“癒されバニア”がブーム?「頭をひとなでしてから働きます」シルバニア人形を持ち歩いて癒やされる限界社会人の叫びとは
近年、シルバニアファミリー人形を職場や家で愛でる大人が増加しているらしい。なんでも、小さくて愛らしいその存在が、荒んだ心を癒やしてくれるというのだ。実際にシルバニアの仲間たちに応援されながら懸命に生きる社会人たちの本音を聞いた。
いつの間にか増殖していた、シルバニアにすがる限界社会人
1985年の登場以来、世界各国で愛されているシルバニアファミリー。11月23日には、シルバニアファミリーの初となる映画『劇場版 シルバニアファミリー フレアからのおくりもの』が公開されたばかり。
子ども向けかと思いきや、一部では「大人も泣ける」「疲れきった大人こそ見るべき」と話題になっている。公開初日の劇場には、先行販売された新商品“小さい赤ちゃんポップコーンズ”を熱心に吟味する大人の女性の姿も。
映画公開初日にイオンシネマで先行販売された『小さい赤ちゃんポップコーンズ』。11月26日時点でXをチェックすると、売り切れに涙する大人がチラホラ確認できた
そんな中、SNSを中心に「シルバニアに救われてます」という大人が増加中。
「上司に理不尽な怒られ方をしているとき、ポケットに入っているシルバニアをギュッとにぎりしめて耐えた」「会社のデスクにシルバニアを置いて、癒やされながら仕事をしている」――。
ここ数年、かわいらしい画像とともにこんな悲痛な叫びの投稿が続出しているのだ。
愛くるしい顔、コロンとしたフォルム、独特の手触り。一点の曇りもない純粋無垢な存在が、汚れた世の中を生き抜く“限界社会人”を救っているらしい。
とはいえ、元来シルバニアファミリーは、小さな子どもを対象とした玩具だ。いい大人がおもちゃ屋さんにわざわざ足を運んでまで購入するのは気が引ける、という人も少なくない。
しかし、いまやヴィレッジヴァンガードのような雑貨屋でも取り扱うようになり、大人がシルバニアを入手するハードルはかなり下がっている。実際に、「“限界社会人の味方”的なポップがついていました。その言葉に背中を押されて、3体買いました」という声もあった。
あの小さな人形たちのどこにそんな引力があるのか。“シルバニア赤ちゃん連れ”を実践している人たちに、話を聞いてみた。
小さきものたちの存在が、心を浄化する――限界会社員・Aさんの場合
2年前の冬に3体のシルバニアの赤ちゃんを購入し、会社のデスクに置き始めたというAさん(20代)。
「Twitter(現X)で、シルバニアが癒やしになるっていう投稿を見かけたんです。私も労働に限界を迎えていたので、“ようちえんおともだちセット”を買いました。
ある日会社で無理な仕事にマジギレしそうになっていたとき、同僚に『赤ちゃんたちが見てますよ』と言われ、口に出しかかっていたグチを引っ込め、シルバニアをひとなでしてから働きました」
大事そうにシルバニア人形を抱えながら話すAさん
シルバニアを、ひとなでして…? どうやら、シルバニアの仲間たちには鎮静効果があるようだ。
Aさんは、シルバニアファミリーの魅力について「小さき無垢な存在を感じると、マイナスな感情を持っていることがよくないなと思えてくる」と語った。
しかし、現代社会の荒波もなかなかに手強い。Aさんの激務は過酷を極め、かわいい3体の応援もむなしく、今年10月に過労による休職を余儀なくされてしまった。
Aさんは休職中にペンギンの赤ちゃんを追加で購入し、自宅の机に置いているという。
Aさんは購入前に友人に「買い足しても、本当にいいのか私?」と相談していたそうだ
生きる力が湧いてくるかわいさ――限界会社員・Bさんの場合
「数年前からSNSなどで“シルバニアの人形を会社に持って行くと心が落ち着く”という話を見聞きしていて、気になっていました」と話すBさん(20代)は、プードルの赤ちゃん1体とペンギンの赤ちゃん2体を持っている。
「角度を変えると表情が変わって見えるところがかわいい」と話すBさん
「仕事へのやる気がゼロになり、デスクにいるのがしんどくなったときは、職場のトイレに逃げ込んで推しの写真や動画を眺めて、心を落ち着かせることがありました」と、かなり追い込まれていた。
Bさんの家のシルバニア人形たち
“かわいいと思える存在が手元にあると、より心強いかも”と考え、購入に踏み切ったというBさん。
幼少期にシルバニアに触れたことはほとんどなく、「ウサギくらいしかバリエーションはないと思っていましたが、たくさん種類があって、赤ちゃんのシルバニアも存在していることにビックリしました」と話す。
シルバニアに惹かれる理由には、やはりBさんもその小ささを挙げた。
「微妙に生命を感じる目の輝きや毛並みが、持つ者に“大事にしなくちゃ…!”と責任感を感じさせるのだと思います。シルバニアは一種のお守り的存在というか、精神の拠り所となる存在なのかもしれません」
目の輝きに生命を感じる……?
Bさんは、朝のメイク時間にシルバニアたちの手を借りているという……。
「これから始まる労働に絶望し、どんよりした気分になることが多いので、鏡の横でシルバニアが応援してくれていると元気が出ます」と微笑んだ。
シルバニアの赤ちゃん連れは、すぐそばにいるのかも
ふたりの話を聞いたあと、その効果はいかほどか、試しに筆者も“くるみリスの赤ちゃん”に作業中のパソコンの横にいてもらった。
すると猛スピードで原稿を仕上げることができた…ということはさすがになかったが、チラチラと視界に入る愛らしい存在が心を穏やかにしてくれたことはまちがいない。いっしょにいてくれるだけで、なんかちょっと、いつもより仕事が楽しい気もした。
筆者のパソコンにマイカーで駆けつけてくれたくるみリスの赤ちゃん。「がんばって…」と聞こえる気がした
Bさんに、周りにもシルバニアを持っている人がいるのか聞いてみると、「最近友だちと(シルバニアを)集め始めたので、あまり周りにはいません。でも、私もさすがに大声で人には言えないので、実は持っていても隠しているのかもしれません」という回答だった。
もしかしたら、自分の近くにいる人のポケットにも、街ですれ違った見知らぬ誰かのカバンにも、こっそりシルバニアが潜んでいるのかもしれない。
だが、もし本当にそうであっても、あの癒やし効果を体感してしまったあとではまったく驚きはしない。
この密かなブームは、まだしばらく続きそうな予感がしている。
取材・文/二ッ屋絢子
