日産には今やスカイライン1車種しかセダンのラインナップがない(写真:日産自動車)

最近の自動車市場ではセダンの人気が下がり、各メーカーとも車種を減らしている。三菱のようにセダンを扱わなくなったメーカーもあるが、直近でセダンの廃止が著しいのは日産だ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

コンパクトクラスでは、トヨタ「カローラ」のライバルだった「サニー」、その後継に位置付けられた「ティーダラティオ」や「ラティオ」、ヨーロッパ車のような雰囲気の「パルサーセダン」などが用意されたが、今ではすべて廃止されている。

ミドルサイズでは、伝統の「ブルーバード」とその後継車種になる「シルフィ」、優れた走行安定性でクルマ好きに人気の高かった「プリメーラ」などが過去のクルマになった。

Lサイズでは、「セドリック/グロリア」とその後継の「フーガ」、Lサイズの割に価格が比較的求めやすかった「ローレル」と「ティアナ」、高級セダンの「シーマ」やVIPモデルの「プレジデント」が廃止されて久しい。


2020年に生産終了となったティアナ(写真:日産自動車)

その結果、日産で現存するセダンは「スカイライン」のみとなった。

販売台数は月平均174台も仕方なし

そのスカイラインも、マイナーチェンジを行うたびにパワートレーンのバリエーションを縮小。現在はハイブリッドも廃止され、V型6気筒3.0リッターツインターボのみとなっている。

また、以前のスカイラインハイブリッドには、ステアリングホイールから手を離しても運転支援を受けられる「プロパイロット2.0」が搭載されたが、ハイブリッドと併せて廃止された。現行型に装着されるのは、ベーシックなインテリジェントクルーズコントロールだ。


スカイラインとして13代目となる現行型は、2013年のデビュー(写真:日産自動車)

衝突被害軽減ブレーキの「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」も旧タイプのままで4輪車しか検知できず、歩行者や自転車には非対応。450万円を超える高価格車にもかかわらず、衝突被害軽減ブレーキの性能は軽自動車の「デイズ」を下まわる。

これでは好調に売るのも難しく、2023年の1カ月平均登録台数は174台にすぎない。

他社はどうか。トヨタは一部のダイハツ製OEMを除くと軽自動車を用意せず、小型/普通乗用車の国内シェアが50%を上まわる。セダンも相応にそろえるが、車種の数は減った。

「カムリ」は2023年12月に生産を終えるため(その後にフルモデルチェンジする可能性もあるが)、これを除くと残るのは「カローラセダン」、先代型を継続生産する5ナンバーサイズの「カローラアクシオ」、11月2日に発売された「クラウンセダン」、VIPセダンの「センチュリー」、そして燃料電池車の「MIRAI」の5車種となる。

その売れ行きはどうかというと、やはり低迷している。


現行型のカローラセダン。2019年より販売されている(写真:トヨタ自動車)

カローラは販売台数ランキングで上位に位置するが、これはSUVの「カローラクロス」やワゴンの「カローラツーリング」を含むシリーズ合算であるため。

2023年のカローラの販売内訳を調べると、44%をカローラクロスが占めている。これに続くのがカローラツーリングで26%だから、この2タイプで70%だ。

カローラセダンの販売比率は10%、カローラアクシオは4%で、残りの16%が5ドアハッチバックの「カローラスポーツ」「GRカローラ」、アクシオのワゴンタイプである「カローラフィールダー」だから、セダン系の販売はカローラシリーズのうち14%しかないことになる。

クロスオーバー化したクラウンの成果

このようにトヨタでもセダンは売れ行きを下げたが、SUVのように車高を高めた「クラウン クロスオーバー」は、後部に独立したトランクスペースを備えたセダンボディだが販売は堅調だ。


2022年に新生クラウンの第1弾として登場したクラウン クロスオーバー(写真:トヨタ自動車)

2023年の1カ月平均登録台数は約3600台だから、先に述べたカローラツーリングと同程度になる。クラウン クロスオーバーの売れ筋価格帯が500万円前後に達することを考えると、立派な販売実績だろう。Lサイズセダンでも、クルマの造り方次第では売れるのだ。

