この記事をまとめると

■輸入車ではルーフが低いワゴンを「シューティングブレーク」と呼ぶことがある

■コンセプトは貴族が狩りに出かけるときに乗るためのクルマだった

■トヨタ86にはかつて「86シューティングブレーク」というモデルが存在した

シューティングブレークってなに?

 多くのクルマ好きは、スポーツカーやファミリーカー、ショーファーカーのように用途によってクルマを区別することが多い印象もあるが、クルマのスタイルで識別する専門用語も存在している。たとえば、コンパクトなベーシックカーに多い「ハッチバック」といえば、トヨタ・ヤリスやVWゴルフといったモデルが代表格だ。

 ほかにも、ショーファーカーに使われるような、独立したトランクを持つ4ドアのクルマは「セダン」といわれるし、同じようにトランクを有していても2ドアの場合は「クーペ」と呼ばれることが多い。また、セダンをベースにリヤまわりをハッチバック的なスタイルとして多くの荷物を載せられるようにすると「ステーションワゴン」と呼ばれたりする。

 ただし、こうした分類は明確な基準が存在するわけではない。4ドアセダンであっても、ルーフを低くしたフォルムを持つ場合は「4ドアクーペ」と区別されることも増えてきている。

 同様に、ルーフを低めるなどスタイリッシュ方向にデザインされたステーションワゴンについては「シューティングブレーク」という呼び名で区別されることが多い。メルセデスベンツCLAやVWアルテオンといったドイツ車には、シューティングブレークと名付けられたバリエーションがラインアップされているのは、ご存じのとおりだ。

 ただし、アストンマーティンやジャガーといったプレミアムクーペをベースにしたシューティングブレークが生み出された1960年代においては、2ドアクーペのボディ後半をワゴン的に変更した3ドアボディを指すものだった。車種選定からも想像できるように、貴族文化が残るイギリス社会において、まさに貴族が狩りに出かけるときに乗るためのクルマがシューティングブレークだったのだ。

 プレミアムなクーペ的なスタイリングを崩さず、なおかつ走行性能もスポイルしないまま、ラゲッジスペースを拡大するというシューティングブレークは、まさに余裕を感じさせる贅沢なジャンルとなった。

 そして、このスタイリングにおいてはルーフが延長されることで、後席スペースが広くなるという嬉しい副産物もあった。

市販化の可能性を匂わせた1台

 そうしたメリットに注目して生まれたのが、ここで紹介する「86シューティングブレーク」。初代86をベースに2016年に生まれたプロトタイプではあるが、国産モデルとして、おそらく唯一「シューティングブレーク」と名乗ったモデルだ。

 アイディアを思い付いたのはオーストラリアのデザインスタジオだという。彼の地においてもトヨタのスポーツクーペ「86」は人気を集めていたが、立派な体躯のオージーにとっては、いかんせん後席が狭すぎるという評価だったという。

 そこでスタイリングを崩さずに後席スペースを拡大できる手はないか……と考えた末、前述したシューティングブレークの副産物的メリットを利用するというアイディアにつながったという。

 残念ながら、この86シューティングブレークはプロトタイプ止まりで終わってしまったが、テールゲートはレクサスCTのそれを利用するなど非常に現実的なアプローチによって作られていたことで、量産への期待を高めたのも事実。

 リヤまわりのボディが拡大したことで車両重量は増えてしまっているのだが、重量増の多くが後軸にかかるということもあり、トラクション性能が増していたという高評価も伝え聞くところ。

 SUVやミニバンが当たり前のなかで育ってきたドライバーからは「クーペはスポーティなのかもしれないけれど、荷物が積めないクルマ」と低評価を受けがちだが、シューティングブレークであれば、そうしたネガは解消される。GR86の次期モデルでは、こうしたバリエーションも含めて進化することを期待したい。