「覚悟と自信を持って」チョコザップの出店に身銭を投じた瀬戸健社長。株主も含めて報われる日が来るのか(写真は左が記者撮影、右が今井康一撮影)

当初計画を上回る決算だったにもかかわらず、翌日の株価は一時ストップ安、しかも5日続落――。そんな事態に見舞われたのはRIZAPグループ(ライザップ)だ。

ライザップといえば、月額2980円(税抜き)の廉価ジム「chocoZAP(チョコザップ)」が話題だ。2022年7月の展開開始からまだ2年足らずだが、直営で約1500店を出店。この間、広告宣伝費やアプリ開発費などを含めた出店費用は約369億円に上った。

ライザップの企業規模を考えると、大量出店するチョコザップはまさに社運を懸けた事業。だがその成否をも左右する根深い問題が、株価続落の背景に横たわっている。

失望売りをなぜ招いたのか

5月15日にライザップが発表した2023年度決算は、チョコザップを約900店も出店する中で営業赤字を約6億円にとどめた。年度当初に予想した営業赤字45億円よりは格段に改善した数字で着地した。また、2024年度の営業利益予想は63億円と、3期ぶりに営業黒字化する計画を発表した。

ところが株式市場は失望売りを浴びせた。2024年度の計画値が期待を下回る数字だったからだ。瀬戸健社長は、「攻めの姿勢を期待されているかもしれないが、今回はあえて慎重な数字を示した」と東洋経済の取材で語った。市場の反応はやむなしとの雰囲気だ。

2024年度は出店数を昨年度の「7掛け」(瀬戸社長)に抑える代わり、足場固めを進める計画だ。店舗を巡回するトレーナーを500人採用。マシンの利用法を教えるなど顧客満足度を高めつつ、店内環境の把握に努めることに費用をかける。

振り返ると、チョコザップに対する市場の期待はやや先行していた。実際は、故障マシンの修理の遅れや店舗内の清掃不備など無人運営ならではの課題が、チョコザップの成長を阻害する要因になり始めていた。そのことを考えると、慎重な計画であることはもっと評価されていい。

ただ、市場の期待は勝手に高まったわけではない。単月黒字化のアピールや2026年度に3800店とする中期経営目標のアップデート、配当復活についての言及など、ライザップ側が醸成したものだった。

市場が失望した場面は今年3月にも見られた。瀬戸社長が行った立会外分売のときだ。立会外分売とは、取引時間外(立会外)に不特定多数の投資家にあらかじめ決まった価格で株式を大量に売り出すことをいう。

「不発」に終わった分売

3月7日、創業者で大株主である瀬戸社長が発行済み株式の約5%に当たる株を売却すると発表された。売却で得た資金を全額使って自身が持つ新株予約権を行使することにより、ライザップの資本を増強する算段だった。

ところが分売発表の翌日、ライザップ株はストップ安に。しかもその後の分売では、売りに出した株数の2割しか買われなかった。結果、資本増強額は22億円と、当初想定の約100億円を大きく下回った。


投資家は株式の需給悪化や希薄化を嫌気したとみられる。この結果を受けて瀬戸社長は、需給を乱すなど混乱を招いたとして、さらなる分売を当面行わないと発表した。また、「市場との対話」における反省点もあらわになった。

株を売却する瀬戸社長はインサイダー取引規制に抵触しないようにしておく必要があった。そのためライザップは、分売発表前に新サービスの公表などを半ば駆け込みで行った。

それらは総じてチョコザップへの期待を高め、ライザップ株の上昇につながった。それが一転、分売の発表となり、投資家に冷や水を浴びせる格好となった。

一連の過程を追うと、瀬戸社長を筆頭とする今のライザップ経営陣に欠けているものが見えてくる。市場とうまく対話する力と、それができる人材だ。チョコザップの大量出店費用を賄うためには備えておきたいものだった。

瀬戸社長が選ぶ「次の手札」は

これまでチョコザップの出店費用は借り入れを中心に手当てしてきた。借入先は銀行だけにとどまらず、ライザップが傘下に持つ子会社にも広がっている。

さらに瀬戸社長が昨年8月以降2度に分けて、自身の資産管理会社から計100億円を劣後ローンでライザップに融資した。この100億円は瀬戸社長のまさに「虎の子」の資金だった。

「過去の分売で得たお金をそれこそ1円も使っていなかった。こういうときのために大事に取っておいた。それを今回目一杯出した」(瀬戸社長)

このように手札を切ったうえで行った分売だったが、もくろみを大幅に下回った。今後のチョコザップの出店計画に影響を与えないとするが、資本増強額が想定を下回ったのはやはり痛い。

ライザップは、チョコザップの既存店から得る収入で新規の出店費を補う青写真を描く。ただ、早期にそこまでたどり着けるのかは予断を許さない。次の手札を用意しておく必要はあるだろう。

今後、投資家からの信頼を取り戻し、市場から資金を調達できるのか。はたまた瀬戸社長は、今まで避けてきた外部資本の受け入れも検討するのか。ライザップは大きな岐路を迎えているのかもしれない。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)