第35回全国高校女子駅伝に初出場し、総合結果9位となった銀河学院のアンカー・細見芽生(めい)選手(写真・時事通信)

 2024年12月24日の朝、NHK総合をつけると全国高校駅伝女子大会を放送中で、「銀河学院」という聞き慣れない校名を連呼していた。一瞬、耳を疑ったが聞き間違えではなく、アナウンサーは確かに「ギンガ」と発音していた。初出場の銀河学院は終盤まで3〜4位を走る健闘を見せたのだ。

 さっそく「銀河学院」で検索すると、広島県の旧福山女子高校が1997年の中学創設時から名乗っているという。X(旧Twitter)は、《かっこよすぎる校名》《すごいキラキラ校名よね…》《ガンダムに出てきそう》《パワプロのアンドロメダ学園を思い出した》などの声で沸いた。

 同校のサイトにも一時、アクセスが集中し、《グクっても全然繋がらない》とポストされるなど、9位という駅伝の総合結果以上のインパクトを全国に与えたようだ。銀河学院の命名の由来は、よくある理事長の「鶴の一声」。実際に北アルプスの白馬山山頂から眺めた夜の銀河に、感銘を受けたのだという。俳優の毎熊克哉の母校で、男女共学化を機にこの名にした。

 筆者は多くの学校を取材してきたが、公立も私立も少子化で、生徒募集には苦戦している。また、伝統の男子校・女子校が共学化するといった大胆な機構改革の際は、校名も思い切って変えられる、という例はたしかに多い。地名や創設者の名を校名に冠した場合でも、イメージチェンジを世間に知らしめるには、校名変更が手っ取り早いからである。

 教育評論家の森上展安氏は、2021年3月の朝日新聞の取材に対し、「共学化と校名変更に併せて大きな学校改革や校舎改築などを断行し、注目を集めて偏差値が大幅にアップする学校が増えている。逆に言うと、ここで人気が上昇しないと、もう次はない」と指摘している。

 事実、2006年にそれまでの嘉悦女子中学高校が男子生徒受け入れ(2013年に授業とホームルームを別学化し、2020年に再び共学に移行)と移転を機にかえつ有明を名乗り、また2007年には順心女子中学高校が共学化して広尾学園を名乗って成功するなど、校名変更はイメチェンの切り札。一方、男子校の場合は早稲田実業(2002年。以下、カッコ内は共学への移行年)、郁文館(2010年)、芝浦工業大学附属(2021年)など、校名を変えずに乗り切る例が主流だった。

 ところが、横山大観や長谷川如是閑、永井荷風らを輩出した1885年創立の伝統の男子校、日本学園が2026年には共学化とともに明治大の系列に入り、明治大学付属世田谷中学高校となることが決まっている。こうした大学系列校として生き残りをかける例も最近は目立つ。

 昨今の改名ブームに対し、2010年代に共学化を果たした都内の元男子校のベテラン教諭A氏は、「学校のアイデンティティをないがしろにしているのでは?」と嘆く。A氏の学校は、校名を維持した。

「創立者の名を冠した我が校の場合、先の理事長が『絶対に校名だけは変えるな』とつねに語っており、職員会議の議題にさえ上りませんでした。創立者の思いが校是にもなっているからです。最近はやたら校名に『国際』の文字を入れるのが流行りですが、とても安直な気がしますね。国際教育の必要性はいまになって説かれ始めたわけではないですから」

 2015年に戸板中学・同女子高校が三田国際学園中学高校と改称したのが、“国際命名ブーム”のきっかけだった。2023年には東京女子学園が芝国際、2024年度からは蒲田女子高校が羽田国際と名を変えて共学化にシフト。2022年には星美学園がサレジアン国際学園に、2023年には目黒星美学園がサレジアン国際学園世田谷と名乗り、共学化した。星美学園はカトリック校で、「サレジアン」は設立母体の女子修道会サレジアン・シスターズおよび兄弟修道会サレジオ会に由来する。

