株主総会で投資ファンドのストラテジックキャピタルと激しく争ったダイドーリミテッド。しかし今度は新たな物言う株主が出現している(記者撮影)

突然の大盤振る舞いの背景に何があるのか。

「ニューヨーカー」「ブルックス ブラザーズ」などを展開するアパレルメーカー、ダイドーリミテッドが揺れている。6月27日開催の株主総会で、ダイドー株の32%を保有する投資ファンド、ストラテジックキャピタル(以下SC)が取締役交代を求める株主提案を行い、反論するダイドー側と激しい批判合戦を繰り広げた(詳細はこちら)。

11期連続の営業赤字に沈むダイドーは、旧経営陣を退陣させ、コンサルタント会社代表の山田政弘氏を会長CEOに据える取締役案を発表した。株主総会では、ダイドー側の候補5人、SC側の候補3人が取締役に選任された。

ところが、波乱はそれで終わらなかった。7月4日、ダイドーが突如、株主還元を大幅に強化すると発表したのだ。

2025年3月期から3年間の配当を1株当たり100円に引き上げ(2024年3月期は2円)、最大50億円の自己株買いも実施する。これまでのSCとの議論で話題に上がっていなかった還元強化の発表を受け、株価は急上昇し、翌7月5日には前日比150円(15.8%)高の1095円で取引を終えた。

“さまざまな臆測”を払拭したい

「株主価値最大化、事業の継続性、投資余力の確保の3点を重視した議論をした結果、増配という結論になった」

株主総会を経てダイドーの新しいトップとなった山田CEOは7月5日の会見で、還元を強化する理由をこのように説明した。

会見には新たな取締役8人全員が出席し、それぞれが経営への思いを語った。8人の中には、投資ファンドのSCが提案した3人も含まれる。「(対立があるなど)さまざまな臆測が飛び交っている。それを払拭したい」(山田氏)。

「さまざまな臆測」とは、総会前に繰り広げられた非難合戦のことを指す。山田氏は「私だけが説明するのでは体面を取り繕っていると思われる。取締役会は一丸だ」と強調した。6月27日の総会後、取締役は毎日のように会議を行ったといい、「実際には1週間しかたってないが、3カ月くらい議論した感覚だ」(山田氏)。 

SC側が社長候補として送り込んだ取締役の中山俊彦氏は、ダイドー従業員から就任を反対されていたが「とにかく現場主義でがんばっていきたい」と語った。

取締役が一枚岩になっていることを強調するダイドー。ただ、そこに新たな懸念材料が浮上している。SC以外の新たな“物言う株主”、「南青山不動産」の登場である。

旧村上ファンド系の投資会社である南青山不動産は以前から1.3%のダイドー株を保有していたが、4月末から6月にかけて市場内で買い増していた。7月4日に提出された大量保有報告書で、共同保有者と合わせて5.14%を保有していることが明らかとなった。


ダイドーリミテッドの取締役に選ばれた8人。山田CEO(左から4人目)は一枚岩であることを強調する(記者撮影)

すでに6月の総会前の段階で、村上世彰氏から面談の申し入れがあり、複数回議論をしたという。株主還元強化に関するダイドーのリリースには「村上氏は当社の業績や今般の状況などを憂いている」とあるのみで、具体的な交渉の中身には触れていない。

だが、こうした場で大幅な還元強化を話し合ったとみられる。総会直前の厳しい時期に、ダイドー側が守勢に回らざるをえなかったことは想像にかたくない。関係者によると、会長就任前の山田氏も村上氏とやり取りしたという。

還元に必要な巨額資金をどう捻出?

なお、総会の議決をめぐって争ったSC側の要求に「還元強化」は含まれていない。SCは7月8日、「今般の発表内容については弊社から提案したものでも事前に同意したものでもない」とする声明を発表した。還元強化による短期的な株価つり上げを求めているわけではないことを強調する意図があったとみられる。

ダイドーによると、100円配当と50億円の自己株買いをするためには合計130億円超の資金が必要だ。ダイドーの自己資本(146億円)とほぼ同程度という巨額の株主還元をどのように行うのか。

ダイドーは2023年に本社ビルを売却したのちに賃貸用不動産を2件取得しており、これらを売却することで還元の原資にする予定だという。取得価格は90億円程度だったとみられ、同程度の資金になる見込みだ。

SCは230億円ともいわれる多額の含み益を抱える小田原市のショッピングセンターの売却検討を求めていたが、ダイドーは売却しない方針を維持した。株主総会に先立ち、初めて公表した中期経営計画でも賃貸用不動産の売却については触れたものの、ショッピングセンターは保有し続けるとした。

株主還元自体は可能だとしても、今後の成長戦略に対する暗雲は深くなった。

中計で目指す2027年3月期の営業利益は15億円。このうち6億円をM&Aを通じて取得した新規事業などで稼ぐとしている。そのための買収資金は少なくとも数十億円が必要だ。前出の不動産売却で得られる資金を買収に使うことができないならば、ほかの資金調達手段を探す必要がある。

資金調達の具体的方策は見えず

その具体的な方策は見えないままだ。山田氏は「詳細は話せないが、(還元強化は)さまざまな試算を行った結果だ」と話すが、ショッピングセンター売却などさらなる合理化を今後迫られる可能性がある。

本業であるアパレル事業の立て直しも順調に進むのか不透明だ。あるアパレル業界関係者は山田氏について「彼はあくまで“コンサル”。事業経験が豊富なわけでもなく、現場に入り込んで立て直すことは難しいだろう」と手厳しい。

本業の不振で株価が振るわない間に投資ファンドに株式の多くを握られ、揺さぶりをかけられるダイドー。不動産などの換金可能な資産を吐き出したのちも、株主との緊張関係を強いられる可能性は高い。長いトンネルの出口はまだ見えそうにない。

(高橋 玲央 : 東洋経済 記者)