【独自取材】「SHOGUN 将軍」第6話で重要人物演じた尾崎英二郎、出演は「至福」 ─ アメリカで社会現象化、真田広之の凄さ

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ドラマが大ヒット配信中だ。第6話『うたかたの女たち』の冒頭では、メインキャラクターの戸田鞠子(アンナ・サワイ)や落葉の方(二階堂ふみ)に重大な影響を及ぼす、とある重要キャラクターが登場。場面こそ限られていたものの、歴史ファンも唸るような大物だった。

この役を演じたのは、数々のハリウッド映画やドラマで活躍し、映画『ラスト サムライ』(2003)にも出演した尾崎英二郎。THE RIVERでは、ロサンゼルスの尾崎に独自取材。この超大作への出演を掴み取るまでの経緯や、現場での真田広之の驚きのエピソード、さらに現在アメリカで「SHOGUN 将軍」がどのように評価されているかなどをたっぷり聞いた。

ジェームズ・クラベルによる小説「SHOGUN」のドラマ化企画は、実は2013年頃から伝えられていた。かつてリチャード・チェンバレンや三船敏郎らによって実写化された1980年代のドラマシリーズも大ファンだったいう尾崎は、当時から企画を心待ちにし、出演を熱望していたという。

以来、企画はなかなか前進せずにいたが、2018年に一度オーディションの機会があった。尾崎も参加したが、その後に製作は全面的に立て直されることに。プロデューサーのジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウが新たに率いることになり、現在の体制となった。

2021年の春、尾崎は再オーディションに挑んだ。アメリカや日本はもちろん、イギリスやオーストラリアなど、各国からの役者が参加する国際的なオーディションだったという。

製作陣が演技ビデオを観て気に入っているとの知らせを受け、尾崎は手応えを感じていた。しかし、それ以降の連絡がないまま、ドラマの撮影がスタートしたという情報を知った。それでも尾崎は、全10話もあるのだから、ゆくゆくは新しいチャンスが巡ってくるのではないかと、心構えを解かずにいた。ドラマ作品では、エピソード撮影を進めながら配役が行われていくことも常だからだ。

「役が獲得できるかどうかもわからないにも関わらず、髪を切らずに伸ばし続けた」という尾崎には、かつて出演した『ラスト サムライ』時の学びがあった。頭髪が短いと、髷(まげ)を結うことが難しく、現場に負担がかかってしまうというものだ。いつか再び巡ってくるかもしれない出演機会を信じて髪を伸ばすことは、同時に俳優としての他の仕事にも影響を及ぼすことであり、尾崎にとっては一種の賭けだった。

次のページには、「SHOGUN 将軍」第6話『うたかたの女たち』冒頭シーンのネタバレが含まれています。

この記事には、「SHOGUN 将軍」第6話『うたかたの女たち』冒頭シーンのネタバレが含まれています。

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年が明けて2022年の1月、念願の「SHOGUN 将軍」出演オファーが尾崎の元に舞い込んだ。「大きなボリュームではないが重要な役どころで、レギュラーキャストの親の役」とのみ知らされた。1年前に送った尾崎の演技ビデオを心に留めていた製作陣からの直指名だった。

はて、どの役だろう?80年代のドラマシリーズや原作小説のファンでもある尾崎は考えた。やがて尾崎には、「Kuroda Nobuhisa」との役名が伝えられる。Kuroda……。原作小説に登場するKurodaといえばただ1人。黒田信久だ。織田信長にあたる役ではないか!

尾崎の心には、『影武者』(1980)や「おんな太閤記」(1981)で描かれた信長公の鮮烈な記憶があった。三英傑に数えられる屈指の戦国武将を、真田信之と共に演じる。「心が湧き立つような興奮」をおぼえたと同時に、凄まじい責任感がのしかかった。

あくまでも「SHOGUN 将軍」の物語は史実に基づくフィクションだが、日本の歴史ファンを落胆させることは許されない。それに、1年越しに出演のチャンスを与えてくれた製作陣の期待に応えたいという使命感もあった。原作や、織田信長の史実や小説を読み漁り、撮影に挑んだ。

第6話『うたかたの女たち』に登場する黒田信久は、スクリーンタイムこそ短いものの、このドラマを大いに引き締める重要な役だ。落葉の方(瑠璃姫)の父親として描かれる本作の黒田は、幼い鞠子と我が子を引き合わせる。「仲良うしておやり」と父親の笑顔を見せたかと思えば、次のシーンでは明智仁斎に激昂を飛ばし、さらに気に食わぬ者の首を、血走った眼で次々と斬り落とす恐るべき姿を見せる。

「真田広之の吉井虎永、そして明智仁斎をもってしても、止めることの出来ない男。太閤以前の天下人として畏怖されている姿を、あの短時間で伝えなくてはいけない」。尾崎は黒田役の演技プランについて「この人は暗殺されても仕方ないな、と思わせること」と振り返る。

しかし、人間とは一面ではないところが面白いのだと、尾崎は語る。「織田信長と同様、彼には彼なりの正義があるはずです。いかにもな悪役にはしたくありませんでした。瑠璃姫に語りかけるシーンがあるだけで、人としての“幅”を見せることができました」。

その撮影では、「SHOGUN 将軍」の規模感に驚かされたという。制作オフィスでコンセプトアートの数々を見た時、衣装の数々を見た時、そしてセットに足を踏み入れた時、何もかもが「桁違いだ」と感じた。「着物の着付けの専門家チームも加わっていますし、丁髷(ちょんまげ)一つにしても、役者ひとりひとりの頭の形をシリコンで取り、皮膚を作って、本人に合わせたメイクを行っています。相当な手間がかかっている。自分が今まで関わってきた映画やドラマの中でも、おそらく最大の予算だと思います」。

