自宅でエクササイズをする女性

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年を重ねて睡眠の質を高めるにはどうすればいいか。スリープコーチの角谷リョウさんは「深い眠りに入るための『睡眠圧』を上げるには、日中に活動的で新しいことにチャレンジして脳と体に刺激を与える必要がある。しかし50代になり『自分の型』を持ち『成果』を最小限の力で出せると刺激が少なくなり睡眠を悪化させる要因になる。睡眠圧を上げる実践法には、『新しいことを1日1つ以上行う』『体に強い負荷をかける習慣を取り入れる』『脳に強い負荷をかける習慣を取り入れる』がある」という――。

※本稿は、角谷リョウ『働く50代の快眠法則』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Rockaa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rockaa

■40代にはない50代の睡眠が悪化する最大の要因

50代になると「寝室」や「寝具」の影響が、20代〜30代のときに比べて大きく影響するので、まず初めに「睡眠環境」を変えていくことからおすすめしました。

睡眠環境を変えることは、そのこと自体が睡眠の質を上げる重要な意味があるのですが、さらなる効果として「いつもと違う」「今までと違う」といった新しい刺激が日常に入ることも、睡眠にとって良い効果になるのです。

睡眠環境を変えることで、体感として睡眠の改善を感じられる方がほとんどです。

50代だと睡眠環境の改善だけで「十分改善した」と感じられる人は、大体20%〜30%という割合です。

多くの人は、以前より睡眠は良くなったものの……、

「以前に比べて多少目覚めが遅くなったけど、まだ以前より1時間早く目が覚める」
「夜中に目が覚める回数は減ったけど、まだ1、2回目が覚める」
「以前ほどではないが、いまだにぐっすり寝た感じが得られない」

……といった方が現場では7、8割を占めます。

40代であれば、睡眠環境の改善だけで「十分改善した」と感じる方が半数以上出るのに、この差は何なのでしょうか?

その答えが「睡眠圧の低下」です。

■自分の型を持ち「成果」を最小限の力で出す弊害

睡眠圧」という言葉を初めて聞いた方もいるかもしれません。

私は今まで多くの50代を「睡眠不調」から「快眠」へと導くサポートを成功させていますが、その中で最も効果が高く、きわめて重要なのが、この「睡眠圧の向上」だと断言できます。

多くの人は50代になると、良くも悪くも「自分の型」ができます。また自分の得意、不得意なことも分かってきて、得意なことに集中するようになります。

そうすることで「失敗」を防ぎ、「ストレス」を減らし、「成果」を最小限の力で出すことができるようになるのです。50代が体力や熱量の高い若い世代より、価値を生み出して生きていくためには、当然の生存戦略だと思いますし、私もそうしています。

ところが、この「自分の型」を持ってしまった弊害として、「生活パターンが同じ」「選ぶものや判断がいつも同じパターン」といった、脳にも体にも刺激が少ない生活を送りがちです。

ここには大きな落とし穴があり、実はこの人生の効率化ともいえる日常の最適化こそが、睡眠を悪化させている最大の要因なのです。

脳も体も、いつもと同じで特に新しいことを吸収していないので、睡眠時間や深い睡眠が必要なくなるのです。

もちろん、自分の仕事や趣味で新しいことを学んだり、実践しているとは思いますが、それは脳や体にとっては、もはや「新しいこと」と認識されないレベルになっているのです。

ですから、50代になって本当に良い睡眠を得るためには、新しいことを始める必要があります。50代になってからの新しい刺激が、20〜30代と変わらない質の高い睡眠、スッキリした目覚めを生み出すことを覚えておいてください。

■「睡眠」と「日中の活動」は「陰陽」の関係

これは非常に大切な考え方なので、ぜひ一生覚えておいてほしいことなのですが、「睡眠」と「日中の活動」は生物における基本であり、互いに独立しているものの、依存しあいながら影響を与えあっています。