また、トヨタが展開する上級ブランドのレクサスには、今でもセダンが相応に用意される。FR(後輪駆動)のプラットフォームを使ったセダンには、ミドルサイズの「IS」と上級の「LS」があり、その中間にはFF(前輪駆動)で車内の広い「ES」がラインナップ。

しかし、2023年の1カ月平均登録台数を見てみると、ISが780台、LSは200台、ESは330台と少ない。ISの発売は2013年と古く、大きな改良を受けても商品力は下がっている。

LSは全長が5235mm、全幅は1900mmに達するため、販売店から「先代LSのお客様が購入したくても、車庫に入らない場合もある」という話が聞かれる。その意味でESはLSよりもコンパクトで車内は広く、実用性を高めてはいるが、雰囲気は少し地味だ。


レクサスLSは先代まであったショートボディがなくなりロングボディのみとなっている(写真:トヨタ自動車)

このような状態だから、レクサスで最も多く売れる車種はSUVの「NX」で、1カ月平均登録台数は約3900台にのぼる。それでもレクサスは、今ではセダンが充実するブランドだ。

スバルは「インプレッサ」のセダン「G4」を廃止して、現行型は5ドアハッチバックのみになった。それでも水平対向4気筒2.4リッターターボエンジンを搭載するスポーツセダンの「WRX」は健在だ。

セダンに必要なのは「カッコ良さ」

このように見ると、セダンが実用性で選ばれる日本車の中心カテゴリーだった時代は終わり、今では個性派に移ってきた。そのためにファミリー向けをはじめとする保守的なセダンは苦戦して、日産は大半の車種を廃止。トヨタもカローラセダンが低迷して、スバルはインプレッサのセダンをやめた。

その代わり日産は、スポーツセダンの象徴とされるスカイラインは残した。トヨタはクラウン クロスオーバーの売れ行きが堅調で、上級ブランドのレクサスに3車種を設定する。スバルは高性能なWRXを用意する。


スバル WRX S4。派手なスタイリングからも走りを想起させる(写真:SUBARU)

従来の典型的なセダンはもはや飽きられて売りにくいが、走行性能や運転の楽しさ、乗り心地や快適性、カッコ良さに重点を置けば、今でも売れる余地があるわけだ。

この傾向はセダンの商品特性とも関係している。セダンは、SUVやミニバンに比べて天井が低く、重心も抑えられている。後席とトランクスペースの間に骨格があり、ボディ剛性を高めやすい。トランクスペースは居住空間から隔離されるため、後輪が路上を転がる音も乗員の耳に届きにくい。

これらの相乗効果により、セダンは走行安定性、乗り心地、静粛性を向上させるのに有利だ。言い換えれば、運転の楽しさや快適性を重視するクルマに適しており、優れた走行安定性は危険回避性能の高さにもつながるから、ユーザーの関心が集まる安全性も向上させやすい。

先に挙げたスカイラインやWRXも、セダンの特徴を運転の楽しさに生かしており、レクサスLSやESは快適性を高めた。クラウン クロスオーバーやレクサスISは、楽しさと快適性の両方を兼ね備える。

なお、セダンは走行安定性や危険回避性能が優れていることから、走行速度の高いヨーロッパでは今でも堅実に売れている。


BMW 5シリーズ。写真はEVモデルのi5(写真:BMW)

メルセデス・ベンツであれば「Aクラス」から「Sクラス」、VIP向けの「マイバッハ」まで、BMWなら「2シリーズ グランクーペ」から「7シリーズ」まで、ヨーロッパメーカーは幅広いサイズのセダンを用意している。

売れ筋カテゴリーとはならなくても、軽自動車/コンパクトカー/ミニバン/SUVでは実現できない商品開発を行えば、独自の価値を生み出せるのだ。事実、そのような新しいセダンが求められている。

