円安や輸入牛肉の仕入れ高などもあり、モスバーガーも商品開発を工夫している(記者撮影)

ハンバーガーチェーン大手、モスバーガーが一風変わった商品開発に乗り出している。肉や魚など、使用する食材を先に決めて調達し、商品を開発する方法だ。マーケットのニーズよりも、企業側の戦略を重視する「プロダクトアウト」の方針といえる。

今年4月には組織改編を実行し、マーケティング本部から商品開発部とSCM部(サプライ・チェーン・マネジメント部)を分離。商品本部を新設した。本格的に食材を起点とした商品開発を進めようとしている。

とはいえ、原材料を先に買い付けても、商品がヒットするかはわからない。商品化がより難しくなるようにも見えるが、なぜ思い切った商品開発を進めているのか。

真鯛バーガーは発売2週間で約60万食

食材を起点とした商品開発を進める狙いは、調達を安定させることだ。あらかじめ契約を結ぶことで、その後の価格上昇や為替変動の影響を受けない。逆に価格が低下し、市況より高い価格で購入するリスクもあるが、コストを計算しやすい点はメリットになる。

一時的に余っている肉や魚など、安い価格の食材を機動的に扱える面もある。最近は海外での調達も厳しい。超円安の影響もあり、特に水産物などは需要が高まる海外勢に「買い負ける」状況が顕著だ。モスバーガーは先行して食材を調達する方法も含め、戦略を練ってきた。


ヒットとなった真鯛を使用したバーガー。愛媛県は養殖真鯛の生産量で日本の約5割を占め、うち愛南町が3分の1を占める(写真:モスフードサービス)

すでにヒット商品も生まれている。2021年5月には愛媛県愛南町の漁協と組み、養殖真鯛を使用したバーガーを数量限定で530円で発売。真鯛のカツを2枚のせ、レモンタルタルソースを合わせた商品だ。

コロナ禍で出荷量が落ち込んだ漁協を応援し、フードロスも削減するといった企画だが、発売後2週間で約60万食を売り上げるヒットになった。客から再販の要望が多く寄せられ、2022年9月には西日本限定で復活するほどの人気ぶりだった。

もう1つは2022年12月に100万食限定で発売した「一頭買い 黒毛和牛バーガー」(690円)。牛肉価格の上昇に対応した商品だった。


牛肉価格が高騰する中で発売した「一頭買い 黒毛和牛バーガー」。新たな定番として今年も販売する可能性がありそうだ(写真:モスフードサービス)

名前の通り、黒毛和牛を一頭丸ごと買い付けたことで、サーロインやヒレなどの高級部位、希少部位も調達。部位を選んで仕入れるよりもコストを抑制できたという。全19部位を使用するなど高級感を出しつつも、価格を抑えたバーガーとなった。

こちらも真鯛バーガーと同様にヒットし、翌2023年11月に復活。ソースを軸にグレードアップし、790円と860円の2種類の高級バーガーとしての販売となった。

モスフードサービスの商品本部長・安藤芳徳氏も手応えを感じているようだ。「以前はターゲットばかりを意識していたが、原材料を発想の起点とした商品開発にも可能性がある。プロダクトアウトと(顧客の要望に合わせた)マーケットインの割合を7対3ぐらいにしていくことが理想だと思っている」。

第3のヒットバーガーの食材は?

実は、モスバーガーはもともとプロダクトアウトが強みだった。ただ、フランチャイズの店舗が9割以上で、直接顧客の声を聞くことは難しかった。そこで2019年に、より顧客が求める商品を開発するため、商品開発とマーケティングの部署を統合し、マーケティング本部を創設した経緯がある。

当時の課題だった「誰をターゲットに何を売るか」という意識が社員に浸透したため、今回再び、組織改編でプロダクトアウトを強化することになったわけだ。モスバーガーにとっては方針転換というより、仕入れの状況に合わせた開発方針の「調整」が正しいかもしれない。

前述のように、食材を起点としてもヒットするかは別の問題だ。具体的な商品が決まらなければ、マーケティング戦略も決まらず、オペレーションも構築できないという難しさがある。それだけに、真鯛や黒毛和牛のような、消費者に広くアピールできる商品を開発していくことが求められる。

定番のモスバーガーやてりやきバーガーなど、多くのロングセラー商品を生み出してきたモスバーガー。食材先行の商品戦略でも強みを発揮できるか。その開発力が試されている。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)