簡単な言い方をすると、「睡眠」によって「日中の活動」が作られる、また逆に「日中の活動」によって「睡眠」が作られる……というシンプルな考えです。

ですから、良い睡眠をすれば、心身が回復して良い状態が作れるので、日中に活動的で新しいことにチャレンジできるわけです。

また、活動的で新しいことにチャレンジする日中を過ごすと、睡眠圧が上がり適度に負荷がかかり、回復のために寝つきの良い深い睡眠ができるというわけなのです。

多くの50代はこの反対のパターンになっています。

ちなみに、「睡眠圧」という言葉は、私が作った造語ではなく、睡眠学の学術用語です。

本来の意味は「長時間起きていることや、活動することで、睡眠物質が溜(た)まること」となっています。つまり、長く起きて活動すればするほど、深い眠りに入れますよという意味です。

よく下のような図で表されています。

出所=『働く50代の快眠法則』

睡眠圧を上げる実践法には大きく分けて3つあります。

?新しいことを1日1つ以上行う
?体に強い負荷をかける習慣を取り入れる
?脳に強い負荷をかける習慣を取り入れる

ただし、「?新しいことを1日1つ以上行う」はかなりハードルが高いでしょう。もちろん、実践できればベストですが、本書ではこれに代わって「朝の目覚めスイッチを入れる方法」をお伝えします。50代は夜型から朝型に移行する年代なのですが、朝に目覚めスイッチが入らないことによる不調が多く見られるからです。

■朝の目覚めとともに体内時計のスイッチをオンにできるか

50代になると、朝早く目覚めるようになる人が増えます。

厚生労働省の「睡眠指針(註:2023年12月の改訂により現在は「睡眠ガイド」)」でも「年を取ると朝型化します」と記述されています。

出所=『働く50代の快眠法則』

ただし、朝型化しても、多くの人はそのまま起きて活動せずに、布団の中でもんもんとしてすぐに起きないケースが多いです。

40代までは、起きたらすぐに活動できるのですが、50代になると、起きてからすぐに活動することができにくくなります。

睡眠には「体がはっきりと目覚めた」と認識してから、8時間後、15時間〜17時間後に眠くなるという原則があります。

ここで大事なことは「体がはっきりと目覚めたかどうか」ということです。

最近の言葉でいうと「体内時計」がオンになったかどうかが重要なのです。

自分では目覚めているつもりでも、「体内時計」がオンになっていなければ、目覚めていることにはならないので注意が必要です。

朝の時間に体内時計のスイッチをオンにすることは、「睡眠圧」を上げるのに欠かせない行為です。

■朝起きてすぐの白湯で腸と脳を目覚めさせる

まず最もお手軽に朝目覚める方法は、朝に白湯(さゆ)を飲むことです。

白湯はただのお水を温めただけのものなので、基本的にはお金はかかりません。朝起きてから水を飲むと胃が活動し、連動して腸が動きます(これを胃結腸反射と言います)。

腸が動くと体内時計のスイッチがオンになります。腸は脳と最もつながっているので、自動的に脳が目覚めます。

出所=『働く50代の快眠法則』

次におすすめは「朝にシャワーを浴びる」です。

これもお手軽ですが、完全に目が覚めます。ここでのポイントは、夜と違って熱め(42℃以上)の温度設定でシャワーを浴びることです。

お湯があまり熱くないと、体は目覚めてくれません。

最後は「朝に散歩する」。

私が勝手に師匠と仰いでいる樺沢紫苑(かばさわしおん)先生がもっともおすすめする習慣です。朝に散歩すると太陽の光を浴びることになり、体内時計のスイッチがもっとも強くオンになる行為です。同時に散歩はリズム運動になり、セロトニンも出ますし、血流も回り出すので、朝にスイッチを入れる行為で最もおすすめできます。

■本気でおすすめできる「朝に趣味をする」ことの効果

朝の目覚めスイッチを入れる本気コースの1つ目は、「朝にトレーニングする」です。

いきなりハードルを上げましたが、トレーニングといっても、日中に行う本格的なトレーニングでなくて十分です。たとえば「ラジオ体操第一・第二」がおすすめです。ラジオ体操は第一だけだと体操レベルですが、第二までするとトレーニングレベルになります。

ラジオ体操が苦手な方は、スクワットや腕立て伏せなど、一般的なトレーニングを10回3セットくらい行えば、十分に完全に目が覚めることができます。

出所=『働く50代の快眠法則』

次におすすめは「朝ごはんをしっかり食べる」です。朝に体内時計が入る一番の方法は太陽の光を浴びることですが、2番目にスイッチが入るのは「食事をして胃腸を動かす」ことです。

