(写真:foly/PIXTA)

職場で電話が苦手な新人や若手に電話対応を求めることが、ハラスメントにあたるとして、テルハラ(TELハラ)という言葉が生まれています。本稿では、社会人65人(22〜45歳)への調査の結果を踏まえて、日本企業におけるテルハラの現状と今後について考えてみましょう。

悪いことしていないのにどうして罰ゲーム?

まず、全員に「テルハラという言葉を聞いたことがありますか?」と尋ねました。65名全体では、「ある」12名、「ない」53名と認知度は低かったですが、年齢層によって大きな違いがありました。

・22〜29歳(31名)

ある:9名/ない:22名

・30〜45歳(34名)

ある:3名/ない:31名

今の20代は、子どもの頃からSNSによるコミュニケーションが主流で、通話には不慣れです。そのため、会社で電話対応をさせられることに警戒心を持っているケースもあり、テルハラ問題への関心が高いのでしょう。

コメントをいくつか紹介します。

電話対応を依頼されることが多い20代は、「まぁ、電話が嫌いな人もいるんでしょうね」という感想が大半でしたが、強く不満を訴える人もいました。

「事務職のベテラン女性よりも早く、1コールが鳴りやむ前に受話器を取るように上司から言われています。最近ようやく慣れてきて、電話が光った際の反射で取れるようになりました。今でも電話対応は苦痛で、電話が職場の中で一番緊張します」(20代男性)

「当社のミスについてお客様へのお詫びの電話を命じられました。怒った相手からガーッと言われて、頭が真っ白になり、しどろもどろ。そして終わった後に上司から『良い大学を出てるのに、電話もようできへんのか』と嫌味を言われました。会社に入ってまだ何も悪いことしていないのに、どうして罰ゲームなんでしょうか」(20代男性)

一方、少数ですが、電話対応を前向きに捉えるコメントもありました。

「最初の2カ月くらいは電話対応が嫌でしたが、段々と『こういう取引先があるのか』とか会社の内外のことがわかってきました。良い対応をしてお客様から褒められて、成長を実感することができました。社会人の第一歩として、とても良い経験をさせてもらえたと思っています」(20代女性)

上司・先輩のテルハラ認識は希薄

つづいて、新人・若手に対して電話対応を依頼することが多い30代以上のコメント。少数ですが、自分自身のテルハラ行為を反省する弁がありました。

「直接の部下ではない新人に電話対応を依頼したとき、『やっぱり僕がやるんですか』と不満げに言われました。言われてみれば、別に他の人でも良かった状況でした。何の気なく電話対応をお願いして、不快な思いをさせていることが結構ありますね。依頼する理由を伝えてあげることは大切だと思います」(30代男性)

しかし、この世代の回答者の大半は、テルハラを訴える新人・若手やテルハラという言葉自体に強く反発していました。

「誰かが電話対応をしなくてはいけないわけで、となれば重要な仕事をしている管理職や中堅層よりも、まだ補助的な仕事しかしていない新人・若手がやることになるでしょ。当たり前のことを理解しようとせず、『不快だ』と自分の感情をぶちまけるって、ちょっとおかしくないですか」(30代男性)

「そんなことまでハラスメントなんですか。いわゆる『ハラハラ』ですね。会社の仕事なんて、半分以上は不快に感じること。不快なことがあるたびに『ハラスメントだ!』とか騒ぎ立てる人って、働くのが苦痛でしょうね。まともな会社生活を送れるのか、将来を心配しちゃいます」(40代女性)

ここでの「ハラハラ」とは、ハラスメント・ハラスメントの略で、正当な業務命令などでもハラスメントだと騒ぎ立てる行為です。たしかに、何でもかんでもハラスメントになってしまうという風潮はありそうです。

さて、今回ヒアリングをして興味深かったのは、テルハラの被害者だとされている新人・若手から「電話対応は不快・苦痛だが、ハラスメントではない」とする声を多く聞いたことです。

「電話で話すのは子どもの頃から苦手です。今も外部からのクレーム電話に対応するのは苦痛です。でも、苦痛に感じたらなんでもハラスメントになるんですかね。電話対応をちゃんとやったら次はこの仕事ってステップアップしていったので、不満はありませんよ」(20代男性)

「テルハラだと騒ぐ人は、『暇そうにしているオジサンだっているのに、どうして私なの?』と不満なんでしょうね。でも、それを言ったら、他の仕事だって給料だって年功序列的な要素が多々あるわけです。不公平ですが、ハラスメントだとは思いません」(20代女性)

ちなみに、新入社員教育を主催する人事部門の担当者に意見を聞いたところ、テルハラを問題視しておらず、むしろ電話対応を重視している様子がうかがえました。

「近年フリーアドレスや在宅の促進で固定電話にかかってくる電話が減って、しかも営業電話ばかり。こうした事情から、電話対応の訓練を新入社員教育から外すことも検討しましたが、今年も実施します。新入社員に聞くと、結構『電話を取るの頑張ってます!』という前向きな声が多いですし、仕事や関係者を知るうえで重要な業務だと考えます」(素材メーカー・人事部門)

テルハラは日本独特の問題

では、テルハラ問題は今後どうなるのでしょうか。このことを考察するため、まず諸外国の状況を確認しましょう。

筆者の知る限り、日本以外の国では、テルハラという言葉はありません。そもそも無理やり電話対応をさせられた、という問題自体が存在しないはずです。なぜなら、日本以外では、誰かの代わりに電話したり、自分以外にかかってきた電話に対応するといった習慣がないからです。

アメリカなど多くの国では、誰が何をするという職務(ジョブ)が明確に決められています。過ちを犯した人が謝罪の電話をします。クレーム処理の担当者がクレーム電話に対応します。誰かの代わりに謝罪の電話をしたり、クレーム対応を任せられるということはありません。

また、職場ではデスクが個人ごとにパーティションで仕切られています。自分のデスクにかかってきた電話を取るだけで、他人の席の電話や代表電話を取ったりはしません。アメリカでは、他人のデスクの電話を取ると、「他人の仕事を横取りしようとした」と捉えられます。

とりあえず若い奴がやっておけ?

日本でテルハラが問題になっているのは、日本独特の働き方や人事システムの違いによります。日本では、職務が不明確なこと、年功序列の人事システムであることから、簡単な電話対応や誰が担当かはっきりしないことは「とりあえず若い奴がやっておけよ」となっているのです。

いま日本企業は、担当する職務を明確にして雇用するジョブ型雇用への転換を進めています。また、年功序列的な人事システムを見直そうとしています。こうした動きが本格化したら、テルハラの問題は解消されることでしょう。

逆に、もし数年後にもテルハラが問題になっているとすれば、働き方改革は掛け声倒れで、伝統的な働き方が変わっていないと見ることができます。テルハラは日本企業の働き方改革の成否を見る試金石と言えそうです。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)