期限どおりに仕事をやり遂げることを重視するあまり、周囲が見えなくなっていないでしょうか(写真:mapo/PIXTA)

期限どおりに仕事を成し遂げようと、部下に無理強いをしている上司、リーダーはいないだろうか。

「期日を守る」ことに夢中になりすぎると、部下の意見を取り入れることができず、それがそもそも必要な仕事であるかどうかを判断することも難しくなると、『最後は言い方』著者のマルケ氏は述べる。

そんな兆候が現れる上司の「言い方」とはどんなものだろうか。解決の方法はあるのか。同書から紹介しよう。

産業革命期に生まれた仕事のやり方の1つに、「時計に従う」というものがある。

これは、時間どおりに仕事を終えることを何より優先することだ。

部下に実行を「強要」していないか

それが本来やるべき仕事であれば、時間どおりに終えるというのは素晴らしいことだ。


しかし、決定者(上司)と実行者(部下)が分かれている場合、決定者にとっては、決定した仕事を部下にやらせるために、説得する、丸め込む、賄賂を渡す、恥をかかせる、脅すといったことが必要になる

これらを表すのにふさわしい言葉は「強要」だ。礼儀を重んじる社会では、この言葉はめったに使われない。実に見苦しい言葉だ。

よって、動機づけを行う、刺激を与える、協力して連携するといった別の表現で覆い隠される

ただし、「連携」という言葉が使われるときでも、実際には強要であることが往々にしてある。私だって例外ではない。あなたもきっと身に覚えがあるのではないだろうか。

では、強要をやめ、連携をとるにはどうしたらいいか。解決策は、ひと言で表すなら「実行する者に決めさせる」に尽きる

しかし、リーダーや上司がチームと協力して何かを決めようとすると、選択肢を広げる部分を飛ばして、意見の収束を急ごうとする。「みんなはどう思う?」ではなく、「私の意見はこうだ。みんなそれでいいか?」といきなり尋ねがちなのだ。

他者の意見に関心を示そうとしない上司

会議でよく使われている言葉を見れば明らかだろう。

そういう場ではたいてい、上司が意見を提示して、周囲はその意見に同調する。上司は周囲に同意を強要するばかりで、他者の意見に関心を示そうとしない

「仕事をやり遂げる」ことばかり考えているリーダーがひどく消耗するのはそのためだ。その人はほとんどの時間を、人に何かを強要することに費やしているのだから

私がここで用いる「強要」という言葉は、影響力や権力や肩書きを使う、最初に口火を切る、ほかの人より多く話す、ほかの人より大きな声で話すなどして、自分の考えに周囲を同調させることを意味する。

私たちはこのような古いやり方をやめ、周囲の意見に耳を傾け、「連携をとる」べきだ

「連携をとる」ことの目的は、視野を広げ、バリエーションを歓迎し、グループ内に存在するさまざまな知識、思い、アイデアを可視化することにある

それらを可視化する際に、会議の場で注目すべきは、極端な意見を持つ「異端児」だ。誰よりも肯定的、または否定的な感情を持つメンバーに焦点をあててほしい

例をあげよう。

あなたはいま、ソフトウェア製品を発表するか、さらなるテストのために発表を遅らせるかを決める会議に出席しているとしよう。

開発プロジェクトで、自分が担当する部分についてはよくわかっているが、プロジェクト全体がどうなっているか、またこのプロジェクトが会社の戦略のなかでどういう位置づけなのかは、よくわかっていない。

会議にはあなたのほかに12人が出席している。

スケジュールどおりに発表すべきだと思う気持ちは何パーセントか?」という質問に対し、各自がパーセントカードで投票することになった。

出席者全員の手元に、7枚ひと組のパーセントカードがある。パーセントカードには、1、5、20、50、80、95、99という数字が書かれていて、出席者の賛成の度合いがわかるようになっている。

自分が思う数字が書かれたカードを各自が1枚選び、裏返した状態でテーブルの中央に置く。全員が投票を終えたら、カードを表に返す。

そして極端な数字を出した人(1か99を選んだ人)に意見を尋ね、全員で共有しよう

正直な意見を表明しやすいようにするには

極端な数字を出した人に私が意見を尋ねるとすれば、「われわれが気づいていない点は何か?」や「どういう意図でその数字を投票したのか?」という尋ね方がいいだろう。


私が以前参加した別の会議では、投票後、反対の意向を示した人たち(わずか2人だった)が、「君はどうすれば賛成に変わるんだ」とまわりから詰め寄られた。

こうした尋ね方では、2人は孤立して議論を妨害する立場に追いやられ、彼らが意見を変えて同調することを誰もが期待するようになる。これはいただけない。

心理的安全性が中程度以下の状況では、異端児の立場を正当化する質問を投げかけたほうがいいだろう。そうすれば、彼らが孤立することはなくなるし、他者の視点からものごとをとらえる練習にもなる。

自分が孤立するリスクがある状況では、人は極端な立場をとりたがらない

お互いの高い信頼を要するデリケートな質問をしたいが、それほどの人数ではない(8〜10人未満)という場合は、付箋紙やA6サイズくらいのカードを用意しよう。

それに各自が回答を書き、裏にしてテーブルの中央に置くようにしてはどうか。こうすれば、誰が何を書いたか推測できないので、正直な意見を表明しやすくなる

(L デビッド マルケ : 米海軍攻撃型原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長)