デジタル上で接する場合も、よく気をつけなければいけない。さもなければ、数字に苦しめられることになるだろう

(翻訳:西田美緒子)

(ミカエル・ダレーン : ストックホルム商科大学教授)
(ヘルゲ・トルビョルンセン : ノルウェー経済高等学院(NHH)教授)