日本は人口の5割が独身者の「超ソロ国家」になる…これから「ひとり暮らしの高齢者」が激増していく理由
■すでに日本の独身人口は有史以来過去最大
日本は人口の5割が独身者の「超ソロ国家」になる。
これは、2017年に上梓した拙著『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)において書いた内容ですが、いよいよそれが現実味を帯びてきています。
2020年の国勢調査の段階で、15歳以上人口に占める独身者数(未婚に加え、配偶者との離別死別による独身も含む)は約4930万人となり、これは1920年の国勢調査開始以降過去最高であるとともに、日本の有史以来過去最大の独身人口となります。15歳以上人口に占める独身の割合である独身率は44%を超えましたが、今後さらにその割合は高まることが予想されます。
4月12日に、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の最新版2024年推計「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」が発表されましたが、それには2050年までの年齢別配偶関係人口推計があります。それによると、独身率は2040年に47%を超え、2050年には47.4%まで上昇すると推計しています。
しかし、これはあくまで3つの推計シナリオのうち(高位・中位・低位推計がある)中位推計に基づくものであり、過去の社人研の推計と結果を突き合わせると、ほぼ低位推計通りに推移しているので、この独身率は2050年には50%を超えるだろうと個人的には思います。
■若者よりも中年・老年の独身数が上回っている
日本の独身率推移を長期的に見れば、大正時代の1920年は37%でした。その後、太平洋戦争前後で一度40%を超えましたが、戦後の第二次ベビーブーム期の1970年代の大結婚増時代を経て、若者の独身人口が減り、90年代には34%にまで下がりました。その後、未婚率の上昇に伴い、独身率もあがっていったわけです。
ところで、独身というとつい若者をイメージしがちですが、現代およびこれからの独身は若者ではありません。39歳までの若者独身人口と40歳以降の中年老年独身人口の推移を見ると、2015年に逆転しています。今や、独身といっても40歳以上の独身のほうが多いのです。
その理由は、長らく続いた出生減によって、そもそも若者の絶対人口が減っていることと、第二次ベビーブーム期に生まれた人口の多い団塊ジュニア世代の未婚率が高まっていることにより、彼らが今や40歳以上の未婚者群となり、中年独身人口を押し上げているからです。今までの独身人口増が未婚人口の増加によるものであることは確かですが、今後はそれだけが要因ではありません。
これからは65歳以上の独身人口が急増します。皆婚時代に結婚した既婚者群が、配偶者との死別によってまた独身に戻るパターンが増えるからです。
■40歳以上の独身の割合が急増している
以下、独身と有配偶を年齢15〜39歳、40〜64歳、65歳以上の3つに分類してその構成比で色分けしたグラフを参照ください。
2020年の段階でも40歳以上の独身の割合がすでに急増していることがわかりますが、社人研の2050年までの推計では、2045年には、30代以下の若者独身人口より、65歳以上の高齢独身人口のほうが上回ってしまいます。
冒頭に述べた「超ソロ社会」とは、今でこそ「若い未婚者の多いソロ社会」ですが、今後は生涯未婚のまま高齢者となった層と配偶者との死別によって独身に戻った元既婚者層による「高齢ソロ社会」へと変わっていくことになります。
ちなみに、エリア別にみれば、東京圏や大阪などの大都市においては、若い独身の多いソロ社会となり、地方などに行けば「高齢のソロ社会」となり、同じ独身が多いといってもその様相がまったく異なるものになります。
■「妻が看取ってくれる」と思わないほうがいい
加えて、地方の場合は、高齢夫婦の死別による単身世帯化がこれから激増します。持ち家比率の高かった時代に結婚して一軒家に住まう現高齢夫婦は、いずれどちらかが先に亡くなって一人暮らしになります。子どもや孫がいたとしても、同居しているとは限りません。結婚して、子どもを持っても、いつかは必ず夫婦のどちらかはまた一人になってしまうということは覚悟しておいたほうがいいでしょう。
