2018年に商品開発の検討などで業務提携していた2社が資本提携にまで踏み込んだ。当時の発表資料にある業務提携調印式と同様に、奥村社長(左)と瀬戸社長が握手した(撮影:尾形文繁)

どちらが多くの実利を得るのか――。

RIZAPグループ(ライザップ)とSOMPOホールディングス(SOMPO)は7月1日、資本業務提携に関する共同会見を開いた。SOMPOがライザップに300億円を出資し4.87%の株を持つという提携の内容を2社が語ったのは、6月7日の発表後初めてとなる。

今回の提携で要となる存在が、ライザップの廉価ジム「chocoZAP(チョコザップ)」だ。チョコザップは全国約1500店舗のリアル接点と、アプリやヘルスウォッチなどを通じた約120万人の会員とのデジタル接点を持つ。

チョコザップを損保や生保、介護などSOMPOの各種サービス利用者の健康増進の場とする。そして、それ以上に期待されているのが運動データの集積地としての役割だ。病気の予防や事故の防止につながるサービスの開発にデータを用いる。

目指すのは「『万が一のときの保険』から、『病気にならない、健康になるような保険』」(SOMPOの奥村幹夫社長)だ。

経営の安定性を得たライザップ

SOMPOにとって300億円は中規模の出資額になるという。ROI(投資利益率)は8%を見込む。投資効果には、健康寿命が延びることで保険契約者が減らないという中長期的な狙いもあるため、投資回収時期は明言しなかった。

一方のライザップに視点を移すと、提携によって得たものは即効性があるうえに大きい。それは経営の安定性だ。

2022年7月から展開したチョコザップは、「一般常識から外れているスピード」(瀬戸健社長)での大量出店により、話題をかっさらったが、資金面の裏打ちに欠けていた。「ジム会員数で日本一達成」など華々しい発表を行う傍ら、経営陣は資金繰りに奔走していたのが実情だ。

瀬戸社長は昨年8月以降、自身の資産管理会社から計100億円を劣後ローンでライザップに融資した。今年3月には自身が保有する株を売却、その資金で新株予約権を行使しライザップの資本を100億円増強する算段を立てた。ところが株の売却が不発に終わり、22億円しか資本を増強できなかった。

そのような中でのSOMPOによる出資は、まさに干天の慈雨。300億円のうち200億円は、チョコザップなどを運営する中核子会社に直接出資される。中核子会社はSOMPOが株式を23%保有する持分法適用会社となる。

この結果、銀行における信用格付けは大きく改善したという。「信用の裏づけと資金の裏づけがダブルで行われたことで、借り入れ時の金利負担が大幅に減っている」(瀬戸社長)。

さらに金融機関との財務制限条項(コベナンツ)に抵触していた状況が解消された。事業継続にリスクがあることを示す「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載も、6月末に提出した有価証券報告書から消えた。

本丸に足を踏み入れたSOMPO

このように短期的な実利はライザップのほうが大きい。しかし、より中長期的な利益を得るのはSOMPOのほうだとみる向きもある。

ライザップに加えて中核子会社にも出資することで、中核子会社が持分法適用会社となることになった。これによりチョコザップの成長に伴う利益を直接取り込める。

また中核子会社に取締役を送り込むことになった。チョコザップの運営ノウハウが集まるだけでなく、従来のボディメークジムも手がけるライザップの本丸だ。そこに足を踏み入れることで、データの活用法なども吸収できるだろう。

奥村社長は現状、瀬戸社長をサポートするようなスタンスを取っている。


2023年度はチョコザップ904店を直営で出店した。ライザップの瀬戸社長は「1年以内のフリーCFの黒字化」をにらみつつ、今後の出店ペースを決める考えだ(記者撮影)

「ライザップの経営や事業開発のスピードを殺さない」「今までと同じ、もしくはそれ以上のスピードで走っていくときに安心できるように、羅針盤やスピードメーターのような役割を果たす」などと会見で述べた。

ライザップの中核子会社には、リスクマネジメントや内部統制、ファイナンスの知識を持つ社員も出向させる。チョコザップの成長のために「お膳立て」をするわけだ。

融和的な関係を続けるための条件

買収攻勢による経営の行き詰まりからチョコザップでの再起を図ったこの2年で、ライザップ経営陣は新たな陣容を築きつつある。

今年6月の定時株主総会では鈴木隆之氏(42)が執行役員から取締役に昇格した。Pontaポイントを運営するロイヤリティマーケティングなどを経て3年前に入社。ライザップのデジタル戦略を担いつつ、中核子会社も瀬戸社長直下で統括する。

弱点だった財務やIR関連も、千葉健人氏(46)の執行役員の登用で変わりそうだ。千葉氏は金融機関で長くPEファンド向けにファイナンスのアレンジなどを行ってきた。2023年11月に入社、今年3月に執行役員に就任し、財務経理を担当。6月からは新たにIRも担当することになった。

SOMPOの融和的な姿勢が続くかどうかも、この新たな経営陣にかかっている。提携で得た安定性を基に、いかに結果を出していけるか。

その中では、過去に買収した企業群についても成長の道筋をつける必要があるだろう。


これら子会社は収益性が低く、今のままではチョコザップの利益を打ち消しかねない。ライザップ経営陣は古くて新しい課題に向き合う必要もありそうだ。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)