手取り8万未満、元貧困ホストの報酬明細明らかに「一部のホストと店だけ儲かるシステムだった」
女性に多額の売掛(借金)を背負わせる「悪質ホスト問題」に注目が集まる一方、新宿・歌舞伎町のホストクラブは賑わいをみせている。ならば、ホストも軒並みウハウハかというと、そう甘くはない。そもそもホストはホストクラブ運営会社の社員ではなく、業務委託契約を結んだ個人事業主とされる。人知れず苦境をなめる「貧困ホスト」の存在を報告する。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●憧れもあったが「貧困ホスト」に陥っただけ
「手取りで8万円にも満たないのでは、まともな生活なんてできないですよ」
つい最近まで、歌舞伎町でホストをしていた20代前半のハヤトさん(仮名)はこう憤ったあと、言葉を継いだ。
「しかも、基本報酬から引き落とされるのに納得できないお金も多かったです」
ハヤトさんは今夏、歌舞伎町にある大手ホストグループのホストクラブで働き始めた。店休日以外の週6日、夕方に出勤。掃除から始まり、女性客が来店すると先輩ホストのヘルプに入った。時にすすめられた酒を無理やり飲み、吐くことも。閉店後の掃除も含めると、毎晩午前1時ごろまで、6、7時間は働いた。
ところが、対価は寂しいものだった。彼が持参した2023年9月の「報酬明細書」をチェックしてみる。
「報酬額」は「指名料」や「達成賞」による加算がないことから、「基本報酬」のみで22万円。ここから「控除額」として、4項目で合計14万2100円が引かれる。(1)所得(1万5千円)、(2)旅行積立(2万円)、(3)バンス(7万7100円)、(4)寮費(3万円)が内訳だ。
最終的な手取りは、7万7900円。寮費で住む場所は確保できている。しかし、スマホ代や仕事で使う洋服・化粧品代を支出すると、次の報酬支払日までに持ち金がなくなった。
「憧れもあり、足を踏み入れましたが、貧困ホストに陥っただけです」
●不明点の多い「控除額」
東京都の最低賃金は2023年10月から「1時間1113円」だ。仮にハヤトさんが1日6時間で週6日、4週間(24日分)働いたとする。最低賃金による単純計算は約16万円となるから、「基本報酬」は、そのラインを超えている。
ただし、ハヤトさんが訴えるように「控除額」は不明点が多い。彼はいまだに寮費(3万円)以外は、合点がいかない。
そもそもハヤトさん自身、社員でなく、個人事業主として働いているという認識をきちんと持てていなかった。本来ならば、確定申告をして所得税を支払う立場だが、所得(1万5千円)が何かわからず、引かれてしまっていた。
旅費積立(2万円)については、「実際に行った旅行内容と比べると、積立金額が多すぎる」。在籍中に一度、大阪に2泊3日でみんなで出かけた。いわゆる「社員旅行」だったが、店側が負担したのは往復の新幹線代とホテル代のみ。
ハヤトさんは「10万円は積み立てたけど、その6割も帰ってこなかった」と振り返る。
●「ほんの一部のホストと店が儲かるシステムだった」
さらに腹立たしいのが金額が多いうえに不透明感も強い、バンス(7万7100円)だ。
ホストにとっての「バンス」は、給与の前借りにあたる。ただし、ハヤトさんの記憶によると、店はバンス代に、出勤時に必須とされたヘアメイク代や衣装代も含ませていた。浴衣イベントのようにハヤトさんが把握している出費もあるが、何となく加算された分も多かったという。
「結局のところ、ほんの一部のホストと店ばかりが儲かるシステムでした」
同じ新人ホストだけでなく、指名を取れていない先輩ホストも、お金に困っていたそうだ。
そもそも、最初の入口からして変だった。ハヤトさんはホストクラブの求人サイトを見て応募したが、そのサイトは「入店時3万円支給」をうたっていた。ところが、実際にもらえたのは、4800円のみ。「この時点で気づけば、数カ月が無駄にならなかった」という思いが消えない。
●「女性に見せないホストクラブの裏は、とても古いもの」
筆者は、元ホストで、20代後半のカイさんにも話を聞いてみた。彼が持参した「報酬計算書」によると、出勤が月8日で約5万円、17日でも約8万円の手取りだった。
ハヤトさんの所得やバンスと違って、カイさんが納得できていない控除額はない。ただし、ヘアメイク代の負担が重かったことから、カイさんは次第に利用しなくなったと明かす。
カイさんは「自分は儲け第一は無理」と割り切って働いてたことから、報酬の少なさへの不満はハヤトさんほどはない。しかし、遅刻や欠勤時に課される「罰金」の細かさに辟易したという。
入店時の説明では、「罰金制度はあるけど、やらないよ」と店舗幹部は説明した。ところが、入店からほどなく厳しい運用となる。
「当日の欠勤にも罰金を課していたけど、急な体調不良もありますよね。女性に見せないホストクラブの裏は、とても古いものでした」
●オーナーと貧困ホストの「落差」は大きい
歌舞伎町のホストクラブは12月上旬、新宿区役所で記者会見を開き、来年2024年4月から売掛をなくすなどの自主ルール制定の方針を明らかにした。
その際の報道陣とのやり取りで、ホストクラブ代表の巻田隆之氏は、業界の金銭感覚について以下のように話している。
「ここ最近においてなんですが、売り上げの金額とかも、すごく上がりました」
「そういった部分で僕たち業界全体が、だいぶ麻痺してしまっているようになったなと思っております」
金銭感覚が「麻痺」するほど儲けているホストクラブオーナーと、ハヤトさんら貧困ホストの「落差」は大きい。