マナティーはアフリカ大陸やアメリカ大陸の一部、中米諸国の河川や河口域に生息する水生のほ乳類であり、そのかわいらしい見た目から人間からの人気も高い生き物です。新たに学術誌のPLOS Oneに掲載された論文で、最もよく知られるイルカであるバンドウイルカがマナティーの赤ちゃんを食べもしないのに攻撃する習性があると報告されました。

Agonistic interactions initiated by adult bottlenose dolphins on Antillean manatee calves in the Caribbean Sea | PLOS ONE

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0295739



Dolphins are 'literally acting like jerks' by beating up baby manatees | Live Science

https://www.livescience.com/animals/dolphins/dolphins-are-literally-acting-like-jerks-by-beating-up-baby-manatees

国際的な研究チームは、マナティーの一種であるアメリカマナティーの赤ちゃんや若い個体に対して、バンドウイルカが攻撃的な相互作用を仕掛けた事例を、中央アメリカ北東部に位置するベリーズ近郊で10回確認したと報告しました。攻撃は1999年〜2020年にかけて目撃され、その大半は2015年〜2020年に発生していたとのことです。

研究チームは、バンドウイルカが子どものマナティーを母親から引き離そうとしたり、嫌がらせをしたり、体当たりしたり、かみついたりする様子を観察したと報告しています。いずれのケースもイルカの方から手を出したそうで、意図的なものだったと考えられています。また、座礁したマナティーの健康診断中に、孤児となった赤ちゃんの体にイルカからかまれた傷跡が見つかったケースもありました。

論文の共著者でフロリダ国際大学の生物学准教授であるジェレミー・キシュカ氏は、「私は自信を持って、イルカたちはマナティーの赤ちゃんを殺そうとしていたのだと思っています」とコメントしています。



バンドウイルカがマナティーを攻撃する理由について完全には解明されていませんが、以前からバンドウイルカが他のネズミイルカなどを攻撃する事例が確認されています。キシュカ氏は、「私たちはバンドウイルカが嫌なやつであり、他の種に暴力をふるう事例を世界中で目撃しています」と述べています。

キシュカ氏は、バンドウイルカがマナティーをはじめとする他の海洋生物に対して攻撃的なのは、食糧・空間・資源を巡る競争相手だと認識しているからだと考えています。今後、気候変動によってさらに多くの種の生息範囲が重なれば、敵対的な行動が増加する可能性があるとのこと。

論文の筆頭著者を務め、International Foundation for Nature and Sustainability(IFNS:自然と持続可能性のための国際財団)の科学者であるエリック・アンヘル・ラモス氏は、「イルカがマナティーを食べることはなく、なぜ他の種に対してこのような行動を取るのかは不明です。おそらく、マナティーに遭遇すると好奇心をそそられるのでしょう。また、イルカはお互いに攻撃的になることが多いので、マナティーのような他の種に対しても同様の行動を示すのかもしれません」と述べました。