三菱電機は、静岡製作所ルームエアコン工場を報道関係者に公開した。

静岡製作所は、同社空調事業の主力工場のひとつであり、2024年に設立70周年の節目を迎えている。

三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズの生産拠点として、設立以来、高付加価値モデルから標準モデルまで、エアコンの全数を国内で生産。ルームエアコンとハウジングエアコンをあわせた霧ヶ峰シリーズ全体の累計生産台数は4400万台以上に達しているという。静岡製作所における取り組みを追った。

三菱電機静岡製作所

三菱電機静岡製作所はJR静岡駅から車で約15分の場所にある

最寄りのバス停は「三菱電機前」となっている

静岡製作所で生産されているエアコン「霧ヶ峰」シリーズ

スリムエアコン「Mr.SLIM」も生産している

○各部門を集約することで高品質なモノづくり目指す

三菱電機静岡製作所は、1954年4月に、名古屋製作所静岡工場として創立。操業開始当初からルームエアコンの生産を行っており、同年に小型エアコン第1号である「ウインデヤ」を発売。1967年にはセパレート形エアコン「霧ヶ峰」の生産を開始した。2024年には群馬製作所の給湯事業を静岡製作所の管轄へと移行している。

静岡製作所の敷地面積は20万6246平方メートルで、東京ドーム4.4個分の大きさとなる。

従業員数は5800人で、国内向けに出荷する10シリーズ71機種の「霧ヶ峰」シリーズのほか、パッケージエアコン「Mr.SLIM」、冷蔵庫、空調および産業用圧縮機、A2W(ヒートポンプ式暖房・給湯システム)を生産している。また、静岡製作所に管轄を移管した群馬工場ではエコキュートを生産している。

ルームエアコンについては、企画から設計、開発、生産、販売、サービスまでの各部門を集約した体制を、静岡製作所内で確立しているのが特徴だ。また、製造工程では、熟練の作業者がDXとの組み合わせにより、高品質なモノづくりを実施。高機能モデルから標準モデルまで、全品検査を行うことで、出荷品質問題ゼロを目指して点も見逃せない。

三菱電機 静岡製作所 所長の小野達生氏は、「静岡製作所では、『人に社会に思いやり。持続可能な未来を創る静岡製作所』を経営理念とし、三菱電機が取り組む『循環型デジタルエンジニアリング』を追求しながら、日々変化する顧客の要望など得られたデータを集約、分析することで、グループ内連携によって、新たな価値を生み出していくことに取り組んでいる。静岡製作所には、営業、マーケティング、企画、開発、製造の各部門が同居しており、時代に応じた社会課題やニーズを製品開発にいち早く反映し、タイムリーに多種多様な製品を届けることができる点が強みである」と説明した。

三菱電機 静岡製作所 所長の小野達生氏

霧ヶ峰では、「人をもっと快適にできるはずだ」をブランドパーパスとして、人を中心とした快適性を追求。センサー技術や省エネ性、清潔性へのこだわりを通じて、一人ひとりにあった快適性の実現に挑戦していることも強調した。

一方、三菱電機が推進するサステナビリティ経営においても、ルームエアコンをはじめとした空調事業が貢献しているという。三菱電機全社では、サステナビリティ経営として、5つの課題領域に注力することを掲げているが、空調事業では、そのなかから、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ウェルビーイングの3つの課題領域において貢献しているという。

三菱電機 静岡製作所 副所長兼営業部長の堀越嘉憲氏は、「幅広い機種をラインアップし、機能や工夫によって、社会課題やトレンドに対応している。酷暑や熱中症への備えとして、エアコンが必需品となる一方で、電気代の高騰により、省エネや節電意識が高まっている。また、複数台需要の増加や、寒冷地需要の増加などもあり、こうしたニーズにも対応している」と語り、高APF機種により環境負荷の低減や省エネへの貢献、同社が得意とするセンサー制御による省エネの実現のほか、2024年問題による省人化ニーズに対しては、施工性や運搬性に配慮した室内機の開発や、業界最小サイズとなる室外機を製品化。ムーブアイとエモコアイを組み合わせたエモコテックにより、人の感情を推定した快適制御を行う技術の提供や、汚れ予防や自動洗浄などによる清潔性を実現することによって、様々な社会課題やトレンドに対応していることを示した。

三菱電機 静岡製作所 副所長兼営業部長の堀越嘉憲氏

静岡製作所には、生産時の4つのこだわりとして、キット生産や作業ナビによる「生産方式」、機械化や自動化による「生産設備」、高度な技術を持つ技能者による生産および検査を行う「技能者」、通電検査や異音検査、外観検査による「全品検査」を掲げている。これに製造DXを組み合わせて、モノづくりを日々進化させている。

