この日の記者会見は名古屋駅からほど近いトヨタグループ発祥の地、トヨタ産業記念館で開かれた(撮影:尾形文繁)

「絶対にやってはいけないことをやってしまった」「ご迷惑、ご心配おかけしていることを深くお詫び申し上げる」

トヨタ自動車の豊田章男会長は、1月30日に開いた記者会見で、トヨタグループで相次ぐ不正についてそう陳謝した。

前日に、トヨタの源流でもある豊田自動織機が、エンジン認証に関する特別調査委員会の調査報告書を公表。すでに不正が確認されていたフォークリフト用に加え、トヨタから受託した自動車用ディーゼルエンジンの性能試験などでも不正が明らかになっていた。

2023年12月20日には、完全子会社のダイハツ工業が第三者委員会の調査報告を開示。新車の安全性を確認する認証試験での不正の対象車種が大きく拡大し、国内で生産する全車種の出荷・生産停止に追い込まれていた。

トヨタグループでは、上場子会社の日野自動車でも2022年にエンジン認証の不正が発覚しているだけに、豊田会長は「認証制度の根底を揺るがす極めて重いこと」と遺憾の意を表明した。

現場への過度なプレッシャー

織機、ダイハツ、日野に共通するのは現場が過度なプレッシャーや負担にさらされていた点だ。

ダイハツの第三者委員会は、同社が強みとしていた短期開発を重視するあまり、スケジュールありきの開発が進んでいたと指摘。トヨタからの開発委託が増えたのに対し、安全試験や認証に関連する人員が2013年から2022年の10年間に3分の1まで減らされていた。余裕がなくなる中、「不合格は許されない」という組織風土が現場を追い詰めたという。

織機でも、「エンジン事業部ではそもそも不合理と思われる開発日程が策定される例が多々見られた」(調査報告書)。副社長の要望で量産開始日が1年前倒しされる事例もあった。

無理なスケジュールが押し付けられる一方、「量産開始日の変更は無理であり、スケジュール変更を申し出ようとする気すら起きなかった」「上司に相談したところでどうせ『何とかしろ』などと言われる雰囲気があり、技術部長に相談したとしても無駄であると半ば諦めていた」など、調査報告書には現場の悲鳴が記されている。

両社とも、負荷が大きい状態で認証部門が仕事を抱え込むことが常態化。上司に物が言えない状況のまま不正に及んだ、と調査報告書には社内の風通しの悪さを厳しく批判する言葉が並ぶ。


豊田会長はグループガバナンスの強化策として「次の道を発明しよう」という新たなグループビジョンを発表した(撮影:尾形文繁)

グループの不正にトヨタの責任を問う声もあるが、ダイハツを調査した第三者委員会の貝阿彌(かいあみ)誠委員長は「トヨタうんぬんは関係ない。100%子会社だが、尊重して干渉してこなかったのではないか」と話す。織機の特別調査委も「(トヨタからの)プレッシャーがあった証拠はない」と強調する。

もっとも、豊田会長は「トヨタが発注者になっている場合も多く、物が言いづらい点もあった」とトヨタと各社に溝があったことを率直に認めている。

実際、織機が2017年から2021年にかけて自動車用ディーゼルエンジンの出力不正を行った経緯については、「トヨタ自動車の会議等において、エンジンの性能等に関して疑義が呈されることを懸念した」(調査報告書)とある。


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一方、トヨタ側にも遠慮があったようだ。トヨタはダイハツに小型車戦略を、日野に商用車戦略を任せてきたが、小型車開発の知見を尊重するあまりダイハツに「関与しきれなかった」(トヨタの佐藤恒治社長)。また、「トラックのノウハウはトヨタにない」(トヨタ幹部)と日野に一任していた。

トヨタ幹部は「いずれも真因はコミュニケーション不足にあった」と悔やむ。「単純な言葉だが難しい。本当に人と向き合って会話をしているかが重要だ」。

グループ各社の経営陣は現場を理解できておらず、トヨタ本体も各社の状況を把握できていなかった。トヨタは「現地現物」を大事にしてきただけに衝撃は大きい。

認証不正以外にも不祥事が多発

不正は他社でも起きている。自動車業界を見ると、2015年に独フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの不正が世界的な大スキャンダルになった。日本では2016年の三菱自動車工業の燃費不正が、2017年には日産自動車の完成検査不正が発覚。国土交通省の調査要請を受けて、複数社が同様の事案を公表した。だが当時、トヨタグループでは不正の報告はなかった。

最近になってトヨタグループでは、認証不正以外にも愛知製鋼で規格外製品を顧客へ納入する不祥事が発生。複数の系列販売会社で不正車検や板金塗装作業の不適切な請求があったと公表している。

品質をめぐっては、デンソーが燃料ポンプ不具合で大型リコールを実施中で、2024年3月期に関連費用約1500億円を、アイシンは米国でのエアバッグ部品のリコールで約600億円の品質費用を同期に計上する。


もっとも、トヨタ本体の業績は絶好調だ。2023年のグループ世界新車販売は1123万台と4年連続で世界首位、レクサスブランドを含むトヨタ単体でも1000万台の大台を初めて達成した。

2024年3月期決算は営業収益43.5兆円、営業利益4兆9000億円といずれも過去最高を見込む。ダイハツや織機の不正の影響はあるが、純利益も同社初の4兆円台を見据える。

トヨタ幹部は「業績がいいときこそ、こうした問題には一層気をつけなければならない」と危機感を募らす。長年培ってきた信頼というブランドが傷つけば、この先の競争力低下を招きかねない。

豊田会長がグループ改革の先頭に

この日、「次の道を発明しよう」という新たなグループビジョンを提示した豊田会長。「トヨタグループ全体の責任者はこの私」と明言したうえで「現場が自ら考え、動くことができる企業風土を構築したい」と先頭に立って改革を進める覚悟を示した。

具体的には、今年開かれるグループ17社の株主総会に豊田会長が出席し、株主としてのガバナンスを利かす。また、商品・技術の最終関門となる「マスタードライバー」職を各社に設けるという。ただ、こうした取り組みはあくまで入り口にすぎない。

トヨタ幹部はグループの立て直しに「正解もゴールもない」と話す。豊田会長が言う「主権を現場に取り戻す」ためには険しい道が続きそうだ。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)