最後の本気の朝の目覚めは「朝に趣味をする」です。

これはかなりおすすめで、圧倒的に効果があります。朝がやって来るのが楽しくなったり、前日の夜の悪い習慣(アルコールやスマホ)が劇的に改善します。

人間は朝に楽しみがあると、夜のダラダラした時間が減ります。自分が本当に心からやりたいことを思いっきりやってみてください。

■50代のうちに体力や運動機能を回復しておくことがマスト

50代になると、ほとんどの人が体のどこかに不調や痛みを抱えていて、スポーツを楽しめるレベルの体を維持している人はほんの一握りです。

ですから、ほとんどの50代は歩くこと以外の運動をしていません。これは一見悪いことのように思えますが、実はこの状態の方にとっては「少し運動をしただけ」で、睡眠圧が上がって爆睡できるようになります。

出所=『働く50代の快眠法則』

さまざまな実験で、今まで運動していなかった人が運動をするようになると、「体の機能」が劇的に改善することが分かっています。メンタルの抑うつ度もかなり回復します。

今までにないレベルで運動をすることで、体は若返り、運動機能や体力が回復し、メンタル状態も改善するなど、いいことずくめです。運動後は、高まった睡眠圧によって「体が回復」「体が進化」して、好循環ループに入ります。

これからの社会は、65歳以上でも働くことがスタンダードになってくるので、50代のうちに体力や運動機能を回復しておくことがマストになってきます。

ぜひ、手軽な運動から始めて、質の高い睡眠と明るい未来を手に入れてください。

■まずは歩くことで体の「柔軟性」を維持しよう

まず、最も手軽に始められる方法として「歩数」を増やすことをおすすめします。

これは特にデスクワーカーやテレワーカーなど、1日の歩数が4000歩以下の方には非常に有効です。ただし、すでに8000歩以上歩かれている方が歩数を増やしても、睡眠圧は上がりにくく、睡眠の質はほとんど変わらないので、歩数がすでに多い方は別の方法を試してください。

出所=『働く50代の快眠法則』

次におすすめがストレッチです。意外かもしれませんが、50代になって最も低下する体の機能は、「体力」でも「筋力」でもなく、「柔軟性」です。

50代になると、腰痛の割合が急激に増えるのは、柔軟性の低下が最も大きな要因です。要するに50代になると、体が硬くなってしまうので、ストレッチを行うことは体にとってかなりの刺激になるということです。しっかり行えば、筋トレなどの高い負荷のトレーニングと同じくらい睡眠圧を上げてくれます。

最後の体への負荷による睡眠圧の向上の方法は「エア縄跳び」です。

その名の通り、ヒモのついてない取手だけの縄跳びです。これが普通の縄跳びと違って、跳べない人でも、マンションでもできて、さらに運動や睡眠圧を上げる効果も絶大なのです。

■「フルマラソン」より実はハードルが低い「トライアスロン」

本気コースで、まず初めにおすすめしたいのが「パーソナルトレーナーにトレーニングしてもらう」です。

50代になると、良く悪くもサボることを覚えます。トレーニングを頑張ろうと思っても、無意識に手を抜いてしまって、刺激が少なく成果も出にくくなります。反対に50代が無理すると、怪我をしたり、痛みが出たりするので、無理も禁物です。

そこで、50代が怪我をせずに睡眠圧を上げられて、なおかつ理想的な体型に改善するには、パーソナルトレーナーが必要になってきます。

出所=『働く50代の快眠法則』

次に本気コースでおすすめは「一般的でないフィットネスジム」です。たとえば暗闇(くらやみ)の中でボクシングをしたり、自転車を漕いだりする中規模型フィットネスです。

最後は「トライアスロンに挑戦する」です。ここでいうトライアスロンは、水泳が1.5キロ、自転車が40キロ、マラソンが10キロのオリンピック・ディスタンスを対象にしています。

トライアスロンと聞くと、かなりハードルが高そうに思えるかもしれませんが、実はフルマラソンより肉体的にはハードルが低いです。50代でフルマラソンを走ると、膝(ひざ)をかなりの確率で痛めるので、おすすめできません。