かつての「カリーナED」に似ている

例えば「プリウス」は、リアゲートを装着する5ドアハッチバックだが、トヨタのホームページではセダンのカテゴリーに分類される。全高を1430mmに抑えたクーペ風のスタイルとすることで、デザイン性のみならず、低重心と高剛性のボディによる優れた走行性能や運転の楽しさも味わえる。


居住空間よりもスタイリングを重視した現行プリウス(写真:トヨタ自動車)

いわば「クーペに近い価値観」を備えたセダンだ。かつてトヨタには、「カリーナED」というクーペ並みに背の低い4ドアセダン(正確にはハードトップ)があり、よく売れた。一過性の流行で終わったが、実はセダンの将来を予見したクルマでもあった。

そして今のヨーロッパ車には、メルセデス・ベンツ「CLA」「CLS」、BMW「4シリーズ グランクーペ」「8シリーズ グランクーペ」のように、カリーナEDの手法を踏襲したような背の低い4ドアボディも存在する。


Aクラスセダンとは別にラインナップするクーペスタイルのCLA(写真:メルセデス・ベンツ日本)

シューティングブレークと呼ばれるデザイン性を重視した背の低いワゴンも含めて、クーペ風のセダンを適度なボディサイズで用意すると、新たな需要を掘り起こせる可能性があるのだ。

では、販売店ではセダンをどのように見ているのか。トヨタのディーラーでは以下のように返答された。

「クラウン クロスオーバーは、デザインこそ大幅に変わったが、先代クラウンからの乗り替えも多い。依然として高齢のお客様が目立つが、クロスオーバーの外観にも理解を示されている。セダンがダメなのではなく、マンネリ化させないことが大切だと思う」

たしかに1990年頃までは、「マークII」やクラウンなどの上級セダンも背の低いハードトップを用意して、デザインや機能に多様性を持たせていた。それが2000年頃からはミニバンの台頭もあり、セダンのデザインは変化が乏しくなった。2021年のクラウンの販売台数は、1990年のわずか10%だ。


1987年に登場し、ヒットモデルとなった8代目クラウン(写真:トヨタ自動車)

コンセプトとその表現手段になるデザインは、常に新しく進化させる必要があり、まさにマンネリ化させないことが大切になる。また、日産の販売店では以下のような話が聞かれた。

「最近の日産は車種が大幅に減った。特に『キューブ』のようなコンパクトで背の高いクルマは必要だ。キューブは左右席の移動もしやすく使いやすいから、後継車種を待っているお客様も多い」

今の日産には「マーチ」もなくなり、コンパクトクラスは「ノート」1車種でカバーしている。では、セダンはどうか。


シリーズハイブリッドのe-POWERのみとなった現行型のノート(写真:日産自動車)

「スカイラインには根強いファンが多いため、今後も進化させてほしい。ただし、ボディがかなり大きく、価格も高くなったから、もう少しコンパクトなセダンがあると喜ばれる。後席の居住性や荷室を重視するお客様はミニバンやSUVを選ぶから、セダンでは実用性の優先順位が下がった。少々狭くても、カッコ良さと走りの楽しさ、運転のしやすさが大切になる」

セダンを突き詰める余地はまだある

2023年9月には、トヨタ「センチュリー」にSUV風の新しいタイプが加わった。通常なら「センチュリー クロスオーバー」といった車名を与えられそうだが、それが見られない。むしろ、従来型をセンチュリー(セダン)と表記しており、主役がSUVタイプに入れ替わったようにも受け取れる。


トヨタはSUVやクロスオーバーではなく「新しいセンチュリー」と呼ぶ(写真:トヨタ自動車)

センチュリーをSUV風に進化させるのも活性化の手段だが、もう少しセダンを突き詰める余地はあるだろう。クラウン クロスオーバーは、セダンボディを踏襲しながら、新しい進化を見せた。セダンには先に述べた低重心/高剛性/低騒音という特徴があり、それを生かした趣味性の強いクルマ造りにチャレンジしてほしい。セダンを諦めるのはまだ早い。

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)