主演・製作の真田広之のきめ細やかさにも仰天した。「撮影に入る前に、明智仁斎役で共演するユタカ・タケウチ君と一緒に、日本からの所作指導の先生による稽古時間を設けていただいたんです。それだけでもありがたいことなのに……」。

尾崎とタケウチの稽古の初日、なんと主演・製作の真田広之が激励に訪れてくれた。「その日も、真田さんは本番のシーンもあるし、裏で製作もやっている。主演・プロデューサーの方が、わざわざ僕ら2人の所作指導に顔を出していただかなくても良いはずなんですよ」。

現場での真田は、出演者やスタッフが緊張してしまわないように、自ら朗らかな調子で声をかけてまわるのだという。共演者との事前すり合わせも丁寧にこなし、さらに「僕らが出すアイデアも、ちゃんと検討してくださる」と尾崎。「僕らに対して、常にオープンでした。その優しさ、寛大に驚かされました」。

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真田は撮影の合間に尾崎らの眼前で、こと時代劇において重要な「姿勢の作り方」、つまり、重心の置き方や足運びのコツなどを、自ら実演して指導した。「ちょっとした身のこなしが、違うんです。“カッコいい”という言葉すら、軽々しく聞こえるかもしれない。美しいんですよ。“スッ──"と。ほんのちょっとのことが違う。立ち姿から違うんです」。真田とはこれまで『ラスト サムライ』や「エクスタント」での共演歴を持つ尾崎だが、今回の彼との仕事は「至福」だったと噛み締める。

そんな真田は、いまアメリカでも相当な注目を集めていると、在米の尾崎は証言する。「ファンが本当にたくさんいますし、業界からも尊敬。ヒロユキ・サナダを知らない批評家はいません。これまで、何十年も細やかで丁寧な仕事をされてきていますし、人気のアクション映画にも度々出演されています。そんな彼が満を持して主演・製作をやるということや、彼がこの仕事を引き受ける時にどういう条件を出したかというストーリーなどが、アメリカの様々な記事で伝えられています。日本以上の盛り上がりかもしれません」。

主要な雑誌やWebメディアはもちろん、ロサンゼルスでは街中の至る所に「SHOGUN 将軍」の広告が出現しているといい、その規模は本作が超大作であることを堂々と物語っている。また、数々のYouTuberたちがリアクション動画や考察動画と共に、毎エピソード追っている点も驚きだ。マーベルやDC、スター・ウォーズ、ゲーム・オブ・スローンズといった世界的メジャー作品に匹敵するほどの現象が、「SHOGUN 将軍」で起こっていると尾崎は紹介する。

YouTubeより。

セリフのほとんどが日本語で、海外の視聴者は字幕で鑑賞しているにも関わらず、「SHOGUN 将軍」は大きなインパクトを持って迎え入れられている。「文化によって、ショックを受けるところが違うのが面白いですね」と、アメリカYouTuberたちのリアクション動画を見た尾崎は分析する。「日本の時代劇のドラマでは、当たり前のように人が斬られたり、切腹したりするので、そういう展開に視聴者が慣れています。もちろん血が飛び散る描写など、本作には地上波ドラマにはできない描写もあります。しかし世界の観客、特に北米の観客にとっては、日本刀で殺し合うというのはすごく怖いことなのでしょう。未知の文化、自分たちにない文化なので、ビックリするわけです」。海外のリアクション動画の多くでは、YouTuberたちが過激なシーンに絶叫しながら夢中で鑑賞している。

侍たちのリアルな殺し合いが描かれつつ、無駄なバイオレンスや殺人シーンがないことが、「SHOGUN 将軍」がここまで絶賛されている理由の一つだと尾崎。「残忍なところ見せれば、みんなが“サムライ!ニンジャ!”と喜ぶような時代ではない。必要なところにバイオレンスがあり、無駄なものがないんです。批評家も観客も、時代の変化をわかっている。日本作品ならではの“間”や“静けさ”が、ここまで世界の観客に伝わっているのは、本作が初めてではないでしょうか」。

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日本の文化やセリフ、美徳に至るまで、あらゆる描写になんの不安も懸念もない作品というのは、「本当に稀なこと」なのだと、アメリカでの現場の数々を知る尾崎は言う。「製作陣も、“西洋の目から見た異国”ではなく、“日本人が見て納得できる世界観”じゃなきゃダメなんだということを、すごく考えています。奇跡的な座組です。日本とアメリカのエンターテインメントの未来に、大きな影響を及ぼす作品です」。

本格的な時代劇を作ることは、日本でもますます難しくなっている。「本作は、日本の歴史ファンはもちろん、骨太な作品を求めているドラマファンや映画ファン、全ての期待に応えられるような、史上稀に見るスケールの作品。日本の方が観てくださったときに、きっと嬉しくなるような、誇りに思える作品になっています」と推す尾崎は、「SHOGUN 将軍」という作品を一隻の船に喩えて表現した。

「真田さんが『最上級の舵取り』であったとすれば、『船体の設計図』と類い稀な推進力の『エンジン』になったのはプロデューサー陣と脚本家チーム。『献身的な乗組員』となったのがキャストとスタッフ、そこに『惜しみない燃料』を注ぎ続けたのがディズニー傘下であるFXネットワーク。『SHOGUN 将軍』は、それぞれの歯車がすべて見事に噛み合った、偉大な大型船の出航と海路だと思います」。

つまり我々は、大船に乗ったつもりでドラマを楽しめばよい。「SHOGUN 将軍」はの「スター」にて独占配信中。

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