■新しいことを純粋に学ぼうと思えるか

50代になると、自分の得意な分野や今までしてきた分野、もしくは仕事に直接関係する分野の情報しか入手しなくなります。

もしくは、幅広いジャンルといっても、スポーツや芸能の情報、ほとんど記憶に残らないYouTubeの要約チャンネルで勉強した気になっているくらいの方がほとんどです。こうした情報や学習は、一見して脳に負荷がかかっているようで、実はいつもと同じ脳の部分を使っているだけなので、睡眠圧を上げる負荷にはなりえません。

出所=『働く50代の快眠法則』

睡眠負荷が上がらないだけでなく、「世代間ギャップ」も埋まりません。

私が交流している若い人にどんな年配(50代くらいのイメージ)の人がやりづらいかと尋ねると、「新しいことを全然分かっていないのに、知っているように指示やアドバイスしてくる人」だそうです。

逆にどんな年配の人に好意を持つのかを尋ねると、「新しいことを純粋に学ぼうとしている人」と答える若い人が多いです。私たち50代は、睡眠圧を上げるために脳に強い負荷を与え、若手にリスペクトされるためにも、新しいことを学ぶ姿勢を見せたいものです。

■YouTube学習の落とし穴「広告表示は睡眠に悪影響」

まず最もお手軽に始める方法としては、若い人たちが使っていて流行(はや)っているサービスやアプリを日常的に継続して使ってみることです。

例えば、写真の顔を補正したりするサービスや、簡単にアバターが作れるアプリなどです。おそらく、新しいことに積極的な50代は、ChatGPTなど仕事や自分に関係しそうなサービスは試したり、使っているでしょう。

しかし、一見意味がなさそうだけど「ちょっと気分が良くなる」「ちょっと便利」なサービスを使うことで脳が刺激されます。

出所=『働く50代の快眠法則』

次におすすめが「Schoo」に代表される軽めの学習サービスです。

ここでのポイントは「軽め」ということです。1テーマにつき45分〜60分で講師が解説しながら、プロのファシリテーターが質問したり、相槌(あいづち)を入れてくれます。参加者からの質問に答えていく参加型ですので、楽しみながら知識が頭に入ります。

最後はやはりYouTube学習です。

ただし、YouTubeで学ぶときに気をつけてほしいのが、「プレミアム(有料)プラン」に変更することです。無料プランだと広告が入り、学習の効率が下がるだけでなく、広告による刺激で睡眠に悪い影響が出てしまいます。

■有料学習コミュニティで学ぶ価値

角谷リョウ『働く50代の快眠法則』(フォレスト出版)

脳へ強い負荷を与える本気コースといっても、夜間大学、夜間MBA取得くらいまでレベルを上げてしまうと、寝る時間がなくなってしまいます。

ですから、本気モードでまずおすすめするのが「Udemy」などのかなり本格的なオンライン学習サイトの利用です。プログラミング、コーチング、ロジカルシンキング、プロの写真の撮り方、ボイストレーニングなど、ありとあらゆるジャンルがハイレベルで学べます。

人気のコンテンツは非常によく作られており、きちんと学習すれば、かなりのスキルが習得できるように設計されています。

出所=『働く50代の快眠法則』

次にスキルが学べるコミュニティの参加もおすすめです。

有料学習コミュニティは成果を出したい人しか集まらないので、無料学習コミュニティよりおすすめです。

最後は「興味のある資格の勉強をする」です。

これまで自分の仕事に関係ないことには興味がなかった人が多いと思いますが、この機会にちょっと興味があって知ってみたいなと思うジャンルを勉強すると、確実に脳への睡眠圧が上がります。

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角谷 リョウ(すみや・りょう)
スリープコーチ
LIFREE共同創業者。NTTドコモ、サイバーエージェント、損保ジャパンなどの大手企業をはじめ、計120社、累計6万5000人の睡眠改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士。日本サウナ学会学会員。神戸市役所勤務時に体づくりに目覚め、パーソナルトレーナーをつけ、自分に合った理論的なトレーニングの有効性を実感。あらゆる有名トレーナーのメソッドを研究する。役所を退職後、トレーナーとして独立。神戸と大阪のトレーニングスタジオを経営しながら、自らもトレーナーとしてスタジオや企業で指導を行うエグゼクティブ専門のパーソナルトレーナーとして活動する。
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(スリープコーチ 角谷 リョウ)