ニューハンプシャー州の予備選で演説するトランプ候補(写真:津山恵子)

米大統領選は、オハイオ州に次ぐニューハンプシャー州でもトランプ候補が勝利し、早くも秋の本選でも「当確」の声が高まっている。「良き市民」や「若者」の多くが現職のバイデン大統領を罵り、トランプに熱狂するアメリカの現状をどう捉えればよいのか。

NY在住のジャーナリスト・津山恵子氏が、「歴史に残る大統領選」といわれる2024年の米大統領選を徹底取材。現地の集会や選挙戦を戦う市民のリアルな姿をお届けする最新レポート。

若者の支持者が急増

「4年前より選挙戦がパワーアップしている」――。共和党大統領候補で前大統領ドナルド・トランプ氏の選挙集会に4年ぶりに臨んで驚いた。初の予備選挙を1月23日に控えた東部ニューハンプシャー州マンチェスターで、1月20日のことだ。


1月20日午後4時、マンチェスター中心部で雪に囲まれたスポーツアリーナ前。この冬最低の気温で、マイナス9度、夜にはマイナス13度に冷え込む見込みだ。メモをとりたくても、ボールペンからインクが出てこないほどだ。

その中で1時間半後の開場を待つ人々がすでに1キロちかく並んでいた。最後尾に並ぶが、次から次へと肩をすぼめた人々が後ろにつく。後に米メディアの記事で知ったが、列の先頭にいた人々は、午前9時から並んでいた。酷寒の中のこの熱気とエナジーは、どこから来るのか。

会場に入って、驚くとともにショックを受けた。トランプ集会の取材はこれで7回目だが、以前に比べて若い人が目立つ。「トランプ支持者は、白人の高齢者」という過去の支持者像は消え、白人がほとんどだが半分は20〜30代ぐらいだ。アリーナの席は約2500人の支持者ですぐに埋まり、午後7時にトランプ氏が到着するのをワクワクしながら待っている。

集会の取材は、候補者を生で見ることだけが目的ではない。支持者の年齢や男女比、熱気、他の候補者の支持者層との違いなどを目撃する絶好のチャンスだ。候補者の演説はオンラインでも見られるが、上半身しか映っていない。声援を送っている数百人、数千人の支持者の表情や人種、男女比は伝わらないため、現場に行くしかない。

集会は、全員が着席する形式だった。トランプ氏が到着する前に、若い人からコメントを取ろうと思ったが、動き回ると選対のボランティアや警備に「通路や階段で止まるな」と注意されるため、着席して待った。

大学生と思われる男性4人の隣に座り、話を聞こうかと思ったが、過去の経験から思いとどまった。トランプ氏が演説を始め、「フェイク・ニュース!メディアは、人々の敵だ!」と批判すると、一斉にブーイングが起こり、会場中心部にある鉄柵で囲まれたメディアプールに中指を突き立てたり、スマホで撮影したりするのを記憶していたためだ。

判断は間違っていなかった。トランプ氏を待つ間、会場でウエーブが起きた。歓声を上げながら両腕を上げる隣の男性が「おい、プレス!」と2度叫んだ。ウエーブに参加しないことをなじっているのだ。記者だと名乗っていなくてよかった。ノートもバッグにしまった。

トランプ演説は確実にパワーアップ

午後7時過ぎ、ビヨンセでも来たのかと思うほどの大歓声の中、トランプ氏がステージ上手から笑みを浮かべて登場する。いつものように、ダンスをしているかのように手足をロボットのようにカクカクと動かす。歓声と笑い声で、大音響の音楽がかき消える。老いも若きもステージに背を向けてセルフィーを何枚も撮る。若い女性が連れと肩を抱き合ってジャンプし、「I love you!」と叫んでいる。

トランプ氏の演説はなんと2時間ちかく続いた。私が聞いた過去4回の大統領候補の選挙取材で、最長だ。しかも、2016年、2020年に比べて、かなりグレードアップしていた。トランプ氏は2016年当時、プロンプターを使わず、内ポケットから折り畳んだ紙を出して読んでいた。珍しく黒人の支持者がほとんどという郊外の集会で「教育現場でマジョリティ(白人)が優先されるようにする」と原稿を読み上げ、支持者の人種を見て「即興演説」さえできないでいる惨めな姿も目撃した。

しかし、2020年と今回の集会では、板ガラスのプロンプターを使っていた。しかも今回は、彼の後ろに大画面でパワーポイントを映し出していた。同州でトランプ氏を追い上げていた共和党のライバル候補、ニッキー・ヘイリー元国連代表大使を批判するスライドが続く。

「ヘイリーは、民主党員、ウォール・ストリート、グローバリストに愛されている」
「ヘイリーは、国境の壁を支持していない」
「ヘイリーは、エスタブリッシュメントに愛されている」
「ヘイリーは、65歳は定年には低すぎると発言した」

トランプ氏を脅かすヘイリー氏を、トランプファンが毛嫌いする民主党、金融街、グローバリスト、エスタブリッシュメントと結びつけ、ダメージを与えるスライドだ。

米南部に殺到し増え続ける移民も、トランプ支持者が蛇蝎のごとく嫌う。トランプ氏は、内ポケットから折り畳んだ紙を出し、「蛇の話を知っているか?」と読み始めた。

「優しい心を持った老婦人が、道端で凍えている蛇を見つけた。『優しいおばあさん、お願いだから助けて』と蛇が言う。おばあさんは蛇を温かく包んで家に入れ、暖炉の近くに置いて、ミルクとハニーをやった。

