角田裕毅、アブダビGPとの相性のよさで大逆転を狙う「不可能ではない」
失意のラスベガスGPからわずか5日──。角田裕毅とアルファタウリは2023年シーズンの最終戦に挑むべく、アブダビにやってきた。
「ベガス観光やカジノはレース後にとっておく」と話していた角田は、消化不良に終わったレース週末の鬱憤を晴らすべく、カジノで勝利を収めたと笑顔を見せた。
「勝ちました、14倍になりました。本当はポイントを獲ったらそのボーナスを全部賭けてやろうと思っていたんですけど、経験として楽しむということで『せっかくなんでやるか』って。完全なビギナーズラックですけどね」
角田裕毅は今季最後のレースをどう締めるか photo by BOOZY
レース最終盤にパワーユニット周りのトラブルでリタイアを余儀なくされ、アブダビでの新規投入とグリッド降格ペナルティも懸念されたが、これも杞憂に終わった。エンジンの回転数を読むセンサーのトラブルで制御ができなくなったためにフェイルセーフが働いたといい、パワーユニットそのものが壊れる前に停止している。
メキシコシティGPで投入したばかりのこの個体は、解析のためHRC Sakuraに返送しなければならない。そのためアブダビGPで使用することはできないが、既存のパワーユニットでも1戦分は十分に新品同様のパワーで走りきることができるので、不利はないという。
「戻ってきたPUをチェックしたところ、たしかにセンサーにダメージがあることはわかりました。ただ、そこにダメージが及んだ原因が現場では解析できなかったので、HRC Sakuraに送り返してチェックしているところです。
なので、今回は違うPUを使わざるを得ないということになりました。でも、あと1戦なら全然パフォーマンスを落とさずに走れるエンジンなので、不利はなく戦えます」(HRC折原伸太郎ゼネラルマネージャー)
ラスベガスではタイヤに熱が入らず、その結果としてグレイニング(表面のささくれ)が発生してペースが上げられなかった。そのセットアップ面の課題もあったとはいえ、根本的な問題は長いストレート区間が続くコースレイアウトがドラッグ(空気抵抗)の大きいアルファタウリのマシンにマッチしなかったことにあると、角田は見ている。
【打倒ウイリアムズを掲げるアルファタウリの執念】「クルマの特性上の問題だと思います。ダウンフォースの効率がよくないのは今シーズンずっとわかっていたことですし、ストレートが長いと苦しいこともわかっていました。ただ、あそこまで悪いと思っていなかったです。セットアップの部分で少し改善できた部分もあったと思いますけど、そもそもクルマの特性として合っていなかったのが大きかった」
アブダビGPの舞台ヤス・マリーナ・サーキットも長いバックストレートが2本あり、その合計は1.3kmに及ぶ。しかし、アブダビの場合はコーナーも多く、特にアルファタウリが得意とする中低速コーナーがセクター3に多々ある。ストレートの不利も、そこで十分に挽回できるというわけだ。
事実、2021年には予選8位、決勝4位という結果を残している。2022年も予選12位、決勝11位と、昨年のマシン競争力からすれば決して悪くはない。そして角田自身も、ともにピエール・ガスリーの順位を上回っており、自信を持っているサーキットだ。
「2021年には4位でフィニッシュしたいい思い出がありますし、過去3年間を見てもアブダビはアルファタウリのクルマに合っているほうだと思います。ストレートもあるとはいっても2本。あとはコーナーばかり。
ラスベガスのように『ほとんど全部ストレート』というレイアウトではないですし、路面のアンジュレーション(うねり)も少しあります。そういう部分では、アルファタウリはけっこう悪くないと思います」
そしてアブダビはラスベガスと違って温暖な気候であり、タイヤのウォームアップの心配もない。
さらには、フロアを中心としたアップグレードも投入される。最終戦ではあるが来年型マシンにつながるパーツであり、コンストラクターズ選手権7位をなんとしてでも獲得したいというアルファタウリの執念でもある。
ウイリアムズとのポイント差は7点。1レースで少なくとも7点を獲得するのは簡単ではないが、この大型アップデートの効果でアメリカ大陸3連戦の時のようなパフォーマンスが発揮できれば、可能性はないわけではない。
【引退するフランツ・トストを笑顔で送り出したい】少なくとも、アルファタウリも角田も最後まであきらめてはいない。
「逆転するには6位や7位でフィニッシュしなければならないので、理論的には難しいと思います(6位=8点、7位=6点、8位=4点)。でも、不可能ではない。今回持ち込んだアップグレードもありますし、メキシコやブラジルのようなパフォーマンスが発揮できれば可能だと思います。何が起きるかわかりません」
このレースは、トロロッソ時代の2006年から長らくチーム代表を務めてきたフランツ・トストの"引退レース"でもある。チーム代表として戦う最後のレースを、ランキング7位となって笑顔で送り出したいとチーム全員が一丸となっている。
「フランツとはたくさんの思い出がありますが、彼と出会っていなければ、僕はドライバーとしてだけでなく人間としても、これほどまで成長することはできなかったと思います。特に初年度の前半に僕が苦しんでいる時、彼はいつも寄り添って支えてくれましたし、ずっと僕の才能を信じ続けてくれました。
彼のためにも、チーム代表としての最後のレースでぜひともウイリアムズを打ち負かしたいと思っています。いいかたちでシーズンを終えて、彼が笑顔でアブダビをあとにできるようにしたいと思います」
決して簡単な目標ではないが、それが実現可能であると信じることができること、そして最後まであきらめずに戦えること──。
それこそが、角田裕毅とアルファタウリのこの1年の成長の証(あかし)にほかならない。