「妻が看取ってくれるから」と安心している既婚男性もいることでしょう。確かに、死別高齢独身人口を男女で比較すると、2020年時点で男性161万人に対し、女性768万人と女性のほうが圧倒的に多いのですが、それでも妻に先立たれる夫は全体の夫婦の2割弱はいることを示します。幸か不幸か、最近では男性の平均寿命も延びていますし、必ずしも、妻より夫のほうが早く死ぬとは限りません。
死別ではないまでも、熟年離婚によって独身に戻る場合も増えています。同じく2020年時点で、離婚して独身に戻った高齢独身者は、男性87万人、女性135万人で、こちらは死別パターンより男女の数が拮抗しています。
これら婚歴のある独身出戻り組に加えて、1990年代以降急増した生涯一度も結婚したことのない未婚組が加わることで、65歳以上の高齢独身人口はこれから過去最大規模を更新していくことになります。
■「60歳で年金」という社会構造も大きく変わる
すでに、2020年の段階で、高齢独身人口は約1374万人です。ほぼ東京都の人口と同規模の高齢独身者が存在していることになります。これが2050年には1800万人を突破することになりますが、前述したようにこれは楽観的な希望を含む中位推計なので、実際はもっと増えることになるでしょう。
独身者が増えるということは、すなわち世帯の構造も大きく変わります。
1970年代は、核家族の時代でもあり、「夫婦と子ども2人」が標準世帯と呼ばれた時代ですが、その頃の「夫婦と子世帯」の割合は全体の43%を占めていました。しかし、2020年には25%へと減り、2050年には22%を下回ることになります。
反対に、単身世帯は、1975年は2割以下でしたが、2010年には「夫婦と子世帯」を抜き、世帯類型別のトップになった以降も増え続け、2020年は38%、2050年に44%へと伸長します。ちょうど、「夫婦と子世帯」と「単身世帯」とが80年間で対称的に入れ替わることになります。
この人口や世帯の構造変化は、持続的な社会保障の観点からは深刻な問題もはらんでいます。かつては、60歳からは年金を受給して、悠々自適な老後生活が送れたものでしたが、それは高齢者人口が少なかったからです。人口構造が昭和とは大きく変わったわけで、今まで通りのやり方は通用しません。
■逆三角形の人口ピラミッドは長方形型に変化
今後、高齢者が増えること、さらに高齢の独身者が増えることは不可避です。しかし、それは決して予想もしない未来ではなく、現段階でも十分予測可能な確定された未来である以上、その適応戦略を今まさに考えるべき時となっています。
2050年頃に独身人口が最大化するといいましたが、それが未来永劫続くものではありません。〈「1人生まれても2人が死ぬ」が50年続く…ついに始まった「日本人の大量死」の行き着く先とは〉という過去記事にも書いた通り、2022年から日本は多死時代に突入しています。
高齢者を中心とする死亡者年間150万人以上が最低50年間続く「多死50年時代」になります。が、それは、それまでの長寿化による「少死50年時代」があったからこその必然の結果です。
見方を変えれば、今から50年間は、人口構造が入れ替わる過渡期にあたり、高齢の独身者が増えるといっても、高齢独身者だらけの国になるわけではありません。日本の人口ピラミッドは、現在高齢者の多い逆三角形という歪な形をしていますが、「多死50年時代」を経て、これがどの年齢帯もフラットな長方形型に移行することになります。
だからこそ、今からの50年間をどうしのいでいくか? が重要になってきます。
■政府は「長期50年の計」を提示すべきだ
目先の政権支持率や選挙対策のための「子育て支援」をぶちあげて「やった感」を出している場合ではなく、「子育て支援」を振りかざして隠れ増税をして国民負担率をあげている場合でもないのです。必要なのは「長期50年の計」です。
若者が結婚に踏み切れなくなり、未婚者が増えてしまった1990年代からの「失われた30年」はもう取り戻せませんが、少なくともこの30年間国民負担率があがればあがるほど婚姻数も出生数も反比例して下がっている「少子化のワニの口」になっていることは明白です。
そうして生まれた中年未婚群がこれからの30年において高齢独身者となっていくわけですが、さらに「失われた30年」の再生産は止めないといけません。
そして、今まさに「これから結婚や家族を持ちたい」と思っている若者が、少なくとも経済的な理由で「無理だ」と諦めてしまわないよう、経済や社会のお膳立てをどう整えていくかが、これから老いていく大人たちに課せられた使命でもあると思います。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)