日本人は外国人を「○○人」と一括りにして見がちだが、個人として対話を深めないと相互理解は難しい(写真はイメージ・metamorworks/PIXTA)

2024年5月15日に日本政府観光局(JNTO)が発表した2024年4月の訪日外国人数は、2019年同月比4%増の304万2900人。2024年1月〜4月の累計は1160万1200人となり、円安効果もあり、過去最高であった2019年を超えるだろうと予想されています。

そのような中、外国人に人気の観光地としてつねに上位にランクインする「清水寺」を先日、訪問しました。驚いたのは外国人観光客のマナーです。

清水寺の外国人

手水舎(ちょうずしゃ)と呼ばれる、柄杓(ひしゃく)で水をすくって身と心を清める場所では、使い方がわからず、ただ手を突っ込んで手を洗っている外国人観光客が見受けられました。

また、境内に上がるために靴を脱ぐ際も、靴が散乱しているなどの光景がありました。こういったシーンを目の当たりにすると、日本の方々が外国人に対する嫌悪感を抱くのも無理はないと感じます。

しかし、一緒に訪れた社員が話すには、10年前に訪れた際には、それぞれの場所で案内、説明、注意する人がいて、訪問者が多くてもこのような混乱はなかったそうです。

おそらく、人手不足でそのような案内や説明をする人が雇用できなくなり、その結果、外国人観光客が適切な作法を理解できずにいるのだと思います。

文化が違うのですから、コミュニケーションを取り、その意味とやり方を伝えることは大切です。伝えれば、同じ人間同士、理解できるはずです。これは外国人の観光客だけでなく、就業してもらう外国人に対しても非常に重要なポイントだと感じています。

「昨日はうちの施設で働くミャンマー人技能実習生たちが清明区民体育大会に参加して、市民の子どもたちと一緒になって楽しみ、『施設長、楽しかったです!』と元気に報告してくれました」と、当地で介護施設を運営する社会福祉法人新清会「あさむつ苑」(福井市)の吉田雅世施設長は嬉しそうに話されました。

参加するきっかけとなったのは、吉田施設長が介護施設で働く外国人が通勤で困らないよう、困ったときに助けてもらえるようにと、この体育大会を運営していた福井市清明公民館(https://seimei.cf0.jp/)に相談したことが始まりでした。

今から30年ほど前、「町おこし」の一環として、「公民館は子どもから老人までが『体験』を通して集まり、触れ合い、経験し、地域で助け合う場であってほしい」という理念で、公民館の川口英雄館長が始めたのが活動のきっかけだったそうです。

近年、この地区も外国人の在住者が増えてきていることもあり、子どもから老人までだけでなく、外国の方も地域で助け合う必要を感じて、清明国際交流クラブを立ち上げました。この中心メンバーの1人が池尾恵子さんです。

「知る」ことこそ多文化共生への一歩

「自分は福井で開催された世界体操選手権のボランティアで初めて外国人と触れ合いました。その感動と経験を多くの近所の方々に知ってほしいし、そのきっかけを作りたい」と活動を始めたそうです。


体育会に参加したミャ・ザベー・リンさん(前方右から2人目)とニンイー・イー・ラインさん(前方左)(写真・清明区民体育大会運営委員撮影)

この体育大会には地域の子どもからお年寄りまで約300人が参加しました。ミャンマーの国旗を持って応援した小学生は、この珍しい国旗を見て『ミャンマー』を初めて知ったそうです。

一方、参加したミャンマー人のミャ・ザベー・リンさんは「普段は仕事でお年寄りや社員の方々と話すことはありますが、子どもや施設以外の方々と一緒にいろいろな話ができて楽しかったです。夏祭りや登山などもあるようで楽しみにしています。やさしい日本の人々と一緒に生活でき、この場所で働くことができてよかった。日本で働きたいと思っているミャンマーの友達にも紹介したい」と話しています。

池尾さんは、「お互いを知ることが多文化共生の第一歩」「この地域には、働く外国人としてだけでなく、住民として迎え入れたい。さらに、幅広い年齢層同士のご近所付き合いできれば、高齢化していくこの地域にも活気が生まれ、普段から地震などの有事に備えることにもなる」と、日々楽しみながら活動しています。

株式会社キャピタルナレッジ(大阪市)は、2014年にミャンマーに進出。コスト削減や人材不足などに悩んでいる日本企業の悩みを解決すべく、システム開発会社向けにはラボ型の専属オフショア開発センターとしてシステム開発業務の提供を行っています。

ECサイトの運営会社向けに商品登録・画像加工・受注業務、ハウスメーカー向けにCAD製図業務等を行うなど、幅広い範囲で日本企業向けのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)業務を行っています。

2020年3月頃からのコロナ禍、2021年2月のクーデターなどの困難な状況が続く中、現在、ヤンゴンにて120人の社員が活躍しています。

毎年9月には当社の周年パーティーを開催していましたが、2020年以降はコロナ禍のため開催できませんでした。そこで、同社の新谷和敬社長は、社員の気分転換のため、オンラインでパーティーを行うことにしました。

