自分に合ったダイエット方法の見極めが大切だという(写真:node/PIXTA)

色んなダイエット方法を試したけど、どれも全然効果が出ない……。そんな悩みを抱えている人も多いと思いますが、それはきっと「自分に合った方法」を選んでいないからかもしれません。フィットネス先進国であるニュージーランドの公認パーソナルトレーナー資格を持つmikiko氏によれば、ネット上に溢れる情報の中から、本当に自分に合ったダイエット方法を見極めることが重要だといいます。

さまざまなダイエット方法における注意点と、正しい選び方についてmikiko氏が解説します。

※本稿は、mikiko氏の著書『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくる ベストセルフダイエット』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

情報がないのではなく、多すぎて見つけられない

スマホ1台でネット検索するだけで、何億というくらい膨大なダイエット情報が見つかる現代社会では、情報がないことよりも、正しい情報にありつけないことのほうが問題です。

たくさんある情報の中から「メリットよりデメリットのほうが大きい情報」をふるいわけして、「本当に自分のためになる情報」に辿り着くのには、小手先のテクニックだけでなく、なぜそれが大事なのかなど、その背景にあることを理解するのが必須なため、自分の目を鍛える必要があります。

そこで本稿では、いかにもそれっぽいキーワードが並ぶ情報社会で「自分が本当に必要としている情報」に辿り着けるように、気をつけなければいけない落とし穴を紹介していきます。

医師や栄養士が勧める「間違いダイエット」に要注意

ダイエット商品・サービス・情報には、よく「医師推奨」「栄養士監修」という言葉が使われます。信憑性を高めるために使われる言葉ですが、この言葉を信頼しすぎてはいけません。

その代表的なものが「ファスティング」「糖質制限」「ケトジェニック」「チートデイ」。実はリスクが高いものもたくさんあるのですが、注意点やデメリットの説明が十分にないまま紹介されがちなため、多くの誤解を招いています。

例えば、16時間ファスティングは「16時間は断食をして、残りの8時間は細かい食事のルールは気にせず食べる」という方法ですが、「8時間は何を食べてもいい」「好きなだけ食べていい」という誤った解釈で広まっています。

そのため、制限のかかった16時間が終わった途端、「好きなものを食べていいんだ!」とタガが外れて、コントロールが利かないほど暴食をしてしまう、摂食障害(Eating Disorder)、もしくはその一歩手前の段階(Disordered Eating)の副作用が問題になっているのです。

「週に1日は食事のルールを気にせず好きなように食べていい」と制限を緩める期間を設ける「チートデイ」でも同様のことが起きており、インスタグラムで「#チートデイ」とついた160万件以上の投稿を調べた研究では、その半数以上にやけ食い・暴食の傾向のある過激な食生活の写真が確認されました。

糖質制限・ケトジェニック(厳しい糖質制限の一種)も注意点の説明がほとんどされず、誤解の多いダイエットです。

低糖質の食事をすることで、短期的な体重減は報告されています。しかし長期的には、糖の処理能力が低下して、少し食べただけで血糖値が爆上がりしてしまったり、腎臓や肝臓の機能への悪影響が懸念されますが、そのことの説明がされることがほとんどないのです。

炭水化物を食べるのが怖い、食べることへの罪悪感、極端に避けるせいで暴食するといったDisordered Eating につながっているケースも報告されています。

人間の身体は糖質を使うように進化しました。唾液が糖質を消化する酵素を持っているのも、口に食べ物を入れた瞬間から糖質を血中に取り込む準備を始めるようにできているからです。

地球の至るところで何千年も前から炭水化物を主食とした文化が生まれているにもかかわらず、これまでの人類史上で初めて問題になった肥満を「炭水化物を悪者にすること」で解決しようとしているのは大きな間違い。

人間の進化の過程を無視した極端な方法であり、今後さらにデメリットにスポットライトが当たることで、いつか「時代遅れ」といわれるダイエットになるでしょう。

こうした方法にメリットがないわけではありません。でも、まるでデメリットなどないように紹介したり、リスクの説明までせずに「誰でもできる簡単メソッド」としてオススメされているのが大問題。極端なダイエットは、自傷行為と変わりません。

