オール電化の家に太陽光パネルと蓄電池を採用するケースが増えています。しかし、それだけでは電気代の高騰に対応できないケースも。3年前に平屋の注文住宅を建てた日刊住まいライターの事例を紹介します。あとづけで「太陽光+蓄電池」を設置したあと、電気自動車とV2Hを導入。すると、光熱費問題はほぼ解決でき、災害時の不安も減りました。大満足の効果を、データをまじえて詳しくレポート。

電気代高騰で4つの創エネ、蓄エネ設備をあとづけ

筆者は2020年末に、延べ床面積40坪の中庭のある平屋を建てました。この家に夫婦ふたりと大型犬1頭で暮らしています。

家づくりでは、火を使わない安心感と、割安な深夜電力に魅力を感じ、オール電化住宅を選択。深夜時間に電力消費を集中し、電気代を抑えながら快適に生活していました。

そんな状況に異変が起きたのは2021年末。燃料調整費の高騰により電気代は1.5倍に。とくに冬は、床が全面タイルのために床暖房を常時稼働しているので、かなりの痛手になったのです。

そこで導入を決めたのが、「太陽光パネル」「蓄電池」「V2H(Vehicle to Homeの略称。電気自動車などのバッテリーにためた電力を、自宅で使えるようにする機器のこと)」「電気自動車」の4つの設備です。

折からの半導体不足により「V2H」「電気自動車」は大幅に納期が遅延。「太陽光」「蓄電池」のみ先行して導入となりました。

しかし、タイミングがずれたことで太陽光パネルと蓄電池だけでの効果、さらに電気自動車とV2Hを導入してどう変化したか、じっくり検証することができました。

先行導入した「太陽光パネル+蓄電池」で感じた限界

わが家が先行導入したのは、太陽光パネル(5.6kW)とトライブリッド蓄電システム(パワコン+蓄電池4.9kWh)。太陽光の余剰電力を充電することで、発電時間外でも太陽光電力を有効活用でき、割安な深夜電力を昼に使うことも可能になりました。

 

実際に太陽光パネルと蓄電池を、導入した効果を表にしてみました(上表)。ちなみに時間の帯のオレンジ色の部分は昼の電力、紫色の部分は深夜電力の時間帯を表しています。

1日に使っている電力を、買電(赤)、自家消費+蓄電池への充電(濃いグリーン)、自家消費と売電(薄いグリーン)、放電(蓄電池の電気を使用、黄色)と色分けしています。

発電量・消費量が異なるため「春・秋」「夏」「冬」の3つに分け、電力状況をまとめてみました。そして、以下のことがわかりました。

・発電量の多い春〜秋:太陽光の余剰電力を充電し、夕方以降、蓄電池から放電。そして蓄電量がゼロになると、日が出るまでの期間は買電

・発電量の少ない冬:深夜電力や太陽光の余剰電力を充電し、朝と夕方に放電。18時以降、翌朝までは買電(深夜電力で蓄電池にも充電)。6時以降、蓄電池の電力を使用し、発電前に使いきってしまう日は、買電(1時間程度)

この結果から言えることは、太陽光と蓄電池だけでは限界があること。

発電量が消費電力を超える春から秋にかけては、自家消費しきれない余剰電力が発生してしまうのです。この余剰電力(蓄電池の容量不足で発生)は安く売電しています。そして夕方以降に割高な電気を購入するという、なんとももったいないことになっていたのです。

また冬は、蓄電能力がたりないため、18時以降は割高な昼の電力を購入しています。蓄電能力が大きければ、深夜に割安な電気を買電して、蓄電池に充電。たまった電気を18時から、深夜電力が始まる時間まで使うことが可能です。

太陽光パネル+蓄電池の限界を解決するためにとったこと

発電減・消費増の冬は電力購入が増加。充電した深夜電力は2〜3時間で消費。この太陽光パネル+蓄電池の限界問題を解決できないかと、2つの対策を考えました。

 

1.消費電力を増やすため電気自動車を導入

乾燥機や食洗機、エアコンなど消費電力の大きい設備を昼稼働に変更しましたが、時間3〜4kWhを6時間消費し続けるには役不足。そこで、自動車のエネルギー源をガソリンから電気に変えることで、消費電力を増やし、余剰電力自体を減らすねらいです。

 

2.V2Hを導入し電気自動車を蓄電池として活用

V2Hは家と電気自動車の間で電気を充放電するための設備。これを導入することで、余剰電力を、電気自動車に充電し、必要なときに取り出して使うことができます。

わが家が選んだ日産ARIYAは66kWhの電池容量があり、既設蓄電池と合わせて71kWhの電池容量となります。走行用電力としても使えますし、余剰電力の受け皿としても十分です。

 

電気自動車とV2Hの導入によりどう変わった?