クーデターの影響により、進出企業の中には事業縮小や撤退を余儀なくされる企業もあり、ミャンマーの社員の中にもミャンマーからの撤退を心配する人が増えています。

コロナ禍にクーデター

とはいえ、2022年度のオンラインパーティーの冒頭では、事業の継続意思とミャンマーでの今後の事業展開について直接社員に伝え、安心感を共有しました。


キャピタルナレッジ社で働くミン・ミン・リーさん(右)と、ノー・ジュン・チャー・クーさん(写真・キャピタルナレッジ提供)

さらに、事業のオンライン化に伴い、事務所を縮小し、インフレの進行により生活が厳しくなっている社員のために給与を増額しました。これにより、ミャンマーの社員のモチベーションが向上し、退職者が一定数いる中でも事業を継続することができました。

「実際のミャンマーを肌で感じ、社員たちと直接対面できたことが非常に大きかった。スタッフたちと個別に会話もでき、コロナ感染拡大からクーデターの間の日本の状況や会社意思を伝えることができました。国を超えたコミュニケーションの大切さ。何度か訪れた難局時に直接ミャンマー社員と対話をする機会があり、その時々のお互いの考えを理解できた」と新谷社長は振り返り、厳しい環境のミャンマーでここがキーポイントだったと語っています。

新谷社長が、スポーツメーカーで働いていた時の上司に海外勤務経験があり、「外国では外国の文化を理解しないといけない」とよく話していたのを覚えていたそうです。

世界的なIT人材不足から、即戦力として使える当社の社員が海外で就職先を見つけることは難しくありません。クーデター以前も、退職して給料がミャンマーで得られる数倍になる海外で働く人材は少なくありませんでした。

その渡航先の多くは日本やシンガポールです。一般的には、退職した社員とは人間関係が途絶えますが、新谷社長は対話を重視し、特別な関係を築いているため、退職後もメッセージでやり取りする社員が多くいます。

また、日本の異なる場所で働く元社員が大阪に来た際には、一緒に食事するなど、交流を続けている元社員も少なくないようです。

先日、日本に来ている元社員のメンバーに声をかけ、車を借り切って京都観光を企画されました。集まったメンバーは12人。

その中で涙を流す社員がいたので理由を聞いてみると、IT企業で働いているのではなく、日本語学校に通っているとのことでした。日本で介護の仕事をしながら指定の日本語学校、そして介護専門学校に通い、介護施設で8年間働けば、留学費用は奨学金制度の利用で、自己負担なく通えるというプログラムで来日したそうです。

途中でこのプログラムを辞めると、違約金として授業料約300万円を返済しなければならないため、辞められないとのことです。

20代のほとんどを日本で過ごす意味

ミャンマー国内の政治的混乱から生活が厳しくなる国民が多い中、仕事を選ぶ余裕もない状況で選んだ道。生きるための選択肢としては恵まれているかもしれませんが、20代の一番大切な時期の8年間、この制度は外国人目線で見れば複雑な心境になります。

来日3年目でITスキルも高く、日本語力も高い、ECサイトを運営する日本の会社で働くIT人材がいます。給料は能力から見れば決して高いわけではなく、転職しようと思えば引く手あまたで賃金も上がりそうです。

それでも転職しないその人材に対して、ある時、新谷社長は「なぜ転職しないの?」と聞いたそうです。すると、その人材は「何度も辞めよう、転職しようと思った。ただ、社長がミャンマーのためにがんばってくれているから、私もこの会社でがんばって恩返ししようと思っています」と答えたそうです。

とはいえ、こう考えてくれる社員だけではなく「すごく感謝され、関係は深くなるが、会社を辞めるときは割り切ってあっさり辞める」「ただ、今の国の状況もあって環境が厳しいし、文化の違いもあるので仕方ないこと」と笑って答えています。

「もちろん、いい気はしないが、それでも会社のこと、自分のことを気遣ってくれる社員らもいるのも事実。せっかく自ら育て思い入れのある人材でもあるので、どこかでつながっていれば、将来、ミャンマーの国が正常化して、弊社も事業が大きくなれば、一緒に働ける機会がやってくるのでは」と新谷社長は将来を見据えています。

外国人への先入観はいらない

外国人は?」「中国人は?」「ベトナム人は?」と一括りにして語られることが多いですが、「日本人は?」と一括りにすることが難しいように、それぞれの国には宗教や文化的背景からくる特徴がありますが、個人は人それぞれです。

それなのに、外国人の話題になると、先入観から、何となく一括りにして相手のことをわかろうとしない傾向があるように感じます。問題を解決するためには、お互いが違うという前提をまず受け入れ、そのうえで、その違いを「コミュニケーション」を通して理解し合うことが重要です。

個人同士で体験すると、相手の魅力的な一面に気づくことができます。お互いの違いを理解し合う関係こそが多文化共生において大切であり、さらに日本の文化を伝え理解してもらうことが、「海外に選ばれる日本」への第一歩ではないでしょうか。

(西垣 充 : ジェイサット(J-SAT)代表)