医師や栄養士が監修していようと、こうした極端な方法に振り回されないようにしましょう。

スポンサー企業の存在による「研究バイアス」の罠

サービスや商品に信憑性を持たせるために「〇〇大学の研究で効果が認められました」「〇○教授監修」というフレーズもよく使われますが、これも鵜呑みにしすぎないように気をつけましょう。そうした研究には「研究バイアス」がかかっている可能性があるからです。

企業が大学に監修を求める際、研究で効果の裏付けができるだけでなく、企業が有名な大学の名前を使うことでより消費者から信頼を得られるという目的があります。しかし、企業が大学にお金を払って依頼するので、全く利害関係のない機関が行うよりもバイアスがかかる可能性が高くなります。

もしあなたが誰かから「お金を払うから、私が開発した商品の効果を証明してください」と言われたら、「その商品に効果はありませんでした」という結果を伝えることは、ためらってしまいますよね。お金をもらっている以上、相当なことがない限り、少しでも効果が証明できるデータを選ぼうとするでしょう。

このような研究バイアスは、たびたび問題になります。例えば「乳製品が身体にいいことが分かった」という研究のスポンサーを生乳会社がしていたり、「肉は健康にいい」という研究の裏に生肉会社がいたりするのです。

2007年の調査によると、食品会社がスポンサーとして支援していた牛乳などの飲料の健康効果を調べた206個の研究は、4〜8倍もの確率で「健康にいい」という結論に行きついていたことが明らかになりました。

全ての共同研究でこうしたバイアスがひどくかかっているわけではありませんが、実際にこうしたケースは1960年代頃にはすでに報告され始めているので、研究されているからといって盲信しすぎないようにしましょう。

日本人女性のダイエットは「プロボクサー」と同じ

ネットで表示される何億もの「科学的に正しいとされる方法」には「特定のグループで効果のあった方法を、誰にでも効果があるように紹介したもの」も混ざっています。

プロボクサーのダイエットをオフィスで働く一般人に勧めるような記事や、マウスを使った実験結果をそのまま人間に当てはめたものまで実にさまざま。その全ての"科学的に証明された"方法のうち、「あなたにも当てはまるデータを使ったもの」はどれだけあるでしょうか?

ダイエットの世界では、伝言ゲームのような誤った情報伝達が頻繁に起きています。

例えば、SNSなどで見た記事のタイトルが「1番やせる方法はランニングだった!」と書かれていたとしましょう。

この要約情報を見た人の中に、「研究対象はアメリカの大学に通う男性アスリート」「今後も他の人を対象にした研究の余地がある」といった詳細にまで目を通す人がどれだけいるでしょうか。

タイトルだけ見て判断したような穴だらけの情報が、SNSの投稿や他のメディアを通じて伝言ゲームのように伝わった結果、アメリカの大学に通う男性アスリートを対象にして分かった方法が、ずっと日本で暮らしてきた女性にも同様の効果があるような伝えられ方をしてしまうのです。

体質が「遺伝的要素」と「環境的要素」の掛け合わせであることを知っていれば、体質も食も文化もライフスタイルも性別も異なる人たちの(時には他動物の)データをそのまま自分に当てはめるべきではないことが分かります。

重要なのは「誰に向けた情報」かを見極めること

しかし、そこまで詳細に気を配ることなく情報収集・伝達ができてしまうネット時代では、簡単に誤解が広まり、その誤解がさらなる誤解を生んでしまうのです。


自分と異なる人を対象にしたデータが、全く参考にならないわけではありません。「外的妥当性(一般化可能性)」といって、ある集団を対象にして調査した結果をどこまで適応できるか示すものがあり、外的妥当性が高い場合はそのデータを使っても問題ないとされています。

例えば、「マウスを使った実験結果をそのまま人間に適応できるか?」は「外的妥当性は低い」といえますが、「20〜60代の一般女性を対象にした実験結果を、日本人女性に適応できるか?」に関しては「外的妥当性が高い」といえます。

SNSで誰でも発信できるようになった時代においては、科学的根拠を述べている記事にすら「これって誰向けの情報?」と情報元までたどって調べて、自分に合うかどうかのふるいわけをしていかなければなりません。

科学的根拠がある情報だからとすぐ信頼して飛びつくのではなく、「誰を対象にした研究が基になっているのか?」「誰に向けた情報なのか?」「自分に応用できるか?」と調べながら、自分との外的妥当性を判断する癖をつけてください。

(mikiko : ニュージーランド公認パーソナルトレーナー、筑波大学体育学修士)