「外資系企業に根回しはない」はウソである…グローバル企業が「神速時短」のために必ずやっていること
■海外の企業で働いて驚いたこと
「日本企業は『人の和』を大切にして、意思決定までに他の人の意見を聞いて根回しする」
「グローバル企業はシステマティックで人と人とのつながりは薄く、意思決定は会議だけ」
そんなイメージを持っていた私は、海外の企業で働いて驚きました。
グローバルな企業ほど、意思決定の前に入念な準備と根回しを行っていたのです。
ここではそのプロセスを見て得た気づきをお伝えします。
例えば来週、ある企業で社長と部長3人(Aさん・Bさん・Cさん)、つまり意思決定者が集まる定例会議があるとします(実際はもっと人数が多いですが簡略化します)。
その際のアジェンダのひとつが、「A部長が進めているプロジェクトに、会社として投資するか」の決定です。
■即決できる企業は「根回し」から始める
このプロセスを、いくつかのステップに分けて、「即決時短企業」と「決断苦手企業」との違いを例に見ていきましょう。
まずは「即決時短企業」です。
【ステップ1】関係者への根回し・意見のアウトプット&フィードバック
来週の定例会議に向けて、何とかプロジェクトを通したいと思っているAさん。
Bさんはどうやら反対の立場のようなので、中立的なCさんに壁打ちを頼みます。
その際に役立つのが、プロジェクトを実施することで生まれるメリットとデメリットをまとめた1ページ資料(「1pager」と言ったりします)です。
これを持って、AさんはCさんとお茶を飲みながらカジュアルに話します。
「こんな理由で、当プロジェクトは絶対に会社にとって良いと思うんだ。顧客にもメリットがあるし、社内の要望でもあるんだ」
■「根回し」で意見を整理する時間が生まれる
CさんはAさんの話を聞いて、あれこれ意見を言ったり質問をしたり。
Aさんはそれを参考に、チーム内でも壁打ちし1ページ資料をアップデートします。
BさんはBさんで社内で意見交換し考えを深めているようです。
AさんはCさんと話すことによって自分の想いが強まったり、新たな気づきがあったりするでしょう。
Cさんも会議でいきなりこの件について聞くのではなく、事前に話があることで自分の意見を整理する時間が生まれます。
【ステップ2】会議でのディスカッションと決断
さて、いよいよ社長を交えた会議が行われます。形だけの「シャンシャン会議」ではなく、議題がどう進み何が決断されるか、始まるまでは誰もわかりません。
Aさんは満を持してプロジェクト進行の是非をアジェンダに出します。
■社長からGOサインをもらうことに成功
壁打ちで想いを強くし、新たな気づきを得たAさんは、アップデートした1ページ資料をあらかじめ会議の参加者たちに送っていました。
「ご覧いただいたようなこれらの理由で、このプロジェクトを進めたいと思います」
すでに根回しを受けて、賛成の立場になったCさんは肯定的な意見を述べるでしょうし、反対意見を持っているBさんは、自身で深めた反対意見を述べます。
最終的な意思決定は社長に委ねられました。
「1ページ資料を読み、Cさん、Bさんの意見を聞いたうえで、私はAさんに同意する。ただ、投資額が多いから、一歩ずつ進めて、毎回この会議で報告し話し合おう。ただ、スタートすることは決定したから、進めてくれ」
無事に社長からGOサインをもらうことに成功しました。
■「何らかの形で前に進む」ことができる
もちろん、「投資のレベルが大きいことだし、もう少し時間が必要だ。私とAさん、Bさんと、プロジェクトに最も深く関係する部署の責任者で、もう一度今週中に30分集まって決断しよう」と社長が再提案することもあるかもしれません。
また、「Aさんに完全に同意するよ。この1ページ資料にも納得したし、裏付けの数字も問題ない。あとは任せたよ。何かあったら、いつでも相談してくれ」と一任されてしまう可能性もあります。
反対していたBさんについては、「反対していたけど、Aさんの資料を見て、話を聞いてみたら良いかもしれないと思えてきた」となる可能性もあるでしょうし、「まだ納得したわけじゃないけど、みんなで話し合った結果、社長が決めたことだから仕方ない」と飲み込んで一緒に進む道もあるでしょう。
いずれにしても「会議の時間をオーバーして話してみたけど、何も決まらなかったね。また持ち帰って次回話そうか」とはならず、何らかの形で前に進むのがこのタイプの企業です。
■モチベーションも高く保たれる
【ステップ3】改善のためのPDCA
無事にプロジェクトを任されたAさん。
プロジェクトを進めてみると、想定通りの部分と想定外の部分が出てきました。
取り決め通り、定例会議で進捗(しんちょく)について報告し、改善しながら進めていきます。
「○○は思っていたように計画通りで、□□は、想定外でした。したがって、予定を修正して進めます。関係部署に今後、一層のご協力をお願いしたい」
こうした正しいプロセスを多くのプロジェクトで繰り返している企業は、チームとしてお互いの考え方・働き方への理解が深まり、個人的な仲の良さ・相性は別として「組織として前に進んでいく」ことに慣れていきます。
