彼らの漫才を語るうえでM-1は外せない(写真:HEILAI Zhengnan / PIXTA)

「和牛解散」。そのニュースに触れた12月13日朝の長男のメッセージは、わが家の家族LINEを沸騰させた。

わが家一のお笑いファンである長女は「えっ…!」と絶句。大事な要件にもちっとも連絡をよこさない次男ですら「あら」という書き込みをした。

それほどに和牛の解散は、私たちにとってショッキングな出来事だった。

個人的に言うと、最近見ないなあと頭の片隅で思っていた。漫才界の動向に気をつけているぼくですら、そんな状態だった。

この独特の漫才が見られなくなる


和牛は好きな漫才師だ。川西くんのねちっとした、悪意のあるツッコミと、それを無視して飄々とボケ続ける水田くんのやり取りは、ほかの漫才師にはない独特の形でとくに好きだった。

いや過去形ではない。まだ解散していないのだ。にしても、もうすぐこの独特の漫才が見られなくなるということか。

解散の理由はいろいろと挙げられているが、そのうちのひとつが水田くんの頻繁な遅刻だという。

遅刻くらい、さんまさんも、ダウンタウンも若いときはしょっちゅうしていた。そんなことが解散の理由になるまい。いや、43歳、コンビ結成17年にもなる漫才師が遅刻となると、それは少し問題かもしれないが。

ただ、眠い眠い、遊び盛りの若手ではない。ほかの何かが原因だろう。

2人のモチベーションの違いということがありそうだ。

川西くんには、漫才に精進してこの道を究めたいという目標がありそうだ。対する水田くんには、漫才にこだわらず、いろいろなことに活動の場を広げたいという気持ちがあるようだ。

そういう点でふたりの漫才に対する熱の入れ方に違いが生まれたのだろう。水田くんの劇場遅刻というのはその表れだ。川西くんにはそれが単なる遅刻だと許せなかったのだろう。

もし大会の「中断」がなければ

和牛の漫才を語るうえで、M-1は外せないだろう。これほどM-1に愛され、翻弄された漫才師はいないと思う。

2015年から2019年まで、5年連続決勝進出。そのうち2016年から2018年まで3年連続準優勝という、すごい成績を残している。


2011年から2014年までM-1は中断している。「たられば」が許されるなら、もしこの中断がなくM-1が開催されていたら、はたして和牛はどうなっていたか……と考えてしまう。

決勝に進出して、すんなり優勝していたかもしれないし、まだ5年目ゆえ決勝に残れなかったかもしれない。

だがいずれにしろ、こんな中途半端な解散にはならなかった気がする。

このM-1の開催されなかった2011〜2014年に補填的に開かれた「THE MANZAI」では、かろうじてラスト4回目の2014年に決勝ラウンドに進み、8位という成績を残している。

THE MANZAIに芸歴は関係なし。M-1には「コンビ結成10年以内」というルールがあり、そのために涙を呑んだコンビが毎年何組も出ていたが、この大会にはそうした制限がなかった。

これは同時に、コンビ結成5〜6年目の和牛にはかなりきつい大会だったといえる。

そして再開されたM-1グランプリ2015に出場した和牛は見事決勝に進出し、6位という結果を残した。翌年から和牛の快進撃が続くわけだが、準優勝止まりでついに優勝はできなかった。

解散をめぐる報道で、川西くんが「M-1で優勝できなかった」ことで鬱状態になっていたという証言があった。

もしM-1が2010年で中断せず、2011年以降も続いていたなら、脂が乗り始めていた和牛が活躍したであろうことは想像できる。叶わない夢なのだが、それが見たかった。

この失われた4年がなければ、和牛はどうなっていただろう。決勝に残れなかったかもしれない。それはわからないが、考えずにいられない。コンビ結成10年までに必ず決勝に残り、優勝して、順調にスターダムにのし上がったことは間違いないと思う。

けれど残念ながらM-1は開催されなかった。それが今回の解散に微妙な影響を残していたかもしれない。

「いちばん強い漫才師」とは

ただ、ぼくはつねづね「M-1は決して最終ゴールではない、あくまで通過点だ」と言っている。最後に目指すのは、劇場に足を運んでくださったお客さんを笑わせることだと。

交通費や入場料を払ってまで劇場に来てくれるお客さんは、何よりも温かいし、誰より厳しい。家で寝転がってテレビを見ている人とは全然違う。そういうお客さんの前で日々闘っている漫才師はいちばん強い。

かつて、やすし・きよしで一世を風靡し、今も舞台に立ち続ける西川きよしさんはその筆頭だ。「稽古しとったらこわくない」と、いつも自信を語っている。あの暴れ馬の横山やすしさんを引っ張り、ときには尻を叩いて日本一の漫才師になった西川さんには、ものすごい粘りがあった。

もし和牛がM-1を最終ゴールだと考えずに、引き続き2人の気持ちを合わせて漫才に精進していれば、「解散」という結果には至らなかったかもしれない。それこそ日本一の漫才師になれた可能性だってあるのに。本当に残念でならない。

(谷 良一 : 元吉本興業ホールディングス取締役)