 そもそも、カトリックや仏教系の学校には変わった名前が多い。日本人は聞き慣れない、宗派や会派の名前を校名に冠しているからだ。たとえば大阪・箕面市の聖母被昇天学院は、フランス・パリに本部があるカトリックの聖母被昇天修道会により創立され、その名があった。しかし、同校も2017年には共学化し、アサンプション国際を名乗っている。「被昇天(天に召される)」は、英語で「アサンプション(assumption)」となる。

 仏教系の学校でも21世紀に入って校名変更をし、真意を知らされなければ、“キラキラ”に思える例はいくつかある。栃木県佐野市の青藍泰斗などがそうだろう。2005年までは葛生(くずう)高校と名乗っていた禅宗系の学校だ。青藍は「青は藍より出でて藍より青し」、泰斗は「泰山北斗」の略で大家という意味だが、くっつけると後光が差すようだ。

 A氏によれば、校名改称には、英語を取り入れるなどの革新型、このように古典から名を取るといった伝統回帰型の2パターンがある。福岡の学校法人が創設後、現法人へ無償移管した複雑な経緯を持つ、埼玉県久喜市の昌平中学高校は、1979年の開校時からその名を名乗っており、江戸幕府直轄の教学機関「昌平坂学問所」に由来するのは明らか。福島県いわき市で東日本国際大などを経営する法人「昌平黌」は学問所の別称だ。

 この東日本国際大は1995年、いわき短期大の四大改組にともない現校名となったように、平成の約30年間(1989〜2019年)に校名変更した大学は115もあった。中堅大や短大、女子大は、中学・高校より先に学生募集の困難にぶち当たり、学部増設や共学化の必要に迫られたからだ。ただ、2007年に秋田経済法科大がノースアジア大となるといったキラキラ展開もあったが、1992年に八代学院大が神戸国際大に、1997年に静修女子大が札幌国際大になるなど、地名+国際パターンが多かった。

 A氏は「学校の命名は創設者や関係者の想いの表れ」だと語り、変えるからには「何世紀も受け継がれる名前であるべき」と訴える。

「経営に行き詰まった学校は、大手塾の指導を仰いだり、コンサルタントを入れたりし、改名の権限まで委ねてしまいがちなんです。ちょっと奇抜だなと思う校名にはそんなケースが多い。いまや予備校が中高を作ってしまう時代となり、河合塾が2019年に開校したドルトン東京学園中等部高等部の名称にはたまげました。アメリカの教育学者のメソッド(ドルトン・プラン)に基づくネーミングなんですけどね」

 ほかにもA氏は「旧校名とのギャップに驚く」として、千葉県松戸市の光英VERITAS中学高校の名をあげた。同校は2020年までは、聖徳大学附属女子中学校高校を名乗った、大学附属の女子校だった。「VERITAS」とはラテン語で「真理」の意味だが、「おそらくコンサルの提案あってのネーミングでは?」とA氏は推測する。

 これら革新型ネーミングには明らかに、全日制と同じく3年で卒業できるようになり、20世紀末から増加の一途をたどる通信制高校の自由な校名の影響が見られる。1991年には私立18校、公立68校しかなかった全国の通信制高校数は、2020年には私立179校、公立78校までに膨れ上がり、2016年春に角川ドワンゴ学園が開設したN高等学校は系列のS高等学校と合わせ、生徒数も2万6197名を数え、CMにGACKTを起用するほど成功した。

 飛鳥未来きずな(宮城)、県立太田フレックス(群馬)、ルネサンス(茨城)、日々輝学園(栃木)、アットマーク国際(石川)、AOIKE(福井)、自然学園(山梨)、地球環境・ID学園(長野)、キラリ(静岡)、AIE国際(兵庫)、ワオ(岡山)、RITA学園(香川)、日本ウェルネス(愛媛)、こころ未来(長崎)……。これらはすべて通信制高校。専門学校に目を転じると、学校法人ギャラクシー学園が経営する、東京ギャラクシー日本語学校が存在した。銀河学院に匹敵する気宇壮大なネーミングだ。全世界がネットでつながり、SDGsの意識も定着した今日、国際化は、もうありきたりだ。結果、銀河を目指そうという改名意図につながるのかもしれない。

文・鈴木隆祐