11月25日、26日にAsueアリーナ大阪(大阪中央体育館)にて、卓球の第6回パリ五輪代表選考会「2023 全農CUP 大阪大会」が行なわれる。パリ五輪に向けた選考レースは、今大会と来年1月の全日本選手権を残すのみ(※)となったが、最大の注目は女子の上位争いだ。

(※)各大会とは別に、「2023年の国際大会(個人種目)で中国トップ3選手に勝利」「Tリーグ(2023年12月末までの試合)での勝利」でもポイントが加算される。中国トップ3の選手には7ゲームマッチでの勝利で15点、5ゲームマッチの勝利で10点が加算。Tリーグでは1勝につき1点、ビクトリーマッチ1勝につき1点が加算される。

 首位の早田ひなが700.5点(11月19日発表時点。以下同)で独走。実質、残りひとつとなったパリ五輪シングルス出場枠をかけた争いは、436点で2番手につける平野美宇と、411.5点で3位の伊藤美誠による一騎打ちの様相を呈している。果たして、同じ2000年生まれのライバルとして卓球界をけん引してきたふたりの五輪出場権争いの行方はどうなるのか。


パリ五輪の女子シングルス枠を争う伊藤(左)と平野 photo by Itaru Chiba/AFLO

【悔しさを乗り越えて成長した平野】

 東京五輪ではリザーブメンバーだった早田が首位を快走する一方で、同大会で団体銀メダルに貢献した平野と、混合ダブルスで金メダル、シングルスで銅メダルを獲得した伊藤は紆余曲折の選考レースを送ってきた。

 現在2位の平野は、昨年3月に行なわれた第1回選考会「2022 LION CUP TOP32」の準々決勝で敗れると、順位決定戦でも連敗して8位。東京五輪では、石川佳純とのデッドヒートの末にシングルス出場を逃したが、その雪辱を果たすための選考レースでスタートからつまずいた。

 その後も波に乗り切れない時期が続いたが、昨年の第3回選考会「2022 全農CUP TOP32船橋大会」を制すると、今年に入って徐々に調子を上げていく。6月の「Tリーグ NOJIMA CUP 2023」を制し、7月に「WTTコンテンダーザグレブ」では世界ランキング1位の孫穎莎(スンイーシャ)を下して優勝。中国トップ3の選手に勝利したことで選考ポイントも加算され、自身初の五輪シングルス出場をグッと引き寄せた。

 平野といえば、"ハリケーン・ヒラノ"と呼ばれて脚光を浴びた高速卓球が持ち味だったが、中国勢を中心に対策が進み、東京五輪のシングルス出場も逃すなど苦しい時期を経験。それを経て、スピード一辺倒ではない緩急を織り交ぜた攻め、相手を見ながらコースに打ち分けるといった選手としての引き出しを増やし、精神的にもたくましくなった。

【伊藤は満身創痍の状態から巻き返し】

 一方、現在3位の伊藤は平野以上に苦しい時期を過ごしてきた。昨年の第2回選考会「2022 全農CUP TOP32福岡大会」こそ優勝したものの、今年に入って腰と臀部(でんぶ)のケガに悩まされた。1月の全日本選手権ではノーシードの高校生に完敗し、まさかのベスト16で敗退している。

 第4回選考会「2023 全農CUP 平塚大会」でも2回戦で敗れ、選考レースでは7位に後退。満身創痍の状態のまま、切れ目なく続いていく過酷な戦いに涙を見せるシーンもあるなど、3大会連続の五輪出場に黄信号が灯ったかに見えた。

 しかし、徐々にコンディションを戻すと本来の実力を発揮。南アフリカで行なわれた5月の世界卓球でベスト8に進出し、7月に開催された第5回の選考会「2023 全農CUP 東京大会」では平野との激闘を制して決勝に進出した。決勝では早田に敗れたが、復調をアピールして充実感を滲ませた。

 伊藤にとって、平野に対して大きなアドバンテージとなるのは豊富な経験値だ。五輪に2大会連続で出場し、合計4個のメダルを獲得。厳しい局面を乗り越えてきた場数が、プレッシャーがかかる選考レース終盤の戦いでも生きてくるだろう。

【残り2戦で得られるポイントは?】

 ただ、今大会の女子の優勝候補筆頭はやはり早田だろう。

 序盤から安定感ある戦いでポイントを積み重ねてきた早田は、5月の世界卓球シングルスで銅メダル、9月から10月にかけて行なわれた「第19回アジア競技大会」では銀メダルを獲得。世界ランキングでも伊藤を上回り、日本勢の最高位をキープしている(11月21日更新のランキングで早田が5位、伊藤が10位)。拮抗した展開でもメンタルの強さが光り、今や日本女子のエース的な存在になった。

 国内では頭ひとつ抜けており、2位の平野とは264.5点、3位伊藤とは289点の大差がついている。第6回選考会の優勝者に与えられるポイントは100点、来年の全日本選手権の優勝者に与えられるポイントは120点のため、他の選手が中国トップ3選手を撃破するポイント加算の可能性はあるものの、パリ行きはほぼ確実だ。

 出場回避も考えられた中でエントリーした今大会は、さらなるレベルアップに向けた戦いとなるが、平野と伊藤も優勝争いに高いモチベーションで加わってくるだろう。24.5点の僅差で伊藤をリードする平野は、直近のTリーグ終了後、「コンディション的には普通くらい」とコメントした。

 平野は11月4日のTリーグで、今季初のシングルス初黒星。翌週のTリーグでも2ゲームを先取される試合(結果は4−2と逆転)があるなど、調子は「普通」という言葉どおりかもしれない。ただ、「これから全日本(選手権)までの戦いは気持ちの勝負。調子がよくても悪くても気持ちで勝敗が変わる」とも語っていたように、メンタル面を整えて大会に臨みたいところだ。

 それに対して伊藤は、11月5日までドイツで行なわれた「WTTフランクフルト」でベスト8に入って以降、Tリーグの試合にも出場していない。選考会に照準を合わせ、コンディションを整えている可能性もある。

 伊藤にとって今大会のヤマ場となりそうなのは準々決勝。順調に勝ち上がれば、そこで世界ランキング14位の張本美和と対戦することが濃厚だ。平野との直接対決があるとしたら準決勝になるが、その前に勢いのある若手を退けられるかにも注目が集まる。

 今回の第6回選考会では、優勝者から4位まで順に100点、90点、80点、70点とポイントが与えられる。来年1月の全日本選手権では優勝者に120点、2位は100点、ベスト4進出者には80点が加算される。中国トップ3選手に対する勝利ポイントやTリーグでの勝利ポイントもあるため、最終決着は全日本選手権にもつれ込むだろうが、今大会での早期敗退は致命的だ。

 2023年最後の選考会で、同級生として長くしのぎを削ってきた平野と伊藤にどんな展開が待ち受けているのか。来年の全日本選手権を占う意味でも、2人の戦いから目が離せない。