おばあさんが夜、仕事から戻ると、蛇は回復していた。おばあさんは蛇を胸に抱き、美しい鱗をさすってやりキスした。蛇はお礼も言わずに、彼女にかみついた。『救ってあげたのになぜ?あなたは毒蛇で、私は死んでしまうわ』とすすり泣くおばあさん。『黙れ、愚かな女。連れて帰る前に、俺が蛇だと知っていたくせに』と蛇はニヤリとしながら言った」

会場からは「オーーー!」という、怒りと失望が混じった声が漏れた。移民は、「レイプ魔」などになり、米国の安全を脅かすというのがトランプ氏の長年の主張だ。

拡大する「トランプ・ワールド」

予想通り、メディア批判は3回ほどあり数分続いた。

「フェイクNBC!フェイクABC!フェイクCBS!フェイクFOX!」と以前はお気に入りだった保守系テレビ局FOXも敵にまわす。「そして、フェイクCNN!」と声を荒らげると、ブーイングが一段と強まる。私は心拍数が上がるのを感じ、耳の後ろが脈打った。

鉄柵の中のメディアプールは、いわば「安全地帯」で、一瞬メディアパスを取らなかったことを後悔した。しかし、ブーイングは長く強く、カメラマンも記者も柵の中で身じろぎもせず立っている。以前の取材で、CNNの前の鉄柵に人々が集まり、罵倒しているのを見たことがある。

実は、この集会に先立ち訪れた同州のトランプ選対本部では、ゆっくりと人々の話を聞くことができた。みな普通の市民で、「暖かくして」「無事に家に帰るように」などと気遣ってくれた。しかし、トランプ氏が集会で焚き付けると、怒鳴ったり、ブーイングをしたりする集団になる。

演説が1時間半をすぎると、足が悪そうな年配者がパラパラと帰ったが、若い人は席を立たない。元大統領という公的人物が決して使わない、彼独特の表現で盛り上がり、まるでお笑い番組を見ているかのように楽しんでいる。

「WTF(なんだってんだ)」「ねじ曲がったバイデン」「グローバリスト/過激左翼の民主党員」「バイデン災害」―。近くの若い男性が、いちいちトランプのせりふを繰り返し、大声でのけぞって笑っている。

これが「トランプ・ワールド」だ。そして、このワールドは確実に、2016年、2020年よりも拡大している。選挙陣営も、今まで見たことがないほど効率的に動いていて、確信に満ちていた。選対本部では、地域リーダー、広報、電話バンク、個別訪問の各担当がテキパキとボランティアを手伝い、メディアへの対応も慣れたものだった。

集会でトランプ氏がステージに上る直前には、選対メンバーが一斉にステージ上手に集合し始めた。男性は紺色の揃いのジャケットを着ており、女性はトランプ氏好みの原色スーツにハイヒールで長いウェーブの髪をなびかせている。おそらくステージ裏で、演説に向かうトランプ氏を見送るのだろう、と思った。

「(11月の本選挙は)6対4の割合で、トランプが勝つと思う」。人気の国際政治学者でコンサルティング会社ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏が1月8日、記者会見でこう予言したのは、前回の原稿で紹介した。集会の現場に行って、彼の予言と予測は私にとってより現実的なものになった。

ただ、トランプ氏の演説を待つ間、大音響でかかる音楽だけは2016、2020年と変わらず、アップデートされていなかった。オペラ「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」は定番。ジョニー・キャッシュ、エルビス・プレスリー、エルトン・ジョンと続き、トランプ氏が登場する直前の盛り上げソングは「Y.M.C.A」(1978年)だった。

集会が終わり、凍てつく外に出ると、顔にペイントし、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件で見たような大きな動物の角の被り物をした男性らが暗闇で踊っていた。演説の毒々しい内容と、恐怖感でドッと疲れが出て、足早にその場を離れた。

大統領指名候補に「王手」

ニューハンプシャー州は、大統領選予備選(プライマリー)の第1弾。1月15日の中西部アイオワ州党員集会(コーカス)に続いて注目される。トランプ氏は、アイオワ州に続いて、ニューハンプシャー州でも圧勝した。最初のアイオワ、ニューハンプシャー両州を制したことで、7月に開かれる共和党全国大会で、「大統領指名候補」に選ばれることに「王手」をかけた。

ニューハンプシャー州で圧勝を収めた3日後の1月26日、トランプ氏にデパートの試着室でレイプされたコラムニスト、E・ジーン・キャロル氏が名誉毀損として訴えた裁判で、ニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁の陪審団は、トランプ氏に計8330万ドル(約123億4000万円)という巨額の損害賠償を支払うよう評決を下した。

レイプに関する裁判では、すでにキャロル氏が勝訴し、トランプ氏は有罪に。その判決後も、トランプ氏は「この女は知らない。自分のタイプでもない。彼女の話はフェイクだ」と主張を続け、同氏支持者らがキャロル氏に脅迫状を送った。キャロル氏は、ベッドに短銃を置いて寝るほど精神的ダメージを受け、その賠償を求めていたが、再度勝訴を勝ち取った。

違法行為により有罪判決と評決を続けて受けたトランプ氏に、米2州の支持者は「大統領指名候補」となる特急切符を与え、「トランプ・ワールド」の強さを見せつけた。

(津山 恵子 : ジャーナリスト)