行政のデジタル化、効率化は待ったなしの課題だ。正しい個人情報保護を行いつつ効率化していくのは大切なことだ(筆者撮影)

6月24日に、デジタル庁が新たに「デジタル認証アプリ」をリリースした。スマホにマイナンバーカードをかざすだけで、本人認証が行えるというこのアプリ、どういう意図で開発され、何の役に立つのだろうか? 取材を通して感じる、開庁3年目になるデジタル庁の現在についてもお伝えする。

今、デジタル庁が急速に進化している

政府に関していろいろな不満や不信感を持っている人は多いと思うし、河野太郎大臣が率いるデジタル庁に関しても同様だろう。また、野党に「国民総背番号制」と揶揄されつつ始まったマイナンバーカードに関しても、「なんだか、信用ならない」と思っている人も多いようだ。

しかし、行政のデジタル化、効率化は待ったなしの課題だ。正しい個人情報保護を行いつつ効率化していくのは大切なことだ。

もともと多くの人が「お役所仕事」の非効率さを不満に感じていたはずだ。煩雑な書類を書かされ、意味も分からず印鑑を求められ、さまざまな窓口をたらい回し。民間のように、ITで効率化してほしいと、多くの人が思っているはずだ。

その非効率、煩雑さを解決し、行政事務を効率的にするために、横断的に活動できるように開設されたのがデジタル庁であり、マイナンバーカードだ。われわれが「お役所仕事」と揶揄していた事務作業が効率的になるのなら、課題がないのか、ちゃんとチェックしながら、われわれ市民もこれらの改革を上手に受け入れていくべきではないだろうか?

まずは、デジタル庁のサイトをご覧いただきたい。


非常にシンプルなデジタル庁のウェブサイト(写真:デジタル庁提供)

非常に洗練されたデジタル庁のサイト

見慣れていない人は、「あれ? 思ったよりシンプル」「ちょっとダサい」と思われたのではないだろうか? お役所といえば、HTML手打ちで作ったような古いデザインで、多くの場合洗練されていないものだが、デジタル庁のサイトはまた雰囲気を異にしている。

しかし、このサイト、実はウェブデザインのプロの多くが衝撃を受けたほど優れたデザイン。デジタル庁のミッションである「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」が具現化されたサイトなのだ。

詳しくは、デザイン系のウェブサイトをご参照いただきたいが、洗練されたデザインで、文字やデザイン要素の色味も統一感がある。

そして、何より動作がスムーズで、どんなデバイスでアクセスしていてもストレスを感じることがない。多くの人がさまざまなデバイスでアクセスする官公庁のサイトは、サクサク動くことが大切だ。災害時など限られた回線に多くの人が殺到する事態も想定されるから、シンプルかつ優れたデザインであることは非常に重要だ。

このデザインシステムと、内包された思想は公表されており、誰もが自由に利用することができる。洗練されたデザインで公共に資する、これこそ官公庁の仕事の手本のようなウェブサイトなのである。

デジタル庁 デザインシステムβ版


デジタル庁のウェブサイトの非常に優れたデザインは、コンセプトから詳細に公開、解説されている(写真:デジタル庁提供)

現在、デジタル庁の仕事が急速に洗練され、効率的に進んでいるのには理由がある。

デジタル庁は、官公庁にしては珍しく、一般から大量に人材を登用している。旧来の官公庁にデジタルのエキスパート人材がいないから当然だ。一般企業やフリーランスで活躍しているエキスパートエンジニアには、国のデジタル化自体が進んでいないことに課題を感じていた人が多い。

そんな中、優秀なエンジニアたちが、損得抜きで国の仕組みを改善するために続々とデジタル庁に参画している。実際に、我々が普段取材でお会いするような民間企業に勤めていた有名エンジニアが何人もデジタル庁で働いていらっしゃるのを筆者も実態として見ている。

マイナンバーカードで「本人であることを確認する」

マイナンバーカードについても、そういう人たちが仕組み作りに動いている。マイナンバーというのは日本国内のすべての人に割り振られている12ケタの番号だ。これは出生届を出して、住民登録を完了した時点で、すでに全国民に割り振られている。

マイナンバーカードは、この番号の持ち主であるということを証明するカードだ。

持っているだけだと、本人かどうか分からないので、顔写真、もしくは暗証番号で二要素目の認証を行う。これをオンライン、オフラインで行うことができるのが、マイナンバーカードの特徴だ。

たとえば、カードをタッチして係員が顔写真を確認する。カードをタッチして暗証番号を入力する。こうした方法で「本人である」という認証を行うことができる。

従来は、住民票や、運転免許証で認証してきたが、住民票であれば持っているのが本人かどうか確認する方法はないし、運転免許証の場合は写真の部分の偽造などのリスクがあった。しかし、マイナンバーカードであれば、チップが内蔵されており認証することができるし、顔写真の確認も可能だ。


マイナンバーカードにはプライバシー性の高い個人情報は入っていない(写真:デジタル庁提供)

「マイナンバーカードに個人情報が記載されている」と誤解されがちだが、マイナンバーカードは「本人を認証するためのカード」だ。内部のチップにも、たいした情報は入っていない。記載されているのは、マイナンバーに加えて、氏名、住所、生年月日、性別の4情報、そして顔写真のデジタルデータだけだ(厳密には空き領域に多少の情報は記載できそうだが)。

つまり、マイナンバーカードは本人性を立証するためのカードで、住民票関係の情報は地方自治体に、健康保険証関連の情報は厚生労働省にと、それぞれ別々に保管されている。必要最小限の情報を、別個に管理する仕組みなのだ。

今後、口座開設や転売防止などさまざまな場面で活用

今回、アプリとしてローンチされた「デジタル認証アプリ」は、スマートフォン側で、このマイナンバーカードの仕組みを使って本人であることを認証するアプリ。同様のものは従来でも作ることができたが、多大なコストと手間がかかった。今回、アプリ、そしてAPI(ソフトウェアを作る部品のようなもの)が公開されることで、多くの民間企業でも、マイナンバーカードによる認証を低コストで組み込むことができるようになった。

例えば銀行口座開設の際の認証も、従来だと免許証、住民票の2種類以上を送るとか、住所確認のために公共料金の領収書を送らなければならないなど、煩雑かつ何かと不安だが、「デジタル認証アプリ」とマイナンバーカードを使えば、簡単、確実に個人認証を行うことができる。


「デジタル認証アプリ」利用の流れ(写真:デジタル庁提供)

銀行のウェブサービス、またはアプリで、口座開設の手続きをして、本人認証の部分で、「デジタル認証アプリ」に飛んで、暗証番号を入れて、マイナンバーカードをスマホにかざして(NFCで通信が行われる)、本人認証完了というわけだ。

簡単、確実な本人認証が可能になると、さまざまな可能性が広がる。

市役所などのサービスのログインや、銀行口座開設などはもちろんだが、ライブのチケットや、転売が予想されるような人気商品でも確実に「ひとり1枚」「ひとり1個」を実現できる。携帯電話をオンライン契約する際に活用すれば、携帯電話詐欺などの対策にもなるだろう。


マイナンバーカードの活用事例。今後、「デジタル認証アプリ」もこういった用途で利用されるようになっていくだろう(写真:デジタル庁提供)

本人性を重視するSNSや、本人を証明することが重要な婚活アプリなどでも活用されるかもしれない。

もし、この「デジタル認証アプリ」を使う機会があれば、その安心・安全な仕組みを体感してみていただきたい。

(村上 タクタ : 編集者・ライター)