「品質を高いレベルで保つためにデジタル管理された生産計画に基づき、1台分の部品を品揃えしてから組み立てを行うキット生産方式を採用。作業ナビとの組み合わせによってヒューマンエラーを無くすことができる。また、高品質と高効率を両立するために自動化した生産設備を導入。稼働状況をモニタリングし、不具合状況の早期改善、設備トラブルの未然防止により、稼働率を向上させている。さらに、頻繁な生産する機種の切り替えへの対応や、ろう付けなどの複雑な作業を高度な技能を持った技術者が行っている。ろう付け作業の現場では最適な温度での作業を行うといった特別な技能の伝承にDXを取り入れている。そして、出荷するすべての製品に対して検査を実施しており、不具合が発生した際には、その場でタブレットに情報を入力し、早期に発生原因の追求、分析が行えるようにしている」(同社)という。

生産棟のなかでは、歩車分離を徹底しているのも特徴だ。作業者が危険な状態のなかで仕事をすると、焦りが出てしまい、品質に影響することを考慮。構内ではフォークリフトや自動搬送車を通行させない仕組みとなっている。

また、「工場内では、ルームエアコンの心臓部である圧縮機も生産している。さらに、圧縮機をコントロールするインバータも作っている。エアコンの組立だけでなく、キーとなるパーツも生産し、それを使いこなす拠点になっている。これか省エネナンバーワンを維持することにもつながっている」(三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部長の中川英知氏)と自信をみせる。

三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部長の中川英知氏

そして、「全機種の静岡における国内生産にこだわってきたのは、必要なときに、必要な製品を届けるためである。競合他社では国内生産に戻す動きもある。他社が三菱電機の良さに気がつき、追いついてきた」とも語った。

当面は、国内生産能力を増強する投資は考えていないが、IoTやAIによる品質風土改革や業務効率化に対する投資は進めていくという。

静岡製作所のルームエアコンの生産棟は2フロアで構成。1階では、室外機の前半工程や熱交換器の製造工程、Zラインのセル生産工程がある。とくに、熱交換器製造ラインは、業界で唯一の完全自動化ラインとなっており、業界トップの生産スピードを誇る。2階は室外機の後半工程、室内機製造工程、梱包および出荷工程となっている。

○霧ヶ峰の製造ラインを見てみる

それでは、ルームエアコン霧ヶ峰の製造ラインの様子を見てみよう。

静岡製作所で生産されている霧ヶ峰FZシリーズ

同じく静岡製作所で生産されている最上位機種の霧ヶ峰Zシリーズ

三菱電機独自のポキポキモーター。霧ヶ峰のコンプレッサーに使用されている

霧ヶ峰に搭載されている基板

ラインフローファン

圧縮機も静岡製作所で生産している

Zラインの組立工程。高度な技術を持った技能者による組立が行われている。作業者Zラインと書かれた黒いエプロンを着用している

配線が複雑であるなど、精度の高い作業を実現するために独自の台車を使った生産を行っている。台車を移動して次の工程に移る

台車の正面にあるモニターでは作業ナビが表示され、思い込みによるミスを防ぐ。ネジ締めの圧力と本数をカウントしたりする。作業時間が短い人のデータを蓄積して共有することで、生産性向上を図る

部品の形状に抜いた専用ケースを活用したキッティング供給を行う。標準モデルに比べて部品点数は6倍になる。大型部品は後側から台車で供給している

熱交換器のろう付けも熟練の作業者が行う

室外機の前半工程ではベース部品を搬送板にセットし、防振ゴムや圧縮機を自動で取り付ける。1日に30機種にのぼる生産を行うこともあるという

室外機に圧縮機が取り付けられたところ

熱交換器の取り付け作業の様子。ここからは手作業で行う

室外機の部品の取り付けが完了したところ

室外機の配管と圧縮機のろう付け作業。高度な技能を持った技術者が行う。ろう付け道場を開催し技術向上に努めている

室外機の後半工程ではキット生産方式により、ファンモーターや電装部品、プロペラファンなどを取り付け、全数の通電検査および運転検査を行う。防音室での検査も実施。生産が完了した室外機は自動倉庫に入庫する

