運転免許の取り消し、「無罪」なのに警察はゴリ押しできるのはなぜか

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運転免許の取り消し処分について、とんでもないケースが全国報道された。簡単に経緯を拾うとこうだ。

1、福岡県で2017年2月、原付バイクと軽トラックの事故が起こり、バイクの少年が負傷した。
2、福岡県の公安委員会(実質は福岡県警)は軽トラック側に過失ありとして、そのドライバーである女性に対し運転免許の取り消し処分(以下、免取り処分)を執行した。
3、女性は「過失運転致傷」で起訴された。福岡地裁は「防犯カメラ」の録画記録や目撃者の証言などから無罪に。しかし福岡県警は免取り処分を撤回せず…。
4、無罪は不服だと検察は控訴。高裁は棄却した(無罪を維持した)。検察は上告をあきらめ、無罪が確定。しかし県警は免取り処分を撤回せず…。
5、女性は、免取り処分を撤回するよう民事の裁判を起こした。勝った。しかし県警は免取り処分を撤回せず…。
6、敗訴は不服だと警察側は控訴。高裁は棄却した(警察敗訴を維持した)。2023年10月、県警は上告をあきらめ、ようやく免取り処分を撤回した。

ここまで6年。運転の仕事に就いていた女性は大きなダメージを受けたという。報道を見た方の多くは「福岡県警、どんだけバカなの?」と思ったろう。確かに、そこまで頑強に免取り処分を撤回しなかった=警察無謬(むびゅう)にしがみついたのは、度を超えている。いったいなぜ? じつは、深い理由というか背景があるのだ。ご説明しよう。

私はもう40年間ほど、交通違反方面を取材、研究し続けてきた。昔は、違反や事故の刑事処分が不起訴になれば、警察は違反点数を抹消、免許停止・取り消しの行政処分を撤回して当然、それが弁護士や職業運転手の組合の、普通の認識だった。

ところが、1980年代の終わりごろからだろうか、運転者たちから、警察でこんなことを言われたという声が多く聞こえてきた。

「刑事と行政は別だ。刑事処分がどうなろうが点数は抹消しない。行政処分は撤回しない」

当初は東京、大阪など大都市の警察が頑強で、地方の警察は人情味がある、そんな感じが見受けられた。やがて、頑強さは地方へも広がっていった。

「不起訴は検察官のお目こぼしだ。警察は処分を執行する」
「どうしても納得いかないなら、あんたが総理大臣になって制度を変えればいい」

そんなことを警察で言われたと、全国から聞こえてきた。警察庁が方針の変更を決めたようだ。警察庁の内部で何があったのか。

■警察の権限だけで徴収できる金銭ペナルティ

1990年4月10日の読売新聞に、とりあえず駐車違反に限って、違反者ではなく車両の所有者から、反則金や罰金ではなく「課徴金」を徴収する、その方向で警察庁は道路交通法の改正案をまとめたと、大きな記事が出た。

改正案は国会に出ないまま1993年11月14日、今度は朝日新聞に、駐車違反に限らず軽微な交通違反と交通事故(=大部分の違反と事故)について、課徴金に似た「行政制裁金」を導入予定という大きな記事が出た。1994年10月17日には読売新聞に、同旨の大きな記事が出た。

行政制裁金とは(課徴金も)、検察官、裁判官のチェックを経ることなく、警察の権限だけで徴収する金銭ペナルティだ。そう、運転免許の点数登録や行政処分と同じように金銭ペナルティも徴収するというのである。しかも、不起訴で終わっている事故(=大部分の事故)からも徴収するという。警察の権限のもとに巨大な市場が生まれる!

そこへ向かうには、交通取り締まりも交通事故の過失認定も、常に適正でなければならない。検察官や裁判官のチェックなど不要でなければならない。そこで、行政制裁金の導入へ向け動きだすに当たり、「警察は無謬だ。刑事処分がどうなろうが…」という運用へ方向転換したのか、私はそう読んだ。