また、至るところで活躍していた1ページ資料は、Aさんのチームが作っていたことも見逃せません。
自分の準備した資料が使われ、それに対して決断がなされ、組織が動いていくわけですから、次世代の彼らのモチベーションも高く保たれています。
■「決断苦手企業」ではひとりで悩んでいる
続いては、「決断苦手企業」の意思決定プロセスを、さきほどと同じ設定・登場人物で見てみましょう。
【ステップ1】関係者の根回し・意見のアウトプット&フィードバック
定例会議まであと1週間に迫っていますが、こちらのAさんは誰に相談することもありません。ひとりで「次の会議で発表か……反対されたらどうしよう」と悩んでいます。
反対のBさん、中立のCさん、そして社長も会議まで概要がわからないので、それぞれで勝手に想像して悩んでいます。
会議で初めて説明を受けるということは、その場で1からそのプロジェクトについて考えなければなりません。賛成・反対以前にそれぞれが正しい理解をできるのかが心配です。
■言っていることが半分も理解できない
【ステップ2】会議でのディスカッションと決断
会議の日となりAさんはプロジェクトについて発表するも、他の人の意見を反映した資料はありません。
「想い」も「根拠」も乏しいので聞き手のリアクションも薄く、話している当人も不安になってきました。
Cさんは本来なら賛成ですが、自分の考えを整理するのに精一杯で、賛成意見をアウトプットする余裕はありません。
違う意見を持っているBさんは、それを表明するための準備を頭の中で始めており、Aさんの言っていることは半分も理解できない様子です。
■結論は次の会議に持ち越し
こんな状態で会議をしても、時間内にまとまるわけもなく、「結論は次の会議に持ち越し」となるのが目に見えています。
決断者がはっきりしていれば、次のステップや方向性を決められるかもしれませんが、このような組織は決断者が決まっていなかったり「関係者全員の合意」が必要だったりするので、この場で何かが決まることはないでしょう。
恐ろしいのは、果たして次の会議では、決めるための準備がAさんその他によってなされるのかどうかです。
決断者が複数いて、意見が食い違ってしまえば次の会議でも決まらないかもしれません。
■根回ししたほうが気持ち良く行動できる
そして、あなたがAさんのチームのメンバーだったら、どう思うでしょうか?
上司が何か提案しているようだが、いつまでも決まらない。次の会議で決まるかと思ったら、また先延ばし……。自分の頑張りが意思決定に関与するわけでもなく、まるでモヤに包まれたような状態で仕事をすることになってしまいます。
「根回し」というと、いかにも前時代的で、余計な時間をとられるようなイメージがあるかもしれません。
しかし、このように意思決定までのプロセスを整え、決断した後に気持ち良く組織として行動できること、そしてそれにメンバーが関わることの影響などを考えると「即決時短企業」の方が圧倒的に結果につながるに決まっています。
あなたの企業、もしくはチームはどちらのタイプでしょうか?
もしあなたが、「ひとりで悩む」方のAさんだったなら、周りを巻き込む決断の時短にトライしてみませんか?
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ヴィランティ 牧野 祝子(ヴィランティ・まきの・のりこ)
国際エグゼクティブコーチ
東京生まれ。米コロンビア大卒、仏INSEADビジネススクールMBA修了。イタリア・ミラノ在住。障がい児を含む3児の母。国内外10カ国で20年にわたり、出産・育児によるキャリア中断を挟みながら、Bain&Co、ロレアル、DIAGEOなどの米系戦略コンサルファームや多国籍企業で、戦略構築から現場の実働まで国際的キャリアを積む。また、海外企業でも珍しい女性のシニアマネジメントのポジションや、後輩社員のメンターも多く務めた。その後、豊富なビジネスとメンターとしての経験・ノウハウを活かし、国際エグゼクティブコーチ/企業研修講師として独立。自身が若手社員で時間の使い方に悩んでいた頃に出会った、グローバル企業のリーダーたちの「世界標準の時間の使い方」にヒントを得て、受講生にも時短術を伝授している。受講生からは「悩む時間が減って、前に進めるようになった」「ひとりですべてを抱え込まず、周りの力を借りられるようになって生産性がアップし、楽しく仕事ができている」と好評を得ている。2022年、初の著書『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』(あさ出版)を発売。2023年には「The power of positive feedback(ポジティブフィードバックのパワー)」をテーマにTEDxへの登壇が実現。
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(国際エグゼクティブコーチ ヴィランティ 牧野 祝子)