電気自動車とV2Hを導入した今年6月以降の電力状況を、先ほどと同じ条件でまとめました。

 

上の表を見ればわかるように、電気自動車とV2Hを導入したことで、太陽光・蓄電池で感じていた限界が、うまくクリアできています。

・発電量が多い春秋や夏でも、売電せずに電気自動車・蓄電池に充電できている
・電池容量が71kWhもあるため、夕方以降翌朝まで蓄電電力で生活できている(深夜1時の買電はシステム上必要な5分程度の買電)
・発電量の少ない冬でも、余剰電力と深夜電力で昼の電力をまかなえている

ただし、天気が悪いと発電が少ない、クルマで外出すると、電気自動車に充電できないといった日もあります。

そういったときは切り替えて、購入電力で電気自動車を充電。時間6kWhの急速充電や、最大で時間10kWhの拡張充電ができるため、1〜2日で元のサイクルに戻すことができます。

導入することで出費の削減と災害時にメリットが!

電気自動車とV2Hの導入により、手に入れることができた具体的なメリットは、以下の2つです。

 

●電気代、ガソリン代、維持費で年間20万円の削減ができた

まず、年間20万円の削減という経済的なメリットです。内訳は以下のとおりです。

・自家消費を増やし売電をなくしたことの差額(4万円/年)
・ガソリンが不要になったこと(12万円/年)
・維持費(自動車税・エンジンオイルなど)削減(3万円/年)

設備投資の実質負担金額は、補助金込みで約75万円(※)。年間20万円の削減効果があるので、4年あれば十分回収できると考えています。

ちなみに投資金額の内訳は、以下のとおりです。

・V2H(ニチコン トライブリッド):設備180万円-補助金115万円=65万円
・電気自動車(ARIYAB6):本体560万円-補助金100万円=460万円

※検討していた同等クラスのHV車(ハリアーHV、450万円)との差額は10万円なので、75万円を実質負担額と計算

 

●災害時も在宅避難が可能になるメリットも大きい

災害対策としてのメリットもあります。蓄電池と電気自動車を合わせると71kWhの電力が。これだけあれば、停電時でも3〜5日の自立生活が可能です。発電の多い時期ならば、数か月間、普段と同じ生活を送ることも可能です。

耐震性の高い平屋と自立できる電気設備は相性がよく、犬を飼っているわが家にとって、長期の在宅避難が可能となるこの組み合わせは、大きなメリットになります。

 

蓄電池の容量を増やすより正解だと思った4つのメリット

電気自動車とV2Hを採用する以外に、蓄電池を追加して蓄電力を増やす方法もあります。しかし、次の4つの理由から前者の方がメリットは大きいと判断しました。

1.電気自動車の蓄電池はkWhあたり8万円と、圧倒的に安い(※家庭用蓄電池は、経済産業省が定めた2020年の目標価格でkWhあたり18万7000円)
2.ガソリン代の削減効果が大きく、蓄電池増強では同程度の効果はでない
3.蓄電池は補助金が少なく回収期間が大幅に長期化する
4.17kWh以上の大型蓄電池は消防への届出が必要でハードルが上がる

これはあくまでも筆者の家のケース。もし、日中は電気自動車で外出していることが多いご家庭だと、V2Hを設置せず、蓄電池の容量を増やすという、選択肢もあるかもしれません。

現時点では電気自動車とV2Hが最善の選択肢

ここまで「電気自動車(EV)」のよい点ばかりを説明しました。しかし、導入しメリットを享受している現在でも、懸念する点がいくつかあります。本当に電気自動車でよいのか? ということです。

満充電で400kmを走行できるため、日々の外出で不便を感じることはありません。遠出でもサービスエリアの充電設備は待ち時間なく使えているため、今のところは大きな問題はありません。

とはいうものの今後、電気自動車の増加にともない、充電設備不足にならないかという懸念があります。

 

●電気自動車のリセールバリューはどうか?

新車購入価格は、補助金を含めれば同等クラスのHV(ハイブリッド)車と同等です。しかし、数年後に乗り換えとなったときにリセールバリューが同等かはわかりません。4年で投資コスト回収の皮算用に変化が出るかもしれません。

 

●電気自動車への課税方針は変わらないか?

国をあげて電気自動車の普及に取り組んでいる現在、税金面ではかなりの優遇を得ています。とくに自動車税は排気量0のため1L未満の扱いです。一方で揮発油税や環境税などの議論が混迷をきわめているため、今後、税制面での扱いがどうなるかわからないという印象を持っています。

電気代の高騰から端を発した電気自動車・V2Hですが、電気自動車にまつわる懸念点も多く決定には迷いもありました。しかし、この結果から、現時点で「電気自動車・V2H」と同等の「経済的な効果」「災害対策効果」を期待できる仕組みはないと思っています。