『ザ・クリエイター』を引っ提げ来日したギャレス・エドワーズ監督

写真拡大

 低予算SF映画『モンスターズ/地球外生命体』でブレイクし、『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』といった大作映画のメガホンを取ったギャレス・エドワーズ監督が来日インタビューに応じ、オリジナルSFに原点回帰した最新作『ザ・クリエイター/創造者』(全国公開中)での経験や、苦手意識がある脚本作業について語った。

 エドワーズ監督が『ローグ・ワン』でタッグを組んだクリス・ワイツと共に脚本を執筆した本作は、人類とAIの戦いが勃発した近未来が舞台のSFアクション。人類を滅ぼす兵器を生み出した創世者=クリエイターの暗殺任務に参加する主人公・ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が、超進化型AIの少女・アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)と出会い、やがて人間とAIの間に深い絆が芽生えていく。

 「監督デビュー作を撮る時、大体の人は超低予算になります。初めての映画ですから。制限も多いですし、考えることも山ほどあります。でも、それは実に開放的なことで、お金に縛られることなく、かなりクリエイティブな体験を得ることができるのです」と低予算映画の良さについて持論を述べたエドワーズ監督。インディペンデント映画を経て、『ゴジラ』『スター・ウォーズ』とブロックバスター作品を連続で経験できたことは「とても幸運なことでした」と振り返る。

 「予算が限られていることの良い点と悪い点を書き出した後、大作映画に挑むと、価値観が一気に逆転します。簡単だったことが難しくなり、その逆も起こります。インディペンデントの醍醐味とブロックバスターの良さを合わせた作品こそ、私にとっての究極の理想なのです。両者を組み合わせたプロセスを、私は長い時間をかけて模索しているのです」
 
 『ザ・クリエイター』は、大作SF映画としては破格の8,000万ドルで製作された。VFXのために予算をセーブし、グリーンスクリーンは使わず、日本を含む世界8か国の大自然を生かした。「私が『ローグ・ワン』を撮った時は、ほんのわずかなロケでしたが、そこにはリアリズムが表れていました。実際の場所で撮影し、25パーセントほどCG処理すれば、観客はあたかも現実世界で起きているSF映画だと錯覚します。人間の脳を使った、より賢くて壮大なトリックです」

 ロケで撮った映像に後からVFXを加えるテクニックは、『ローグ・ワン』の経験が応用されたものだ。「当時は大反対されたことですが、私がロンドンに引っ越してこの業界に入った時、毎日電車通勤だったのですが、いつも通っていた駅が急に近未来に見えてきたんです。それ以来、『この駅でSF映画を撮ったらどうだろう?』と考えるようになりました。その後、『ローグ・ワン』の監督に就任して、高額なセットを建設することが難しいと言われた時、あの駅を思い出したんです。誰もが私のことを狂ってるという目で見ていましたが、駅での撮影は上手く行きました。あの時の経験が『ザ・クリエイター』でも生かされています」

 監督・VFXアーティストと多彩なエドワース監督だが、唯一脚本を書くことは苦手とのこと。プロダクションノートでは、「脚本の執筆というものが大嫌いなのです。世界一最悪な宿題を出された気分になります」と告白している。

 「幼少期の頃は、想像を膨らませれば、脚本を書くことなんて必要ありませんでした。しかし、いざ大人になって仕事を始めると、観客を2時間飽きさせずに虜にする完璧な脚本を執筆することが、いかに大変かを知りました。『ストーリーって何なんだ? なぜ語る必要がある? それって何なんだ?』と本質まで考えるようになりました」

 そんなエドワース監督にヒントを与えたのが、彼が映画業界に入るきっかけを与えた『スター・ウォーズ』だった。「ジョージ・ルーカス監督は、神話に夢中になっていました。特に神話学者ジョセフ・キャンベルの主著『千の顔をもつ英雄』です。いいストーリーを語る大きなカギは、直線ではなく、時計のように円形で見ること。12時から3時は第一幕、3時から9時までが第二幕、9時から12時が第三幕というように、脚本は三幕構成でできています」とハリウッドの一流脚本家も活用する脚本術を明かす。

 特に重要なのが「第二幕」だとエドワーズ監督。「第二幕はキャラクターの冒険を描くパート。第二幕が欠落して、第一幕いきなり三幕へと飛ぶ映画は絶対に失敗します。キャラクターの変化が見えないからです」

 映画を製作する度に、ストーリーテリングに関する学びを得る。その繰り返しは「ギャンブルにハマった人」みたいだとエドワーズ監督は表現した。「カジノを出た時に『よし、次はこうして勝つぞ』と反省して、また勝負に戻る。映画も同じように、反省して次の作品に挑みます。私にとって、完璧な脚本を執筆した時が、映画製作をやめる日かもしれません。挑戦が成長するための学びを与えてくれますから」(取材・文:編集部・倉本拓弥)