2階の室内機の製品工程の様子

ろう付け作業では1日1万回の溶接を行う。3秒でろう付けを実施。作業者の負荷を軽減するためのバーナー形状を採用している

室内機に熱交換器を取り付けているところ

部品はハンガーと呼ばれる箱を空中で運び、手前のベルトコンベアの上で組み込み作業を行う。ハンガーとコンベアは同じ速度で流れている

配線作業などを行っあとに外装部品の取り付け作業を行う

検査が終わると組立が完了。目視でも傷がないかを確認する。検査工程では聴診器を使った人による音の検査、ムーブアイやリモコンの稼働検査なども実施する

鏡を利用して反対側の様子も確認する

梱包工程の様子

梱包された室内機は倉庫に移動する。トラックの配車状況の見える化も進めており、待機時間の削減などによる物流問題の解決にも取り組んでいる

○霧ヶ峰の未来を切り開く研究棟

静岡製作所には、多様な住環境を再現する試験棟の「霧ヶ峰みらい研究所」がある。

2015年に設置した同研究所は、「人を中心とした快適を実現する霧ヶ峰の未来を切り開くための最新の研究を行う場所であることから命名した施設」だという。

試験室は、最低温度はマイナス40℃、最高温度は54℃までの設定が可能で、室外の降雪状態を作るなど、過酷な環境を含めた様々な住環境を再現して、研究開発を行っている。「海外での寒冷地モデルの普及を見据えたマイナス温度設定と、中東での過酷な暑さにも耐えられる実験が行えるようにしている」という。

32畳の空間を4つの部屋に分割することが可能で、間取りによって異なる気流の流れを可視化。天井からぶら下がった温度計により、部屋の温度を立体的に計測する。室内に設置されている計測センサーは、温度分布測定計が2592点、湿度分布測定計が16点、風速分布測定計が300点を設置。かなり詳細な空間計測が可能だ。

また、人感温度を可視化する高精度サーマルマネキンを設置しているのも特徴だ。グラスファイバーで作られたこのマネキンは、人体の発熱や皮膚の表面温度までを考慮して、人体の熱損失量を測定することができる。全身を22部位に分割した計測が可能で、指先温度は0.1℃単位で確認することができるという。

霧ヶ峰みらい研究所の入口

霧ヶ峰みらい研究所の実験室

この日は室外機をマイナス15℃の設定で実験を行っていた

外はマイナス15℃でも、室内は23度で快適に過ごせる

天井からぶらさがっている温度計

2592点の温度センサーで計測する

床部分も計測できるような仕掛けをしている

高精度サーマルマネキンにより、人感温度を測定している

室内の温度分布の様子を可視化している

静岡製作所には、体感型ショールーム「Galerie(ギャラリエ)」も設置されている。

ここでは、実機をもとに、清潔性、快適性、施工性へのこだわりを紹介。4D VRシアターでは、壁3面にプロジェクターで映像を投影し、立体感がある環境のなかで、静岡製作所のモノづくりに対する姿勢を紹介している。

体感型ショールーム「Galerie(ギャラリエ)」

Galerieの様子。各種機能のデモストレーションを行える

ムーブアイとエモコアイによって実現するエモコテックを搭載した霧ヶ峰

霧ヶ峰に搭載されているムーブアイとエモコアイのセンサー

ムーブアイとエモコアイで検出している様子

ムーブアイが輻射熱を感知して冷房運転と送風運転を自動的に切り替えるため省エネ効果がある

電気代の9割を占める圧縮機を止めることができ、省エネ効果が高いという

ハブリッドナノコヘティングにより内部が汚れにくい構造になっている

様々な部品を取り外すことができるため、掃除がしやすいのも特徴

掃除のために取り外すことができる部品の一部

業界最小となる室外機。狭い場所にも設置しやすい

独自の高密度巻線技術を用いたモーターによりコンパクトな室外機を実現した

取っ手をつけたことで施工しやすい

室外機を固定するための金具も前方に出しているために施工しやすくなっている

熱交換器保護カバーにより、本体に傷をつけずに作業ができる

ズバ暖霧ヶ峰も体感できる。マイナス25℃までの運転が可能で、最大60℃の温風を吹き出す

歴代のエポックメイキングな製品を展示している

1968年に発売した壁掛けセパレートエアコン第1号機「霧ヶ峰 MS-22SA」

1073年に発売したヒートポンプ暖房第1号機「MSH-22RA」

業界初薄型エアコン「MS-22RJ」。1975年の発売だ

超コンパクト霧ヶ峰Fとして1992年に発売した「MSZ-F2802」

初代ミスタースリム「PSH-3A」。1978年の発売。椅子ひとつ分のスペースに設置できる

1979年に発売した天井設置型の「PCH-3B」