アメリカのカリフォルニア州に本社を置く物流テックのスタートアップ・Flexportが、世界中の海洋運送業者が紅海経由のルートを避けてアフリカ南方の喜望峰を回るルートを選択していると報告しています。その理由はイエメンにおける内戦だとのことです。

Global Ocean Carriers Halt Red Sea Transits - What to Expect

https://www.flexport.com/blog/global-ocean-carriers-halt-red-sea-transits-what-to-expect/

イエメンの親イラン武装組織であるフーシ派がドローンや弾道ミサイルを使って船舶への攻撃を活発化させていることから、フランスを本拠とする世界有数の海運会社であるCMA CGMは2023年12月16日に、「安全上の懸念の高まりと乗組員の安全性の確保」を理由に紅海とバブ・エル・マンデブ海峡を経由してスエズ運河に向かうすべての船舶を一時停止すると発表しました。Flexportによると、太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河は干ばつによって通過が難しくなっており、多くの海運会社がスエズ運河を通って大西洋に向かうルートを選択していました。



また、12月17日には地中海海運会社やマースク、ハパック・ロイドなどの海運会社がスエズ運河に向かう船舶を一時停止すると発表しました。スエズ運河を回避する場合、大西洋から太平洋に出るためにはアフリカ南部の喜望峰を回るルートを取る必要がありますが、その場合はスエズ運河を通るルートよりも1.25倍も時間がかかってしまうとのこと。さらにアフリカ南部の喜望峰を回るルートは、紅海よりも風が非常に強いため、燃費も悪くなり、燃料費がかさむそうです。Flexportは、状況が解決しない限り海上輸送の料金は大幅かつ急速に高騰すると予想しました。



なお、2021年にスエズ運河でエバーギブン号が座礁事故を起こした際は、それまでコンテナ1つあたり平均1500ドル(約21万6000円)だった輸送費が、コンテナ1つあたり2万ドル(約290万円)にまで上昇したとのこと。

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2023年12月26日、アメリカ国防省は、フーシ派による船舶への攻撃に対抗するべく、アメリカ・イギリス・バーレーン・カナダ・イタリア・オランダ・ノルウェー・スペイン・セーシェルなどの複数の国で紅海南部における安全保障上の課題に対処する「プロスペリティ・ガーディアン作戦」を発令しました。これを受けて、マースクやCMA CGM、COSCOは紅海の通航を部分的に再開しました。

2023年12月30日と31日に、マースクの船舶へフーシ派が攻撃を行ったことで、再び紅海を回る船舶の通航量は激減。マースクは紅海ルートを48時間停止し、2024年1月2日から紅海を通るすべての航行を停止すると発表しました。そして、1月2日にフーシ派は紅海南部に向けて対艦ミサイル2発を発射したため、ハパック・ロイドは「少なくとも1月9日までは引き続き紅海の通過を避け、喜望峰を回るルートに変更する」と発表しました。

Flexportによると、2024年1月5日時点でCMA CGMをのぞいて海運会社のほぼすべての船舶がアフリカ南部の喜望峰を回るルートを選択しており、世界の運航容量の22%に当たる540万TEUに相当する389隻のコンテナ船がスエズ運河を迂回(うかい)しているとのこと。上海発のコンテナ運賃動向を示した上海コンテナ貨物指数(SCFI)の2023年12月15日比は、北欧行きで+179%、地中海行きが+131%、アメリカ西海岸行きが+53%、アメリカ東海岸行きが+40%で、海上輸送費は1カ月で軒並み高騰しているといえます。



そして、2024年1月8日時点で、喜望峰を回るルートを選択している船舶は515隻に到達。さらに紅海を通過する場合の保険費用は2023年12月と比べて3.5倍に増加したそうです。

ただし、喜望峰を回るルートも決して安全というわけではなく、アフリカ東側のソマリア沿岸でも海賊による襲撃がありえます。実際に2024年1月6日には、不審な小型船舶6隻が商船から1海里(1852m)以内に確認されたという報告もあり、紅海を迂回したからといって必ずしもリスクをゼロにできているとはいえない状況です。